2年縛りなし、5分無料通話と20GBのデータ通信量が付いて、月額税抜き2980円というNTTドコモの新料金プラン「ahamo」の衝撃から1ヶ月以上が経過。SoftBankは「SoftBank on LINE」、auは「povo」をそれぞれ発表し、携帯三大キャリアによる、これまでの料金体系を大幅に見直したプランが出そろった。
今現在判明している情報でいえば、これらのプランはスマホを使う大半の人にとって必要十分かつ安価なプランである。
確かに、データ通信量が20GBでは絶対に足りない人や、キャリアメールが必要な人、家族割などの旧来の割引価格の方が全体として安くなる人、3G回線しか来ていない地域の人、店舗や電話でのサポートを必要とする人など、変えない方がお得な人もいる。しかし、大半の人にとっては移行して一切損がないと言っていいプランとなっている。
「非常に紛らわしい」武田総務大臣の指摘に疑問

ところが、15日の記者会見で、500円安い料金を打ち出したpovoに対し、武田良太総務大臣が「非常に紛らわしい発表だと思う」と発言した。(*1)
これは一体どういうことなのか。
記者が武田大臣に「KDDIは最安値をうたっているが、通話料金(5分無料通話)を含めると実質他社と横並びになっている。この『最安値』という表示方法に対する考えを聞きたい」と質問している。
これに対して武田大臣が非常に紛らわしい発表だと返した上で「通話料が含まれていないことによって2480円」なのか「単に(他社と)同じ条件で2480円」なのか、ハッキリとしていないことを指摘。国民に対して「他社よりも一番安い、500円安い2480円だ」と、他社と同じ条件だと思わせる手法だとして、「私は非常に残念だと思っております」「利用者が選択しやすい、分かりやすい説明の仕方をしっかりやっていただきたい」との旨を答えた。
僕としてはまず記者の質問が「料金横並び」「最安値」という点に固執しすぎたものであると考えている。また、povoは消費者に対して「最安値」を前面に押し出した宣伝をしておらず、記者の質問は的を射たものではない。
ただ、それを差し引いても、武田総務大臣の回答は、大臣自身が実際のプランの内容を曖昧にしか理解していないであろうことが露呈するものだった。
まず、ahamoやSoftBank on LINEの料金は、細かな違いはあれど、一番メインの部分は20GBのデータ通信量と、5分無料通話が付いて月額2,980円である。一方でpovoの料金は20GBのデータ通信量が付き、そして5分無料通話は付かずに月額2,480円である。
単純に「povoのプランは5分無料通話が付いていない分、500円安い」のである。povoでは5分無料通話はオプションとして月額500円で提供されている。さて、これのどこかが「紛らわしい」だろうか?
仮にpovoの料金体系が「紛らわしい」と言われるとすれば、それは「通話とデータ通信量が20GB付いて月額2480円」と大見出しを付けた上で「(ただしネット利用料 別途月額500円必須)」と、ものすごく小さい字で書いてあるような料金体系だった場合だろう。
しかし今回の料金体系は、5分間通話無料という不要な人も少なくない機能を、標準セットに組み込むのではなくオプション扱いにすることで他社よりも500円安い価格を実現したのだから、一切紛らわしいと言われる筋合いはないのである。
そもそもahamoは最初に衝撃的なプランを提示したことで、これまでのdocomoというキャリアのイメージを突き崩した。SoftBank on LINEも「LINE」という、もはや生活においてなくてはならないSNSをデータ通信量フリーにすることで、他社との差別化をした。
そうした意味で、サービスの内容は各社工夫できる範囲で違っており、料金こそ横並びでも、決してサービス内容は横並びではない。キャリアも消費者にとって自社のサービスを選ぶだけの価値があるとアピールするために、分かりやすい料金体系をと工夫をしているのである。
分かってる人だけが得をした従来の携帯料金プラン

では、旧来の携帯電話時代から続く料金の「紛らわしさ」とは何だったのか。
それは「月々○千円!」と宣伝では大きく前面に出ているスマホ料金が、実際にはウェブ使用料や2年縛りや家族との契約や端末補助や1年限りのキャンペーン割引といった、特別な条件による割引を全部含めて初めて達成できる料金だったという点ではないだろうか。
その結果、契約した当初は期待通りの料金で使えても、長い期間、同じキャリアで同じスマホを同じように使い続けると、各種割引が失われて、月額料金が高くなるという状態になっていた。
だから分かっている人は、使っているキャリアや携帯に不満がなくても、2年ごとにキャリアを変えて割引を適用し、携帯を買い換えることで端末購入補助を受けていた。そうすることで最新機種が維持でき、料金も安く抑えることができた。
中には携帯ショップ独自のキャッシュバックを上手に利用して「使わない携帯を何台も契約して、お金を儲けている」という人もいた。だが、端末の割引にしろキャッシュバックにしろ、割引を実現するためのお金はキャリアを変えずにひとつの携帯を長く使う人たちから出ているお金である。
携帯電話をどんどん買い換えたり、キャッシュバックのために使いもしない携帯を購入する人ばかりが得をして、そうでない人は割高な料金を支払い続ける。そうした顧客間の不公平をなくし、公正な競争を実現するために、これまで携帯業界に様々な指導をしてきたのが総務省である。