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「日本が全く認めていないと当事者さえも勘違い」 実は正直者が損をする? グローバル時代に考えるニッポンの“二重国籍”問題

 日本から海外に渡り外国籍を取得した人たちが日本の国籍を持てないのはおかしいと訴えた裁判で、原告の請求が棄却された。

 訴えていたのは日本からスイスなど海外に移住した8人。仕事や生活のため移住先の国籍を取得するなどしていた彼らが国に求めたのは、自分たちが日本国籍を持っていることの確認など。しかし21日、東京地裁は「原告の請求を棄却する」という判決を出した。元々、日本国籍を持っていたのになぜなのか。

【映像】二重国籍を事実上容認? 本音と建前は

 実は、日本の国籍法には「自分の希望で外国籍を取得した場合は、日本国籍を失う」という規定がある。原告側はその国籍法自体が、国籍を変更する自由や幸せに生きる権利を保障した憲法に違反していると訴えていた。

 しかし、東京地裁は「個人に複数の国籍がある場合、国家間の摩擦が生じる恐れがある」「国籍法の目的は合理的であるといえる」とした。つまり、日本では“二重国籍が認められていない”のだ。

 人やモノが行き交う、グローバルな現代における国籍とは一体何なのか。22日の『ABEMA Prime』で議論した。
 

■家族でバラバラの国籍 「有事の際に自分や家族を守れるか」

 今回の判決について、原告弁護団の1人である弁護士の近藤博徳氏は「一言で言って、国の主張を全面的に採用して、原告の主張を全く否定してしまったという内容だ。海外で国籍を取る必要がありかつ日本国籍を持っていたいという、そういう人たちの切実な希望・願いを全く考慮していない点が一番の問題だと思っている」と話す。

 現在は日本国籍だが、長年ドイツに住み国籍離脱を考えている山片重嘉さんのケースでは、山片さん自身はドイツ国籍を申請中(取得後日本国籍は失う予定)で、妻は日本国籍、15歳の長女は日本とドイツの二重国籍、9歳の次女はドイツ国籍と、家族でも国籍はバラバラだ。

 経緯について山片さんは「私はドイツに20年ほど暮らしていて、永住許可を持っている。8年以上親が暮らしていると、生まれた子どもは自動的にドイツ国籍を取得するよう2000年から法律が変わったため、長女はドイツで生まれて二重国籍になっている。長女はすでに日本国籍の選択届を出しているので、日本国籍も確定している上でドイツ国籍を維持している状態だ。次女が産まれた時、出生後3カ月以内に出生届を(日本の)領事館に出すという規定を知らなかったために日本国籍を取れなかった。近藤先生の裁判、別の裁判でも最高裁で判決が出て敗訴しているので、これは覆らないと思う」と説明。

 そこから長年国籍に対する疑問を持って調べていた山片さん。「私はドイツで自営業をしているが、ドイツの国籍を持てばEUのどこの国でも居住して仕事をすることができる。仕事をする上で、他の国でも拡大するという時にはその方が楽だ。一方で、有事の際に自分や家族を守れるかどうかという点を考えた。

何かあった時に、どこの国もまず自分の国民を守るだろうから、マイノリティの外国人でいるという不利な点からどうやって家族を守るか。(ドイツへの)帰化申請はコロナの前だったが、その後コロナによって飛行機がみんなキャンセルになって、外国から戻れないドイツ人約2万人を政府が救済するという措置があった。その時に外務省のサイトを見たら、やはりドイツ国籍を持っている人が優先、滞在権を持っている外国人は二の次ということだった。

あとは選挙権の行使。私たちはここに住んで税金を払い、そして子どもたちが育っていく国なので、選挙権を行使したい。ドイツでもAfD(極右政党「ドイツのための選択肢」)が議席を伸ばすなど右翼の力も強くなってきたりしていて、外国人としてはなんとか守りたいという部分もある」。

 これらを天秤にかけ、ドイツへの帰化を申請した山片さん。ただ、日本の国籍を失いたくない気持ちもあるという。「ドイツに住んでこれからも仕事をしていくなら、ドイツ国籍があった方がいいだろうという合理的な理由で決めたので、そういう意味ではデメリットはあまりないと考えていた。

ただコロナで、配偶者であっても外国人が日本に入国できないということが出てきた。私たち家族も日本に一時帰国を計画していたが、そうすると次女は外国人なので入れないかもしれず、特別に許可を取らなくてはならないということが出てくる」。
 

■“日本が全く認めていない”と当事者さえも勘違い?

 重国籍を認めているのは、アメリカやブラジル、ロシア、ドイツなど61の国や地域。しかし、近藤氏は「『重国籍を認めている』という言い方は必ずしも正確な表現ではない。例えば、両親の国籍が違うとか、その国で生まれた人には国籍を与えるといったケースで複数国籍になるケースはよくある。それをどの程度広く認めるか、制限的に使っているかの違い。日本も実は重国籍を一定の範囲で認めている」と指摘する。

 日本では「日本人が意図的に外国籍を取得」「日本人が国際結婚などで自動的に相手国の国籍を取得」「外国人が日本国籍に帰化」などの場合、重国籍となる。

 日本が重国籍を認めない理由について、近藤氏は「実際、今日本に重国籍の人はたくさんいるし、これからもどんどん増えていく。今回の裁判で重国籍は問題だと言われているが、逆に重国籍だったから問題が起きたというのは一度も聞いたことがないし、もっと重国籍者を減らせという議論になったこともない。何を悪いと言っているのか正直よくわからない」と日本が重国籍を認めない理由について、疑問を口にする。

 国籍法は、兵役義務などの観点から重国籍を認めてこなかった明治憲法下の内容に起因するという。近藤氏は「確かに明治憲法下のころ日本は兵役があった。そして、人の移動もそんなに多くなかった。一度海外に行ってしまうと日本に戻って来ず、現地に骨を埋めることが多かった。そうしたこともあって、片一方の国籍を持っていればいい、あっちだけで十分だという発想になりやすかったのだろう。

しかし、今はそういう時代ではないし、国としても国際人を育てようとなっている。国際人を育てるということは、海外にも行くし日本にも帰ってくるしで、両方に地盤を置いて活躍する。日本国籍を奪ってしまったら日本に帰って来れなくなり、筋の通らない話だと思っているので、外国に帰化した人から日本国籍を奪うのは逆にマイナスになっていると思う」との考えを示した。

 フランスを拠点に活動する2ちゃんねる創設者のひろゆき氏は「現実問題として『二重国籍を捨てろ』と言われない。知り合いでパスポートを両方持っている人が、入国したパスポートが違うと言われて出し直しても現場は別に咎めたりしない。実際問題、“国籍を捨てなければいいじゃん”というだけで全て解決する気がする」と指摘する。

 山片さんは「実際に海外に移住している方の悩みとしては、例えば国際結婚をしている方だと普通に子どもは二重国籍を持っている。ひろゆきさんがおっしゃるように両方持っていればいいと思う人もいるが、今回の裁判の結果をどこで見ても『二重国籍を認めず』というタイトルになっていたと。それだけを見ると、日本が全く二重国籍を認めていないのではないかと当事者さえも勘違いしてしまって、自分はお父さんの国籍かお母さんの国籍かのどちらか選ばなくてはいけないと悩んでいる人がいたりする。そうしたことは問題」との見解。

 近藤氏は「国籍選択はしなければいけないが、日本国籍を選択して外国籍も捨てないということを法律が認めている。それを皆さんに理解してもらって、国籍の選択宣言をしてほしい。そうすれば複数国籍を持ち続けることができるということを一番言いたい」とした上で、「山片さんの話にもあったが、二重国籍を認めないと一括りに言ってしまうのは非常に危険なところがある。例えばアメリカの場合は、アメリカ人が日本国籍を取得してもアメリカ国籍はなくならない。

外国人が日本国籍を取得する場合と日本人が外国籍を取得する場合を同じに考えていいのかと、日本人が外国籍を切って捨てなければいけない理由が本当にあるのかというのは全然違う問題なので、考えていきたい。

外国籍を取得して複数国籍になった上で、日本国籍がいらないなら離脱してもらえばいいし、日本国籍が大事なら外国籍を捨ててもらえばいいし、両方必要なら選択宣言をして両方持ち続ければいい。それが一番シンプルで合理的な制度だと思う。そうなってくれればいい」と訴えた。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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