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自殺がなくなった方が、「社会のコストパフォーマンス」がいい~自殺対策支援センターライフリンク副代表・根岸親氏インタビュー~

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ライフリンク副代表の根岸親氏(撮影:濱田敦子)
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BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。前回は、自殺対策に取り組むNPOライフリンクの副代表である根岸親氏に日本における自殺問題とその対策についてお聞きしました。後編となる今回は、近年増えている「若者の自殺」を中心にお話をお伺いしました(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

若者の自殺だけが増加傾向にある


―自殺と言うと、年配の方がリストラや事業の失敗を契機にするものというイメージがあるのですが、最近では若い方の自殺も増えています。データとしては、どれぐらいなのでしょうか?

根岸親氏(以下、根岸): 1997年から98年にかけて、自殺者数が急増した時には、全世代的に自殺率が上がりました。その後、年間自殺者3万人超という状態が続いているのですが、世代別にみると、ここ数年、中高年世代の自殺率は徐々に下がってきています。一方で、20代と30代の自殺率は増加傾向が止まらず、急増後の98年と比べても20代はさらに30%、30代は20%の割合で、自殺率が上昇しているのです。(※「平成24年版自殺対策白書」

また、15~34歳までの世代の死因の一位が自殺です。先進7か国では、そういう状況にあるのは日本だけで、20代を見てみると亡くなった方のほぼ半数の死因が自殺です。人数にすると2010年に15~34歳の自殺で亡くなった方が5,373人。それに対して、事故で亡くなった方は2,061人です。

また、これは今年1月に内閣府が実施した調査ですが、「本気で自殺したいと思ったことがあるか」という質問に対し「ある」と答えた割合が最も多かったのが20代です。また、20代の10人に1人は、「最近一年以内に自殺したいと考えたことがある」と答えています。統計的にはこういう状況です。(詳細は内閣府自殺対策推進室HPへ

―こうした状況の背景には、何があると思いますか?

根岸:私たちも学生と話をする機会があるのですが、彼らと話していて、「死にたい」というよりも「生きるのをやめたい」「消えてしまいたい」という表現をする人が多いように思います。

確かにリストラや多額の借金といった問題を抱えることはまだ少ないですが、最近は「就活を要因にして…」というニュースで増えていることからもわかるように”ギャップ”が激しくなっていると思います。

つまり、今の就職活動では、非常に個性が求められている。「あなたはどんな特別な経験をしたことがあるんですか」「あなたのオリジナリティーは」というような感じですね。それに対して、中学、高校から大学にいたる期間は、個性を発揮せずに画一的に周囲にあわせなければならないような同調圧力は依然として強い。昔はそうやって我慢していった先には安定した未来があったのに、今はそうやって我慢した先には、妙な個性を求められる未来が待っている。いきなり無理をさせられるような構造があり、さらにその先には会社に入っても急に解雇されたり、会社が倒産したりといったニュースが溢れています。

そうすると何か問題を抱えたときに、「そんなしんどい思いまでして生きていたくない」という思いを抱きやすくなる。社会に対する根源的な不信感を感じやすい、そんな状況になっていると感じています。

―特に若者の場合は、「甘え」という文脈につながりやすいと思います。自殺者全体に対しても、そういう声がありますが、若者の場合は特にそれを指摘されやすい。こうした言説に対しては、どのように考えていますか?

根岸:私たちも年配の方が多く集まるようなところで講演をすると、そういうご意見をいただくときもあります。「戦後の厳しい時代に比べれば何を言っているんだ」と。しかし、時代背景がまったく違います。「頑張れば報われる」「今日より明日はきっとよくなる」という期待感があるからこそ、努力できていたという面もあると思います。今は努力しても、その先がどうなるか怪しい。「ここを乗り越えれば、次が見える」というのであれば、粘れるかもしれませんが、そういうものが無い状態だとかなり厳しいのではないでしょうか。ですから、単純に「弱いからじゃないか」という指摘には納得できないですね。

また、「個人の問題」として認定した途端に、そこからもう何も出来なくなってしまう。「その人が弱い」「若者が甘えている」という結論を導いてしまうと、周囲の人間ができることがなくなってしまう。例えば、最近ようやく厚労省が大学卒業後3年以内の若者の業種別の離職率を出すようになりましたが(参考:「教育」「飲食」で半数に=大卒者の離職率、業種別初公表-厚労省-時事通信)、業種によっては若者が酷使されている状況があるわけですから、そうした社会の構造や状況の違いを把握しないとなかなか問題を打開できないと思います。

―若者の自殺を防止するための対策には、どのようなものがあるのでしょうか?

根岸:社会に出る前に、WHOが提示しているようなライフスキル教育が必要だと思います。借金を背負った場合の解決策。不当な労働条件を押し付けられたときの対応。死にたいといった衝動に取り付かれてしまったときの対処法。例えば、そうした「実社会で直面するかもしれないリスクや問題」に対する解決の手段と相談先を学校にいるうちに子どもたちに伝えていく必要があるでしょう。

そういうことを学ばないまま社会に出て、上司から不当な扱いをされて、それが不当かどうかも、どこに相談していいかも分からない状態になってしまっているのではないでしょうか。

前回、40人に1人が自死遺族というデータがありましたが、そう考えると決してどこか遠い世界の話ではなく、自分の身近で起きてもおかしくない話だと思います。自分が追い詰められてしまった時、あるいは自分の大事な人にそうした兆候が見えたときには、どのような対応が必要だと思いますか?

根岸:実際に自分がそういう状況になるまでは、なかなか想像するのが難しい。「自分にまさかそんなこと…」と多くの人が思っている。ご遺族の方がよくおっしゃる言葉に、「まさか」というのがあります。「まさか自分の家族が自殺でなくなるなんて…」「まさか本当にそんなことが起こるなんて…」。それは亡くなった本人もそう思っていたかもしれません。

つまり、特別な人が特別な理由で追い詰められて亡くなっているのではなくて、私たちと同じ日常生活の中で、仕事のことだったり、家族のことだったり、事業のことだったり、介護のことだったり、いろんなきっかけで悩んだ結果として、起こりうるということです。

まず、死にたいという気持ちに襲われた時も、それは決しておかしくなったわけではなくて、何か悪いことが重なれば、状態としてありうることなんだと認識することです。そうしないと、「自分は駄目なんじゃないか」「どうしようもないんじゃないか」と思ってしまう。それ自体は非常にきついことですけど、死にたくなるというのは誰にでも起こりうるし、決して自分が弱くて情けなくて、自分だけのせいでそういう気持ちになっているわけではありません。ですから、その気持ちを周囲の信頼できる人に、自分ができる範囲でいいので伝えて欲しいと思います。

身近にいる方は、そういうサインを感じたときには、まず否定をせずに聞いて欲しい。ついつい「前向きに頑張ろうよ」「ポジティブにいこうよ」という励ましの言葉を掛けてしまいがちですが、追い詰められた状況の中でようやく発したサインなわけですから、そこは受け止めることが大事だと思います。一人で全部受け止めてしまうと、受け止め切れないこともあるでしょうし、受け止めた人が全部背負うのではなくて、一緒に問題解決の手段や相談機関、信頼できる専門家を探すことができればいいと思います。また、相談機関に行ったなら、「行ってみてどうだった?」とフォローしてあげると、「身近で見ている人がいるんだ」と感じることができて心強いんじゃないかなと思います。

―なかなか身近には感じづらいですが、統計を見ると決して他人事ではないですよね。

根岸:「まさかまさか」と語られづらいので顕在化していないだけで、実はそういう状況にある人はたくさんいるわけです。問題を抱える可能性は、どんな人にもあると思うので、そうした問題を抱えたときに、「なんとかなる」という社会に対する信頼感をもてるように、問題を抱えて切羽詰まった人が解決へとつながる例をもっともっと積み上げていくことができていけば、自殺という方向には向きにくくなるのではと思います。

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