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バイデン新政権に向き合う金正恩の思惑 - 礒﨑敦仁 (慶應義塾大学准教授) 澤田克己 (毎日新聞記者、元ソウル支局長)

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北朝鮮の金正恩国務委員長は、バイデン米大統領の就任式を苦々しい思いで見ただろう。トップダウンでの派手な交渉を好んだトランプ前大統領に比べ、実務的なスタイルを好むバイデンは北朝鮮にとって手ごわい交渉相手である。

そうした認識を反映したのが、米新政権発足を前に行われた第8回朝鮮労働党大会(1月5〜12日)の結果であった。早期の制裁解除は望めないという現実的な認識に基づき、当面は「自力更生」で乗り切ろうとする方針が示された。冷戦下だった金日成時代の社会主義体制への回帰という傾向が濃いものの、金日成よりは現実的な側面ものぞかせる。

金正恩は今回、金日成、金正日が担っていた役職である党の総書記に「選出」された。金日成は党中央委員会総書記であるのに対し、金正日は党総書記で厳密には異なるポストであるが、金正恩の党総書記就任は、両者に並び立つ指導者であることを誇示するものだ。しかも、それにとどまらず独り立ち志向を強めていると言える。

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会場から消えた金日成、金正日の肖像画

金正恩は2011年12月、金正日の死去に伴って権力の座に就いた。翌年には金正日を「永遠の総書記、永遠の国防委員長」とした。金正日が、金日成を死後に「永遠の主席」とまつりあげたのと同じスタイルだ。「永遠の」は永久欠番とすることを意味し、祖先を敬う儒教社会の伝統に則ったものだと見られてきた。

5年前の第7回党大会で党規約から「永遠の・・・」の部分は削除されたものの、今回の総書記就任は意外であった。金正恩は執権10年目にして、金日成、金正日と対等の地位にあるという自信を付けたのであろうか。ただ、党大会に続いて開かれた最高人民会議(国会に相当)で憲法を改正して「主席」ポストにも就くことは可能だったろうに、そうはしなかった。

関連して注目されるのは、党大会の会場に金日成と金正日の肖像画が掲げられなかったことだ。第7回大会では両者の肖像画と党のマークが掲げられていたが、今回は党のマークだけだった。

ただメイン会場以外には両者の肖像画が掲げられていたし、代表たちは金日成・金正日バッジを着用していた。金正恩は党大会で「偉大な象徴であり代表者」であると位置づけられたので、それを強調する意味合いだったのかもしれない。

関連して想起されるのが、2019年の憲法改正である。この改正では、憲法第59条に金正恩の名前が「首班」として明記された。現役指導者の名前が憲法に入るのは、いかに北朝鮮でも初めてだった。金日成と金正日の名前が憲法に入ったのはそれぞれの死後で、しかも前文である。

この時の改正では、金日成時代からの指導指針だった「主体思想」、金正日時代に掲げられた「先軍思想」という言葉も削除され、替わりに「偉大な金日成・金正日主義」という抽象的な言葉に置き換えられた。同年元日に金正恩が発表した「新年の辞」でも、金日成と金正日への言及は消えていた。

金正恩の妹である金与正は政治局候補委員から外れ、役職も第一副部長から単なる副部長に格下げとなった。ただし、金正恩を筆頭とする中央委員の名簿では21番目となっているうえ、北朝鮮国営メディアが放送した映像からも健在ぶりがうかがえる。

党大会閉幕日には韓国を非難する談話を出しており、少なくとも対南関係で従来通りの役割を果たしていることがうかがわれる。なにより金与正は「白頭の血統」と呼ばれる金一族の一員として特別な存在であり、他の幹部とは別個に考えなければいけない。政治局候補委員から外れたのはむしろ、形式的な会議出席という負担を軽減するための措置だった可能性すらある。

早期の対米対話をあきらめ、内向き姿勢に

金正恩は党大会で、過去5年間の「総括報告」を3日間にわたって行った。「祖国の自主的統一と対外関係発展のために」という第3章が、対外政策に関するものだった。前回大会での報告で「統一問題」と「世界の自主化」という二つの章に分けられていたものを合体させたものだ。

党幹部の人事でも、対外政策を担う人物は後退した。李善権外相は政治局候補委員の末席であり、党国際部長だと見られる金成男は政治局候補委員にも入らず、中央委員の名簿で23番目だった。

報告での扱いや幹部人事は、対外政策への関心が下がっていることを示す。米国の状況を考えれば、バイデン政権との交渉が早期に本格化する可能性は低いと見ているのだろう。この点は、「トランプ政権の成果を土台に米朝交渉を早く」と主張する韓国の文在寅政権より現実的だ。

一方で金正恩は報告で、核能力を向上させると強調し、原子力潜水艦や超音速滑空兵器の開発にも言及した。米国を「最大の主敵」だと規定し、「誰が政権の座に就いても米国という実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない」とも主張した。

金正恩は同時に、「強対強」「善対善」が対米政策の前提だと強調した。党大会閉幕に合わせた軍事パレードには、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を登場させなかった。米国を刺激しすぎることは避けたのであろう。

自らが脅威であることを誇示し、米国を振り向かせようとする典型的なパターンだ。

ここで気になるのは金正恩が報告で自国について「核保有国」だと語ったことである。北朝鮮は2012年の憲法改正で「核保有国」という言葉を憲法に書き込んだが、金正恩はトランプ大統領との関係が続いている間には口にしていなかった。最高指導者の言葉が憲法以上の重みを持つ北朝鮮にあっては注目すべきことだ。

金正恩は結局、バイデン政権との交渉が早期に動くことはなく、制裁緩和も当面は望めないと考えているようだ。だからこそ新たな「5カ年計画」は「自力更生・自給自足」に主軸が置かれた保守的なものになっている。それでも従来型の戦術で脅威をアピールしておき、いざ米朝対話が始まれば「核軍縮」交渉に持ち込もうという腹積もりなのであろう。

南北関係については、韓国の態度次第では状況改善もありうるという姿勢を見せるにとどめた。南北対話に過大な期待を寄せる文在寅政権を揺さぶっているのだろうが、大きな期待を寄せているようには見えない。

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