スゴすぎる「無印のレトルトカレー」、マニアの度肝を抜いた立役者の正体 から続く
従来の日本のカレー、特に高級志向の欧風カレーは、外食でもレトルトでも常に、家庭では出せない「旨味とコク」を重視した味わいを目指してきました。インドカレーもまた日本における主流のそれは欧風カレー同様の傾向があります。
しかしその傍らでこの10年ほどは、それとはだいぶ方向性を異にする、より土着的で「伝統的」「家庭的」な本場志向のカレーも確実に支持を集めつつあります。無印良品のエスニック系カレーは確実にその静かなトレンドの延長線上にあります。
無印良品のインドカレーを食べてまず感じることは、これはインドの家庭や街場の食堂で食べられているカレーがわりとそのまんまレトルト化されているのでは? という印象です。
旨味やコクだけに頼らない香りのインパクト
一口目から鮮烈なインパクトを残すのはその「香り」です。香りの主役はもちろんスパイス。本場に倣ったというそのコンセプトを全く裏切らないスパイスの配合、ただし配合と言っても単に粉のスパイスをブレンドするだけではない、調理の段階ごとに適切に素材とスパイスを合わせていくインドカレーならではの技術がレトルトの中に封じ込められています。
そして、普段スパイス料理に慣れ親しんでいる人なら香りと同時に気づくのは、素材由来のジワジワくる素朴で飽きないおいしさです。香りのインパクトにかき消されがちですが、インドカレーは意外にも旨味やコクといった要素は控えめであり、無印のカレーはそれを十分に再現しています。
旨味やコクだけに頼らない香りのインパクトがありつつその本質は素材主義的な素朴で食べ飽きない味わい、これが無印の全てのカレーに共通する魅力と言ってもいいのではないでしょうか。ここからは、そんな無印のカレーの中からインド系のそれを中心に実食した感想を記していこうと思います。
よくある甘い味わいと一線を画す「バターチキン」
数ある無印のカレーのなかでも特に人気のあるカレーです。食べるとそのバランスの良さに唸ります。一般的にインド料理専門店のバターチキンは、トマトをベースにしつつもそこにふんだんにクリームやナッツペーストが加えられ、さらにはっきりとした甘みを加えた「デザートのような」と評されることもある仕立てが主流。しかしそれはあくまでナンと合わせることを前提とした、カレーとしてはかなり異端のバランスです。
そこを無印のカレーはより「カレーらしい」バランスに着地させています。乳製品のコク、トマトの酸味と旨味、やや抑え気味の甘さ、それらは何かが突出することもなく、結果的にこれまで欧風カレーに慣れ親しんでいた人でも違和感なく受け入れられる味わいの構成。また、そのバランスゆえにナンではなくライスとの相性も抜群です。
スパイスの配合もその着地に合わせたものになっています。専門店の「デザートのような」バターチキンの場合は、カルダモンをやや極端に強調することで「お菓子感」がより強まっていることも多いのですが、無印のバターチキンはそこもぐっとスタンダードなインドカレー寄りのスパイスブレンドにチューニングされています。そしてそのことで誰もがすんなり「食べたことない味わいだけどおいしいカレー」と感じる味わいになっていると思います。
インドカレー初心者の方にも太鼓判を押しておすすめできる間違いのない逸品です。
インドの大衆食堂の味を思い出す「スパイシーチキン」
ひと口食べた瞬間、インドの旧都市デリーの大衆食堂の味を思い出しました。「スパイシー」とあるだけに、しっかりとした辛さがありますが、それ以上にクローブとシナモンが醸し出す甘く骨太な香りが印象的です。その香りに合わせるような炒め玉ねぎのコクと微かな酸味。
酸味はトマトの他にヨーグルトにもよるものかと思いますが、原材料をよく見るとわずかに「りんご酢」が加えられているようです。ヨーグルトの酸味が高温の加熱で弱まってしまう分の補填というイメージでしょうか。そんなところにも高い技術とこれまでの経験が生かされているように感じます。
バターチキンと比べると好き嫌いが分かれる味かもしれません。スパイスのバランスがいわゆる日本式の「カレー粉」とは大きく異なるクラシックなインドカレーのそれだからです。このことは同時に「インドカレー好きにはたまらない」ということであるとも言えます。
そして昨今の「スパイスカレーブーム」が示唆するように、こういう(日本人から見ると個性的な)香りのカレーが好きになり始めている層は実はかなり厚い。実際にこのカレーは比較的最近加わったラインナップであるにもかかわらずあっという間に売り上げ上位に食い込み、主力定番商品の仲間入りを果たしたようです。
実はこういったタイプのチキンカレーは日本の北インド料理店では案外出会えないものの一つ。そういう意味では、最近スパイスカレーが好きになり始めた人だけではなく、筋金入りのマニアでもニヤリとするであろうカレーでもあります。