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スゴすぎる「無印のレトルトカレー」、マニアの度肝を抜いた立役者の正体 - 稲田 俊輔

 無印良品といえばシンプルかつ高品質な生活用品のお店としてあまりにも有名ですが、この数年、「無印のレトルトカレーが凄い」という話を頻繁に耳にするようになりました。「無印こそスパイスカレーブームを陰で支える主役」とまで言い切るカレーマニアもいます。

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 その無印のカレー、いったい何がそんなに凄いのか。まずは単純にその商品点数です。無印良品の通販サイトで確認できるだけでもその数40種類以上。もちろん実店舗にも多種類のカレーがずらりと並びます。

 またそれらは単に種類が多いというだけでなく、バリエーションの幅広さも圧巻。ビーフカレーやポークカレーなど定番の欧風カレーから、「シチリアレモンのクリーミーチキンカレー」などの創作系カレー、そしてなんと言っても無印のカレーの名を高からしめているのが本場の味を追求したエスニック系のカレーの数々です。


©getty

無印良品は、エスニック系レトルトカレーのパイオニア

 実はこのエスニック系レトルトカレーに関して、無印良品はパイオニアのひとつでもあります。無印良品が初めてレトルトのタイ風グリーンカレーを発売したのは2002年。レトルトカレーと言えば「ボンカレー」に代表されるような家庭的なカレーか、もしくは少し高級なものでもレストラン仕様の欧風カレーくらいしかなかった時代にタイカレーを発売するというのは相当野心的です。

 その後2009年には日本におけるインドカレーの代表とも言える「バターチキンカレー」も発売しました。これらの商品はその後何度もレシピの改良が繰り返され、現在でも主力商品です。

 そうやってひっそりとエスニック系レトルトカレーの火を灯し続けた無印良品ですが、2010年代中期からはその大躍進が始まります。タイ風のグリーンカレーやレッドカレー、そしてインドのバターチキンカレーくらいなら世間にも知られるようになってきた頃ですが、無印はそれらに加えてより専門的でマニアックな商品を続けざまにリリースしていくことになります。

 現在のラインナップで言えば、キーマやマッサマン、プーパッポンくらいならまだしも、パラックパニール、マトンドピアザ、プラウンモイリー、ルンダン、マッカニー、などなど余程のカレーマニアでもない限り「何言ってるかわからない」商品までずらりと並んでいます。

カレーマニアの度肝を抜いた食品メーカーの存在

 マニアが絶賛し、そしてまた新たなマニアをも生み出している、そんなアグレッシブすぎる商品展開の陰には、その立役者とでも言うべき存在があります。それが無印良品のカレーの製造を一手に引き受けているにしき食品(宮城県)。80年以上の歴史を持つ食品メーカーで、「にしきや」のブランドを冠した高品質なレトルト食品専門企業として知る人ぞ知る存在です。

 このにしき食品がカレーマニアの間で一躍有名になったきっかけが、2012年に販売を開始した「レトルト南インドカレー」でした。当時はそもそも本格的な南インドカレーが食べられる専門レストラン自体がまだ数も少なく、そしてそれらはほぼ東京周辺に限られていた時代。ましてそれを本場の味そのままにレトルト商品化して全国発売するメーカーは他にはもちろん皆無でした。

 サンバル、ラッサム、チキンクルマ、ポークビンダルといった、日本では全くと言っていいほど知られていなかった南インドカレーが同社によって次々と商品化された事はカレーマニアたちの度肝を抜きました。私自身もその「度肝を抜かれた」ひとりです。以来私はにしき食品の熱烈な一ファンとして(そして日本における南インドカレー普及を目論む同志として)、同社の動向に常に注目してきました。

 その中で知り得たこと、それはこのにしき食品の商品に対する徹底したこだわりです。

現地でのレシピ採取や研修、材料の国内での栽培も…

 レトルト南インドカレーの開発に際しては、その時代から現在に至るまで毎年のようにインド現地でのレシピ採取や研修を行なってきたそうです。また、本場インドの味を再現するのに不可欠ながら日本ではほとんど流通していない「カレーリーフ」や「パニール」といった食材は生産者と提携し国内での栽培や製造を行っています。

 また、レトルト南インドカレー発売以前から一貫しているブランドポリシーもまた重要な意味を持っています。それは、添加物を一切使わず原材料となる食材に一切妥協しない、というもの。このポリシーは、基本的には「家庭料理」「伝統料理」である南インドカレーの再現においても重要な意味を持つだけでなく、以前から手掛けていた欧風カレーや創作系カレーでも貫かれてきたということです。

 にしき食品のそんなこだわりやポリシー、そして蓄積してきた技術が、まさに無印良品が求めていたもの、ということだったのでしょう。南インドのみならず、北インド、タイ、そして今やマレーシアやインドネシアまでも網羅するエスニック系レトルトカレーに関して無印良品は「あくまで本場の味を届けたい」という考えを持っているそうです。

 しかしこれはまさに「言うは易し行うは難し」の世界。風土も違えば食材も違う日本で、しかもレトルト加工という極めて技術的制約の大きい商品形態としてその味を作り上げるのは簡単なことではありません。さらに言えば、技術面の高いハードルをクリアして本場の味を再現することに成功したとしても、その味は一般消費者に受け入れられるものでなければ意味がありません。

本場の味と一般受けのバランスは難しい

 実は、私自身も「エリックサウス」という南インド料理専門店を運営しており、冷凍南インドカレーを通販でも販売しています。 しかし、私自身はこういった問題にはほとんど直面していません。ひとつには「レトルト」ではなく「冷凍」なので技術的なハードルがはるかに低いという点があります。お店で作るそのままのカレーを作ってそれを冷凍するだけであり、レトルトのように加工前と後で大きく味が変わるという難しさはないということです。

 もうひとつはある程度尖った味で万人受けしなくてもそれはそれで構わないという根本的な点があります。実店舗のファンを中心にそういう味を好む「愛好家」だけに楽しんでもらえればいい、というニッチなビジネスだからです。

 しかし規模の大きいナショナルブランドである無印良品ではそういうわけにもいきません。本場の味と一般受け、そのバランスを常にシビアに探り続けていかなければならない。それが無印良品とにしき食品という類稀な強力タッグチームに課せられた使命なのです。

 そういう目線でここ数年における無印レトルトカレーのラインナップの変遷を眺めていると、少し興味深いことに気付きます。タイ風グリーンカレーやバターチキンカレー、そしてスパイシーチキンカレーやキーマカレーといったいかにも日本人受けの良さそうなラインナップは常に不動である一方で、南インドカレーを中心とするマニアックな商品は結構入れ替わりが激しいのです。これは推測に過ぎませんが、充分な販売実績が得られなかったが故の商品変更という面があるのかもしれません。

「いつまでも あると思うな 無印のマニアックカレー」

 さらに言えば、ラインナップ全体に占めるそういったマニアック商品の割合自体は徐々にではありますが減ってもいます。カレーマニアにとっては歯痒いことこの上ない事態なのですが、これは、私もここ10年以上続いていると実感している日本人の味に対する保守化傾向を反映しているのかもしれません。

 なので、一消費者の視点で言えば「いつまでもあると思うな無印のマニアックカレー」です。油断するとすぐ廃番となって次の商品に入れ替わってしまうから、発見したらためらいなくすぐ買っといた方がいいってことです。またそうやって積極的に買い支える事で、再びマニアック系の品揃えは増えていくかもしれないという期待もあります。

 つまり明日の無印レトルトカレーのラインナップを作るのは我々消費者なのです。それが「本場の味を届けたい」という情熱に支えられたアグレッシブなものであり続けるか、それとも見慣れた定番のラインナップで固められるかは、無印のレトルトカレー開発に関わる人々のパッションだけでは如何ともし難い、それが商業経済です。

 というわけで、後編では「無印レトルトカレーのおいしさの本質はどこにあるのか」という考察、そして現在の無印ラインナップからお気に入りのカレーをいくつか実際に食べてレビューをしたためてみたいと思います。

【後編を読む】よくあるバターチキンじゃない…プロが実食してわかった「無印カレー」本当のウマさ

よくあるバターチキンじゃない…プロが実食してわかった「無印カレー」本当のウマさ へ続く

(稲田 俊輔)

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