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要はお金が「回る」ようにできるかなのですが

 金融で栄えても所詮はゼロサムゲームなのだ、みたいな意見も一時は頻繁に目にしたものですが、この頃はどれほどのものでしょうね。リーマンショックに端を発した世界金融不安の結果として、より大きな停滞に見舞われたのは金融依存と日本が嘲っていた国ではなく、製造業立国と称したい日本であったわけです。他国の好景気の「おこぼれ」に与る形で戦後最長(ただし極度に緩やかな!)の景気回復局面を続けこそしたものの、その他国の景気が悪化すれば壊滅的な状況に陥る、自国経済の基礎体力は着実に衰えていたと言えます。

 金融業がゼロサムゲームなら、金融不安で損をした人の分だけ誰かが儲けていそうなものですが、どうにも圧倒的多数の人が「損」をしているかに見える、これはどうしてでしょうか。極論すれば、毎月20万円の給料をもらって20万円を使う、あるいは毎月50万円の給料をもらって50万円を使う、これもまた「ゼロサム」です。そもそも何か商品を買って代金を支払っても、貨幣の所有者が変わるだけで世の中に存在する金の量が増えたりはしません。でも、これはちゃんと意味のある変化だとは誰でも分かりますよね?

 逆にゼロサムゲーム論を適用することも考えて欲しいのは、貿易黒字/赤字の問題でしょうか。昨今、日本は燃料費の輸出を急拡大させたことによって貿易黒字を「解消」してしまいましたが、それまでは圧倒的な貿易黒字国でした。しかし、どこかの国が貿易黒字を積み重ねれば、その分だけ他の国が貿易赤字を抱えることになるわけです。何となく貿易黒字が良いものであるかのように思われがちですが、一方で他所の国に貿易赤字を押しつける形にもなることは意識されるべきかと。ある国の黒字が別の国の赤字に繋がっているのなら、輸出ばかりの促進こそゼロサムゲームと非難されてもおかしくはありません。

 そして日本の黒字の裏で喘いでいた代表格は膨大な赤字を抱えるアメリカでした。TPP問題では被害者意識を持ちたがる人も多いようですが、特定産業に限らず国家レベルで見れば、むしろ日本の方が「攻め」に立っていたのであり、貿易赤字国のアメリカが黒字の日本に反抗を試みたとしても、それは当然の言い分に思われます。そして日本と肩を並べる貿易黒字国としてはドイツなどが挙げられますが、為替メカニズムの働かないEU圏内で他の加盟国に大きな赤字を負わせてもいる、EUの病人からEUの優等生と呼ばれるようになったドイツですが、どうにも私にはEUを蝕む存在にしか見えません。自国労働者の賃金を抑え込んでは輸出に励む、そういう儲け方は先進国にはあるまじきこと、むしろ非難されるべきはギリシャなんかより……

 

経済論争、「勝負あった」=日銀は緩和競争に敗北―安倍自民総裁【12衆院選】(時事通信)

 「この論争はもう終わった。勝負あったと思っている」―。自民党の安倍晋三総裁は23日、岐阜市内で講演し、持論の「大胆な金融緩和」を唱えることで円安・株高を演出したことに強い自信を示した。

 安倍氏は「私たちの政策は正しい。政策を発表した段階で円高は是正され株価が上がっている」と強調。自らの発言だけで「(民主党政権の)彼らが3年かかってできなかった」市場の反応を引き出したことを自賛した。

 さらに世界的な金融緩和・通貨安競争に言及し、「戦いの中で日本は負けている。テールエンド(最下位)だ」と、この日も日銀批判を展開。デフレ脱却に向け、公共投資の積極活用も訴えた。

 

 現代の日本では極右路線への傾倒が争点になりにくいようです。極右層へのアピールに積極的でも選挙で惨敗する大政党もあれば、世界が眉を顰めるような言動や振る舞いにも関わらず支持を失う気配すらない人もいます。おそらく大半の日本人にとって極右とは「黙認」の対象なのでしょう。むしろ金銭や女性問題などのスキャンダル、単なる一過性のブームが過ぎ去ることなどの方が、有権者の動静に影響を与えてきたと言えます。そんなわけで本来なら問題視されてしかるべきものが取り立てて問題視されることもなく、まとまりを欠く民主党や自称第三極軍団を相手に優位に立っているのが自民党です。

 安倍晋三の世間からあまり「気にされていない」極右傾向についてはさておき、経済面では概ね肯定的に受け止められているでしょうか。以前に総理だったときはどうなんだよ、と思わないでもありませんが、基本的に安倍晋三は経済に関しては「色がない」タイプと言えます。小泉純一郎のように積極的に日本経済を破壊しようという熱意はない、周りの人間次第でどうとでも変わるタイプです。そして誰が入れ知恵しているのかは知りませんけれど、今の段階で掲げている政策は悪くない、その結果として市場の期待感を駆り立て、一過性ながらも円安と株高に繋がったようです。

 どうにも昨今の経済政策は「裸の王様」タイプが主流だったように思います。つまり、傍目にはとんでもない過ちを犯しているようにしか見えないけれど、それが「理解できている」風を装わないといけない、こじつけに頷いては経済を分かっているフリをするのが権威筋の間で常態化してきたと。言い方を変えれば「バカには分からない経済理論」ですね。でも、その結果として導かれた日本経済を思うに、たぶん本当に王様は裸であったのでしょう。そして安倍晋三の唱える(それが本当に持論であるなら前の総理であったときに動いて欲しかったのですが)大胆な金融緩和は久々に一般常識のレベルでも理解できる経済政策に思えますが、総選挙後には裸の王様学派の反撃で新たな首相は考えを変えるかも知れません。

 

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