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軍拡を進める中国を止めるには、日本が世界平和の旗振り役になるしかない

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中国の軍備拡張がアジアなどの安全保障を脅かしつつある。平和のために日本はどんな役割を果たせばいいのか。ジャーナリストの松本利秋氏は「日本が主導するFOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)がカギになる。日本が新しい世界の軸になることが求められる」という――。

※本稿は、松本利秋『知らないではすまされない 地政学が予測する日本の未来』(SB新書)の一部を再編集したものです。

北京の天安門広場にて毛沢東の大きな肖像画の前で警備する中国の警察官
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ibausu

FOIPというプラットホーム

【一般的な認識】EUを脱退した英国がTPP加入に意欲を見せ、FOIPをプラットホームとして安全保障と経済安保へと拡大する方向に向かっている。

【地政学の視点】英国の加入により欧州とアジアの距離が縮まり、経済も含めた安全保障の選択肢が増える。日本を軸とした繋がりから新しい世界が始まる予兆がある。

EU脱退後のイギリスがTPP加入に本気度を見せ、FOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)をプラットホームにする安全保障と経済安全保障へと拡大・充実させてくる方向に向かっている。

もしイギリスが加われば、ヨーロッパとアジアの距離が縮まり、イギリスと日本の間に存在している南アジア、東南アジア諸国にとっても経済を含めた安全保障政策の選択肢が増えてくる。

問題は具体的な強化策を如何にして構築していくかだろう。

その第1の構成要素としてまず挙げなければならないのが日米同盟だ。これは安倍内閣の下で相当強固なものとなったと言えるだろうが、2020年の大統領選挙で浮き彫りになったアメリカ国内の分裂が今後より深刻化していくことが予想され、懸念材料となる。

次回の大統領選挙から4年ごとに、それまでの政策をちゃぶ台返しのように正反対のものに激変させることになるのを計算に入れつつアメリカの国内状況を見極めて、緻密な対米政策を積み上げていくことが必要だ。

そのためには、アメリカの世論を日本有利に導いていくマスコミ対策やら、政界に対する強力なロビー活動を強化していくことも重要課題となってくるだろう。この点で韓国は正確な金額は不明だが、アメリカ政界へのロビー対策費は世界第一だとされている。

欠かせないASEAN諸国との連携

そして、重要なのが日本と東南アジア諸国との関係強化である。その点においては菅首相が最初の外遊先としてベトナムとインドネシアを選んだのは適切であった。この両国での首脳会談ではFOIP構想を発展させ、具体化していくプロセスを説明したという。

その極めて現実的なこととして、インドネシアに初の国産護衛艦を輸出する計画が進んでいる。インドネシア政府は南シナ海の排他的経済水域(EEZ)を航行する中国船を警戒し、違法操業を続けていた中国漁船を撃沈するなど中国の進出に神経をとがらせている。

日本から輸出されると言われているのは2022年に日本で建設が予定されている最新鋭の護衛艦で、無人機を使った機雷除去など様々な任務をこなせるのが特徴だ。日本から4隻を輸入し、4隻をインドネシアでライセンス生産する計画。フィリピンには2020年8月三菱電機の防空レーダーを輸出する契約が成立している。

ベトナム、マレーシア、インドなどとの交渉も始まっている。ベトナム海軍が購入したロシアのキロ級潜水艦の乗員訓練に日本が協力することも行われているようだ。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は第二次大戦後日本の復興と発展とともに経済成長をもたらした。その間の日本からの投資や、技術援助が大いに役立っていることは言うまでもないだろう。政治的にも民主主義化が促され、インドネシアやフィリピンでは少なくとも過去20年民主的な選挙で政権交代がなされている。

地球儀の東南アジア諸国
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EyeOfPaul

日本とASEANが共有している大切な価値観

日本との結びつきは強く、多くの国民が相互に交流し、その人数もコロナ禍の時期は別として年々増加の一途を辿っている。この良好な関係を更に進展させていくべきだろう。もし、この地域が中国の影響下に陥れば「自由で開かれたインド太平洋構想」の中心部に穴が開いてしまう。

東南アジアと中国の関係は古代からあり、長期にわたって中国人華僑が入り込んで根を生やし、経済界や政界、マスコミなどの社会の基盤を支える重要な位置で数多くの中国系の人たちが活躍している。

歴史的な事実と東南アジア諸国の社会構造を考慮すれば、当面の間この地域の諸国に「アメリカと中国のどちらをとるのか」という二者択一の選択を迫るのは得策ではない。無理強いすると歴史上数々の戦乱を潜り抜けて培ってきたこれらの国々のしたたかなバランス外交戦略に翻弄され、状況がより複雑化する可能性が高い。

日本はこの地域を取り込むよりは、自由と独立、経済の発展を支援する方が自国の利益になるだろう。日本が通常の経済協力だけではなく、海上の保安や、防災、法整備などの協力をしようとしているのはこの考えに沿ったものと言えるのだ。

2006年に発効したASEAN憲章では独立と主権の尊重、法の支配、民主主義の原則の支持、自由と基本的人権の尊重、国連憲章、国際法、国際人道法の支持などが謳(うた)われている。中には民主主義と言えないような国もあるが、ASEAN全体では民主主義と法の支配の原則を支持しており、日本との共通認識が存在している。

このことはまた、日本がヨーロッパ連合(EU)やアフリカ連合(AU)などの連合機構とASEANとの間を結ぶ接着剤的な役割を果たすことにもなり得るということだ。当然のことながら、台湾もこれに入ってもらうことでリムランド的役割を担うことが期待できるだろう。

当面の最重要課題……対中国政策の国際的協力

このように、FOIPをプラットホームとして価値観を同じくする諸国が様々な協力関係を作っていくことになる。

まず、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国の首脳が、いつでも協議可能なサミットプロセスを構築し、将来的にはイギリス、フランスも加盟国に加えて、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」との協力関係の具体策や、他の関係国(EU、カナダ、ニュージーランド)との連携の枠組みなどを具体化する作業に入ることになる。

自由の女神やエッフェル塔など世界各国のランドマークのイラスト
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Delpixart

例えば、コロナ禍の拡大・継続により、経済や金融の危機に直面している一部途上国に対して、財政危機や経済格差拡大などに対処する資金援助や経済改革支援の枠組みを構築することなども視野に入れた活動も必要となろう。

そして、当面の最重要課題である対中国政策の国際的協力の枠組み作りを急がねばならない。中国が急速な軍拡を進め、膨張政策をとっていることに対して、日本は自らの防衛力を高め、日米同盟関係の強化に努めることは当然として、クアッド(米国、日本、オーストラリア、インドによる「4カ国安全保障対話」)の広範囲な連携を利用した軍縮を目途としたインド太平洋地域の軍備管理の枠組みを作り出すことも重要である。

特に中国が中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルなどの戦域打撃能力を増強させている現状を考慮すれば、中国、アメリカ、ロシアなどが加わるインド太平洋地域の軍縮・軍備管理枠組みを構築する考え方も現実味を帯びてきている。

米ソ冷戦時代には先制攻撃を受けたらそれに反撃し、互いに破壊に至るという「相互確証破壊」をコンセプトにした米ソの軍縮と軍備管理の枠組みが出来上がっていた。このことで冷戦時代は際どい所で安全保障環境の安定が図られていた。

だが、これはあくまでも米ソ間の安定化であって、中国のことは想定されていなかったと言える。中国が軍拡を続け装備の近代化を急速に進める中、アジアを中心とした安全保障環境の安定化を図ることは必要である。

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