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【聖火リレーまで60日】「ぶっちゃけ厳しい」 〝復興〟の当事者たちが口にする「五輪など無理だ」の本音

東京五輪開幕まで半年?いやいや、福島から始まる聖火リレーは2カ月後だ。だが新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、〝復興五輪〟の色合いも消えかかっている「スポーツの祭典」に、福島県民からは「NO」の声が高まっている。福島県は浪江町の聖火リレーコースを変更。道の駅周辺を走って〝復興〟をアピールしたい考えだが、役場職員からは「開催など無理」ときっぱり。県外避難者も「原発事故が終わっていないうえに感染症。とても五輪どころじゃない」と語気を強める。英紙が「日本政府が五輪中止を決定した」と報道するなど。

【「今年もまた突然の中止?」】

 「厳しいでしょうね。ぶっちゃけた話、厳しいだろうなと思っています。ただ、こちらが判断する話では無いので、粛々と準備を進めるしか無い。また突然、中止だと言われるかもしれませんね。昨年も延期の連絡は突然でしたから」

 浪江町の職員は、60日後に迫った聖火リレーについてそう語った。

 聖火は3月25日、楢葉町と広野町にまたがる「Jヴィレッジ」を出発。いわき市や富岡町、双葉町、大熊町を通って第10区間である浪江町に到着。浪江小学校から「道の駅なみえ」までの約800メートルを町民がリレーする計画になっている。福島県内の聖火リレーは3月27日まで3日間行われる予定で、県内26市町村、51キロメートル余がコーストして設定されている。

 本来なら昨年3月26日から始まるはずだった聖火リレー。前々日には、JR福島駅前で「復興の火」と称した聖火が福島駅東口で展示されたものの、夜になって事態は急転。「聖火リレーと五輪開催の1年延期」が福島県庁に伝えられた。

 当時、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の布村幸彦副事務総長は福島駅前でのセレモニーで「現在、国を挙げて、また世界中の方々が新型コロナウイルスと闘っている」とスピーチ。福島県選出の亀岡偉民代議士(自民党)も「厳しい環境にありますが、われわれは早く、新型コロナウイルス対策をしっかりと成し遂げて、多くの皆さんに早く安心感を持っていただけるような努力を続けながら、オリンピックに向けて頑張って行きたいと思います」と語っていたが、この時点で福島県内で確認された陽性者は2人。それが今や累計で1548人に達している(今月21日現在)。

 遅々として進まぬ感染拡大抑制に「安心感」どころか社会も経済も疲弊しきっている。浪江町内では校舎解体前の学校見学会が緊急事態宣言を受けて中止された。学校見学会が出来ないのに、なぜ聖火リレーは出来るのか。誰が考えても無理筋なのだ。

浪江町の聖火リレーコースは大幅に変更。道の駅がゴールになったが、役場職員は「五輪など無理だと思う」と語る


【「粛々と準備するしか…」】

 延期に乗じて、実は浪江町の聖火リレーコースが変更されていた。

 当初は町の中心部から遠く離れた棚塩地区のロボットテストフィールドなどをアピールする計画だったが、コースを町中心部に移動。浪江小学校から道の駅までを走るコースになった。「ロボットテストフィールドも町の重要な施設である事は間違いないのですが、復興のシンボルとなる道の駅が完成したので、そこを中心にやろうという事になったんです。何で棚塩を走るんだという話もありましたからね」と役場職員。コース変更を持ちかけた福島県オリンピック・パラリンピック推進室の担当者も「1年経った状況の変化を踏まえて話し合った。『道の駅なみえ』は3月にグランドオープンするというタイミングなので、町なかに近いところでと考えました」と話す。

 県の担当者によると、聖火リレーのコース変更は常磐線を使ってランタンを運ぶ演出(双葉町)を中止。逆に猪苗代町ではスキーで滑走する区間を延ばした。コースそのものの変更は浪江町だけという。

 しかし、再来月に迫った聖火リレーなど本当に出来るのか。県の担当者は「うーん」と苦渋の表情で語った。

 「緊急事態宣言がどうなるのか、本当に2月7日に解除されるのか分かりません。仮に解除されたとしても、そこから本番まで、実質的には1カ月程度しか時間が無い。今のところ組織委員会からは聖火リレー云々という話はありません。『やる』とも『やらない』とも何も連絡が無い以上、県が『聖火リレーをやめる』と決めるわけにはいかない。粛々と準備を進めるしか無いというのが正直なところです」

 昨年も「粛々と」準備を進めた末の急な延期。県職員は「昨年のデジャブのようだ」との声も聴かれる。感染症対策が〝牛歩〟であるように、五輪への決断も遅い。振り回されているのは〝復興〟の当事者なのだ。

福島県は少しでも五輪ムードを高めようと県庁内で写真展を始めたが、震災・原発事故からの〝復興〟は道半ばのうえに感染症の問題も出口が見えない。「五輪どころじゃない」の声はむしろ高まっている


【「〝復興五輪〟どころじゃない」】

 当初から掲げられてきた「復興五輪」の名目も、すっかり影が薄くなった。

 招致スピーチで「(原発事故の)状況はアンダーコントロール」と胸を張った安倍晋三前首相は為政者の座から下りたが、後任の菅義偉首相は今度は「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証として…世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進める」と言い出した。復興も感染症対策も道半ばなのに威勢の良い言葉ばかりが虚しく踊る姿は変わっていない。

 福島県内では昨年2月29日と3月1日の2日間、Jヴィレッジ周辺と福島市の県営あづま球場(野球・ソフトボールの試合を開催)で市民グループが「福島は〝復興五輪〟どころじゃない」と抗議の声をあげた。参加した村田弘さん(南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中、「福島原発かながわ訴訟」原告団長)は1年経った今、どう考えるのか。

 「そもそも『復興を成し遂げた姿を国内外に発信する』などと嘘を言いながら招致した五輪だった。客観的に見て、その前提が完全に崩れているでしょう。避難者はどんどんしんどくなっていっているところに感染症。そんな時に、世界中から人を集めてオリンピックをやりましょうなんてあり得ないと思います。理屈からも現状からも成り立っていないのに決断出来ないのは、国内の政治事情と国際オリンピック委員会の営業方針。原発汚染水と同じように誰も止められなくなってしまっている。『人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証』の五輪?そんなパロディにもならない事を開催国の首相が言うなんて、世界中の笑いものですよ」

 聖火リレーの初日まで60日。時間と経費だけが御原発汚染水のように流れて行く。いわき市の主婦も「福島が見事に復興を遂げたことを世界にアピールするなんて、現状を見たら本当におかしな話です」と話す。五輪開催が現実的では無い事と、〝復興〟の当事者たちが一番良く分かっているのだった。

(了)

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