《「全く何だったのか。恥ずかしい限りだ」韓国紙も酷評》元慰安婦訴訟賠償命令に“突然の弱腰”文大統領の思惑 から続く
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1月23日午前零時、ソウル中央地裁が日本政府に対して、元慰安婦に賠償金を支払うように命じた判決が、日本政府が控訴しなかったことで確定した。
「正直、困惑している」
「原告が同意できる解決策を探すため、韓日間の協議を重ねたい」
今回の判決について、こう述べたのは韓国の文在寅大統領。1月18日に行われた年頭会見での発言だった。さらに韓国最高裁が日本企業に賠償を命じる判決を下した元徴用工訴訟についても、「(日本企業の)資産売却は望ましくない。外交的な解決策を探すことが優先だ」と態度を一転させた。
大統領が困惑するような判決が、なぜ韓国の裁判所から次々と下されていくのだろうか。
韓国の文在寅大統領。裁判所の判断に「困惑」しているというが… ©getty
赤っ恥をかかされ続けている理由
文在寅政権では革新系の判事が次々に要職に任命されてきた。就任当初の2017年9月には、文大統領と政治信条が近い人権派として知られる金命洙(キム・ミョンス)氏を、日本の最高裁長官にあたる大法院長に指名している。
しかしこれまでも、大統領の思うような決定が下されてきたわけではないという。産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏が解説する。
「慰安婦訴訟の判決の前にも、文大統領を困らせた裁判所の判断がありました。昨年12月、文在寅大統領が停職2カ月の懲戒処分を下した尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長について、韓国の行政裁判所は処分取り消しの申し立てを認めたのです。政権にたてつく検事総長に対する『司法改革』を名分にした停職処分でしたが、いまでは尹氏は職務に復帰しています。国家のトップが下した処分が取り消されたわけですから、文大統領は、まさに赤っ恥をかかされたのです」
元慰安婦訴訟や元徴用工訴訟について、黒田氏が続ける。
「そもそもの話ですが、韓国社会は民主化時代が到来して約30年が経ち、基本的には弱者(持たざる者)を正義と見る社会的潮流が出来てしまっている。個人と国家が争った場合、韓国の公判では個人側を重視するという姿勢が定着したのです。
そういった社会的流れが、人権派弁護士出身の文在寅大統領の誕生にも繋がっているのですが、文大統領の口ぐせは『まず人間だ』です。そこから司法改革と称して『国家の意思を重視する司法ではダメ』という思想の持ち主を司法の世界に入れていった。その結果、最高裁の判事の構成も左翼、進歩系が多数になりました。そんな状況ですから、さらに反日感情が加わった日本絡みの戦後補償裁判では、文在寅政権の思惑がどうであろうと、日本に厳しい判決が出るのです」
続々辞任する韓国のエリート判事たち
韓国の左派の力が強くなった司法の世界は、いま前例のない混乱が続いている。
韓国のエリート判事約80人が相次ぎ辞表を提出したと報じたのは、韓国3大紙の1つ、「朝鮮日報」(1月21日付)だった。〈2月に予定される裁判所の定期人事異動を控え、20日までに辞表を提出した判事が80人を超えた〉というのだ。
裁判所長と高裁の部長判事は134人いるが、その中の20人も含まれているという。判事の退職の理由について、同紙は次のように説明している。
〈「頑張っても裁判所長になれる可能性が低下した」というものだ。(略)金命洙大法院長が2019年に「裁判所長推薦制」を導入したことで状況が変わった。該当する裁判所の判事が投票で裁判所長候補1~3人を推薦し、大法院長がうち1人を選ぶ方式だ〉
司法を牛耳る「ウリ法研究会」とは?
さらに、裁判所の要職を、左派の「ウリ法研究会」出身の判事らが独占していることも問題だと指摘している。
〈実際に大法院長と大法官13人のうち6人が進歩傾向の「ウリ法研究会」と民主社会のための弁護士会(民弁)の出身だ。金命洙大法院長は就任後、最初の定期人事異動で全国最大の裁判所であるソウル中央地裁の所長と法院行政処の人事・企画審議官(判事)の大半にウリ法研究会またはその後身とされる国際人権法研究会の判事を充てた。金大法院長は両研究会の会長を歴任した人物だ〉
ソウル在住の韓国人ジャーナリストが語る。
「『ウリ法研究会』所属の判事たちは、基本的に左派的な思想を持っている。慰安婦問題についても、1965年に締結された韓日基本条約に、慰安婦問題は含まれてないとの認識です。 日本では、『文大統領が司法もコントロールしているのではないか』と考える人もいるでしょうが、さすがにそれは無理。今回の慰安婦訴訟や徴用工訴訟で、文大統領に出来ることがあるとすれば、今後続く判決を先延ばしするように働きかけることくらいです」