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焦点:イエレン氏の「大きな行動」発言に透ける、政府債務論の変容


[ワシントン 21日 ロイター] - 次期米財務長官候補のジャネット・イエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長は19日、上院財政委員会の指名承認公聴会で連邦債務について、少なくとも最終的に「持続可能な形」にする必要はあると同意して見せた。

バイデン大統領が打ち出した1兆9000億ドルの追加経済対策案を擁護するこの日のイエレン氏の発言は、広範囲にわたった。しかし、そこには、「政府債務」を巡る経済専門家の考え方が着実に変わってきていることが映し出されていた。

政府債務は先進各国では過去10年間どんどん積み上がり、一時はユーロ圏が崩壊の瀬戸際に追い込まれる原因ともなった。しかしイエレン氏は公聴会証言で、「大きな行動こそが賢明」と明言したのだ。

イエレン氏が上院で訴えたのは、債務の水準をいったん忘れ、利払い額と財政支出がもたらすリターンにこそ目を向けてほしいという点だった。将来、米国が高成長を達成する可能性が足元の借り入れ増を正当化し、約26兆9000億ドルに上る連邦債務に絡む脅威を弱めてくれるというロジックだ。

同氏は「債務が膨らみ続けているにもかかわらず、(国内総生産=GDPに対する)現在の利払い額の比率は2008年の金融危機前を上回っていない。パンデミックとそれが経済に及ぼす打撃に対処するためにわれわれが必要な措置を講じるのを避ければ、財政を赤字にしてもやるべきことをやる場合より、悪い状況に陥る公算が大きい」と言い切った。

実際、連邦政府の利払い費用は今、6000億ドル近くとなっているものの、世界的に金利が過去最低水準圏で推移しているおかげで、対GDP比は1990年代以降ほぼ一定している。

この事実は、議会がバイデン氏の追加経済対策案を審議する上で中心的な論点になるだろう。特に大統領職と上下両院の支配をともに失った共和党が、パンデミック対応でさらなる財政支出に積極的に応じ続けるのかが試されそうだ。

公聴会で共和党の財政規律重視派のジョン・スーン上院議員は、昨年に新型コロナ対策で3兆5000億ドル強の財政資金が投じられた上に、また支出しようとしていることについて「果たしてわれわれはいつ、財政が崩壊し始める地点に達するのか。私にとってそれが本当に心配なのだが、与野党の誰も、もはやまじめにそれを話そうとしない」と発言した。

<債務水準より金利負担>

政府債務の問題は、2007-09年の金融危機とその後の景気後退、ユーロ圏の危機などを通じて経済専門家の間でも多くの話題になってきた。

欧州ではいくつかの国、とりわけギリシャが世界金融危機の後、債務返済で苦境に陥ると、ユーロ圏の経済大国や国際通貨基金(IMF)はこれに対して大幅な財政支出切り詰めを促した。その結果、景気回復の土台を築くどころか、ギリシャの経済状況は一段と悪化し、財政赤字も拡大してしまった。

IMFは後から振り返る形で判断が誤っていたと認め、幅広い検証作業を実施。当時チーフエコノミストだったオリビエ・ブランチャード氏は、特に危機のさなかで総需要が弱い局面では、財政支出の有効性は際立っているとの結論を下したのだ。

それから数年後、かつて経済学上で異端視されていた、財政支出に以前より広範かつ安定した役割を与える現代貨幣理論(MMT)への注目がより高まるようになり、一方で主流派の経済専門家も政府債務の概念を根本から見直し始めた。

ブランチャード氏もその一人だ。同氏が唱え始めたのは、ある国の金利水準が経済成長率より低い場合-これは現在の多くの先進国に当てはまるのだが-その場合は良い使い道だとみなされる公共投資を手控えるべきではないという考え方だ。

一方で、共和党系のエコノミスト、例えばマイケル・ストレイン氏などは米国の債務水準について、永久に無視することはできないばかりか、危機対応だからといって目をそらしてはいけない、より長期的な懸念要素だと主張している。FRBのパウエル議長もワシントンのシンクタンクで予算問題を扱っていた時代には、同様の見解を表明していた。

ただ、オバマ政権の大統領経済諮問委員長を務めたジェーソン・ファーマン氏ら民主党系エコノミストは議論の範囲を広げ、まさにイエレン氏が公聴会で指摘したように、重要なのは債務水準ではなく、借り入れコストだという説を掲げるまでになった。

イエレン氏は「財政状況全体を総合的に把握できる1つの指標は存在しないが、金利負担度合いは留意しておけば有用な指標だと思っている。経済に対する債務の規模が増大していっても、金利負担はそうなっていないというのが、今われわれが目にしている光景だ」と発言した。

(Howard Schneider記者)

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