今年の確定申告は、新型コロナウイルスの影響で例年と異なる点がある。元国税調査官で税理士・産業カウンセラーの飯田真弓氏は、「寄附金、医療費、特定支出の3つの控除で注意が必要だ。例えば、中止イベントのチケットを払い戻さなかった場合、税優遇を受けられる可能性がある」という――。

コロナ禍の確定申告は寄附金控除と医療費控除に注目
毎年、清水寺でその年を表す漢字が発表されるが、2020年を表す漢字は“密”だった。外出する際、マスクは必携。どこへ行ってもソーシャルディスタンスを保つことが強いられたからだろう。
26年間、所轄の税務署で働いていた筆者が“密”と聞いてすぐに連想するのは、確定申告の相談会場だ。確定申告の期間中、年金を受給されている方を中心に多くの人が確定申告会場に足を運ぶ。
サラリーマンの方の確定申告と言えば還付申告だ。なじみがあるのは、医療費控除や住宅ローン控除。最近では、ふるさと納税で還付申告をされる方も増えてきているようだ。
今回は令和2年分の確定申告で、サラリーマンが還付申告をする際に再度確認しておきたい3つの項目について書いてみたいと思う。
令和2年分として目新しいのは寄附金控除と医療費控除だ。
まず、寄附金控除から解説していこう。昨年、新型コロナウイルスの影響で「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」(以下、新型コロナ税特法)が制定された。一般の方にも関係ありそうなものでいうと、寄附金控除の特例だろう。
コンサートや文化芸術イベント等が中止等されてしまった時に、そのチケットの払い戻しを受けないことを選択された人はその金額分を「寄附」と見なし,税優遇を受けられるという制度だ。文化庁・スポーツ庁は、リーフレットを作成して、その仕組みを解説している。
アーティスト等に「寄附」しながら減税できる
寄附金控除は、納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、特定寄附金を支出した場合に所得から控除できる制度である(所得税法78条)。また、政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等に対する寄附金及び公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除に代えて、税額控除を選択することができることとされている(租税特別措置法41条の18、41条の18の2、41条の18の3)。
今回の新型コロナ税特法においては、観客等が指定行事の中止等により生じた入場料金等の払戻請求権の全部又は一部の放棄を、令和2年2月1日から令和3年12月31日までの期間(指定期間)内にした場合には、観客等がその年の指定期間内において放棄をした部分の入場料金等の払戻請求権の価額の合計額(最高20万円)について、寄附金控除の対象(所得控除・税額控除)とすることとされた(新型コロナ税特法5条)。
「指定行事」とは、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに開催予定であった文化芸術・スポーツに関する行事のうち、新型コロナウイルス感染症が発生したことによる政府からの要請を受けて中止等を行った行事であると認められるものとして文部科学大臣が指定するものとされている。具体的には、文化庁・スポーツ庁のホームページに随時公表されているので確認するとよいだろう。
特例を受けるには2つの書類が必要
この特例の適用を受けるためには、放棄をした翌年の確定申告において、原則として、確定申告書に次の書類を添付する必要がある(新型コロナ税特令3条、新型コロナ税特規3条)。
・指定行事認定証明書(指定行事に該当することその他一定の事実を証する書類)の写し
・払戻請求権放棄証明書(放棄をした入場料金等の払戻請求権の価額その他一定の事実を証する書類)
「払戻請求権放棄証明書」のひな形と記載例は文化庁のウェブサイトで確認してほしい。
新型コロナに関するボランティアや支援活動を行う団体への寄附も対象
また、以下の項目についても、寄附金控除の対象となることとなった。
1.新型コロナウイルス感染症に関連するボランティア団体等向け寄附金
新型コロナウイルス感染症に関連して中央共同募金会が募集するNPO法人や民間ボランティア団体等向けの寄附金(令和2年6月19日から令和3年1月31日までに受け入れたものに限る)
個人が寄附した場合
次のいずれかを選択
① 所得控除:寄附金額(総所得金額等の40%を限度)-2000円
② 税額控除:〔寄附金額(総所得金額等の40%を限度)-2000円〕×40%
※ 所得税額の25%を限度
2.新型コロナウイルス感染症対策等支援活動を行う公益社団法人又は公益財団法人が募集する寄附金
下記の(1)から(6)までの活動(以下「新型コロナウイルス感染症対策等支援活動」という)に特に必要となる費用に充てるため、その公益社団法人又は公益財団法人が募集する寄附金で一定の要件を満たすもの(以下「新型コロナウイルス感染症対策等支援寄附金」という)
(1)新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置の影響により日常生活に支障を生じていることその他これに類する事実がある者に対する支援を行う活動
(2)新型コロナウイルス感染症のまん延防止のための対策を周知する活動
(3)マスクその他の着用することによって新型コロナウイルスにばく露することを防止するための個人用の道具又は消毒液を配布する活動
(4)新型コロナウイルス感染症の患者が療養をするためのテントその他の仮設の施設を設置する活動
(5)新型コロナウイルス感染症の患者の診療に従事する医療従事者の通勤を支援する活動
(6)新型コロナウイルス感染症の患者の移送を支援する活動
個人が寄附した場合
次のいずれかを選択
①所得控除:寄附金額(総所得金額等の40%を限度)-2000
②税額控除:〔寄附金額(総所得金額等の40%を限度)-2000円〕×40%
※1 所得税額の25%を限度
※2 租税特別措置法第41条の18の3の規定により、PSTと同様の要件等を満たす公益社団法人又は公益財団法人への寄附金については、所得控除に代えて税額控除を選択することができる。
3.新型コロナウイルス感染症対策等支援活動を行う認定特定非営利活動法人等(認定NPO法人等)が募集する寄附金
認定特定非営利活動法人等(以下「認定NPO法人等」という)が自ら行う新型コロナウイルス感染症対策等支援活動に特に必要となる費用に充てるため、その認定NPO法人等が募集する寄附金で一定の要件を満たすもの(以下「新型コロナウイルス感染症対策等支援寄附金」という)
個人が寄附した場合
次のいずれかを選択
① 所得控除:寄附金額(総所得金額等の40%を限度)-2000円
② 税額控除:(寄附金額(総所得金額等の40%を限度)-2000円)×40%
※ 所得税額の25%を限度
一口にコロナ禍の寄附と言ってもいろいろなモノがある。
寄附した団体の活動が、今回の寄附金控除に該当するかどうかは、個々に確認する必要があるだろう。なお、寄附金控除を受けようとする際には、寄附受領書を確定申告書とともに提出しなければならない。
マスクは医療費控除にならない
2つ目に、医療費控除でもコロナ禍ならではのチェックポイントがある。PCR検査やオンライン診療関連の費用が医療費控除に適用できる場合があるのだ。国税庁のHP「4 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」で、コロナに関連した医療費控除の取り扱いについて書かれているので、ここで紹介しておきたい。
外出する際、携帯を忘れたことに気付き、「もう気が気でないし早く家に帰りたい!」という気持ちになったという方は少なくないだろう。
しかし、新型コロナウイルスが発生してからは、携帯よりもマスクが必携になった。
今や、マスクをせずに外出することは御法度というわけだ。
一時期、品薄で高額で取引されたりもしたが、近頃ではファッション性のあるものが出てきたり、おしゃれアイテムとしても定着しつつある。
また、誰にでも喜んでもらえるプレゼントとしても好評のようだ。
原則、医療費控除に該当するかどうかの判定は、それが治療行為なのか予防なのかが分かれ目になる。
このマスクの購入費用が医療費控除に該当するかどうかについては、国税庁のHPで下記のように回答されている。
【問12】マスク購入費用の医療費控除の適用について〔令和2年10月23日追加〕
私は、新型コロナウイルス感染症を予防するために、マスクを購入しましたが、この購入費用は、確定申告において医療費控除の対象となりますか。
○ 医療費控除の対象となる医療費は、
1 医師等による診療や治療のために支払った費用
2 治療や療養に必要な医薬品の購入費用
などとされています(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項)。
○ ご質問のマスクについては、病気の感染予防を目的に着用するものであり、その購入費用はこれら12のいずれの費用にも該当しないため、医療費控除の対象となりません。