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【群馬訴訟】東京高裁も〝自主避難者〟と向き合わず「避難の合理性」狭く判断 国の津波予見可能性や過酷事故回避可能性は全否定~控訴審判決

2011年3月の原発事故で群馬県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の控訴審判決が21日午後、東京高裁101号法廷(足立哲裁判長)で言い渡された。足立裁判長は東電に対しては一審・前橋地裁判決より総額で約3倍の賠償金支払いを命じたものの、避難指示区域外避難者の認容額は依然として低かった。一方、大津波の予見可能性や過酷事故の回避可能性を否定。「経産大臣が東電に対して規制権限を行使しなかった事は著しく合理性を欠くものとは認められない」として国の過失責任を認めた一審判決を破棄した。


【「一般人の感覚」とは何か?】

東電が一審原告たちに支払うべき慰謝料額について、東京高裁が認めたのは総額1億1972万1000円。一審・前橋地裁での認容額が計3855万円(請求額は約15億円)だったから、総額で3倍ほどに上がった。弁護団が「賠償額を上積み」としたのはそのためだ。

 しかし、慰謝料額の算出にあたっては一審原告が避難前に住んでいた地域によって細かく分類され、「避難指示の対象である帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域の住民」は1100万円から1500万円、「避難指示の対象ではないが避難に一般的に合理性が認められる緊急時避難準備区域及び特定避難勧奨地点の住民」は260万円から580万円と認定。一方で「自主的避難等対象区域の住民」(いわゆる〝自主避難者〟)は「30万円から70万円の慰謝料を認めるのが相当である」とするにとどまった。

 避難の合理性についても、避難指示区域からの避難者に関しては「何人も自己の選択した居住地及びその立地する周辺環境において、自己の選択した仕事に従事しながら放射線被ばくの恐怖や不安を感じることなく平穏な日常生活を送り、地域や職場のコミュニティの中で周りの人々との各種交流等を通じて自己の人格を形成、発展させるという人格的利益を本件事故によって侵害されたということができる」と認定した。だが、いわゆる〝自主避難者〟については次のような表現で合理性を一定程度認めつつも、範囲を狭めている。

 「政府の避難指示によらないで避難した場合でも、当該地域の放射線量、本件原発からの距離、避難の時期、避難者又は家族の属性(放射線に対して感受性が高いとされている年少者や妊婦がいるかなど)等を総合的に考慮し、避難の選択が一般人の感覚に照らして合理的であると評価できる場合には、避難の合理性が認められ、本件事故と避難との間に相当因果関係が認められる」

 必死に動いた人々の行動が合理的であるか否かを判断する尺度としての「一般人の感覚」とは何だろうか。



判決言い渡し後の報告集会で、原告の丹治さんは「悔しい」と何度も口にし、ハンカチで顔を覆って号泣した=日比谷コンベンションホール

【「国土に対する不当な評価」】

この訴訟では、避難指示区域外からの避難者を巡って被告国の暴論とも言える主張があった。

 2019年9月11日付で国側が東京高裁に提出した第8準備書面。次のような表現に原告はもちろん全国の原発避難者たちが驚き、激しく怒った。

  「自主的避難等対象区域からの避難者について(中略)平成24年1月以降について避難継続の相当性を肯定し、損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当」

 「低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルのものではないにもかかわらず、平成24年(2012年)1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない

 国はそもそも、避難指示が出されなかった地域からの避難については、ごく一部しか合理性を認めていない。

 「平成23年4月21日までに避難を開始した者であっても、当然に避難の相当性が認められるものではない」

 「子供や妊婦であるなどの個別事情によって、避難継続の相当性が認められる余地があるとしても、平成23年(2011年)12月末までというべきであって、実際にそれらの時点以降において避難先での生活を継続したとしても、それは移転先での生活への順応を前提とする新たな居住地の選択であって、損害との関係で継続した避難と評価されるべきものではない」

 確かに判決は、いわゆる〝自主避難者〟についても一定程度の避難の合理性を認めている。ごくわずかだが認容額は上積みされた。しかし、原告の1人、丹治杉江さん(福島県いわき市から群馬県前橋市に避難)は悔しさを口にし、報告集会ではハンカチで顔を覆って号泣した。

 「群馬で暮らしている人々にとっては、どの避難者も『福島から来た人』、『原発事故でお金をもらえた人』。誤解や偏見、中傷…。いろいろな事がありました。裁判でも2度、3度と傷つけられて来ました。生きて行くのが嫌になるくらいです。高裁が国のとんてもない主張を裁判所も認めたという事には納得出来ません。悔しいです。こんな不当な判決を許す事は出来ません」



判決要旨と弁護団声明。声明は「裁判所は国のまやかしの主張にごまかされた」、「わずかながら上積みされたが完全賠償にはほど遠い」などとして「不当判決」だと断じている

【「水密化しても事故防げず」】

一方、国の責任について判決は一審・前橋判決を破棄。国の逆転勝訴を言い渡した。

 判決要旨には次のように綴られている。

 「地震調査研究推進本部が平成14年(2002年)7月に公表した『三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について』(長期評価)の知見は(中略)同年2月に土木学会原子力土木委員会の津波評価部会が公表し、津波防災対策に係る7省庁手引を補完するものとして位置づけられていた『原子力発電所の津波評価技術』の知見とも整合しないものであったから、長期評価の知見から本件津波の発生を予見することができたということはできない」

 「長期評価の知見に従って一審被告東電が行った津波評価に関する試算を前提に、防潮堤等を設置したとしても、上記試算された津波と本件津波とはその規模や態様において大きく異なっているから、上記試算に基づいて防潮堤等を設置したとしても本件津波が本件原発内に浸水することを防止することはできなかった」

 「本件事故前において執られていた水密化措置は、原子炉施設内の機器室等の入口扉の水密化等局所的・部分的なもので、建屋全体について水密化する技術的知見は存在していなかったし、現実に執られていた局所的・部分的な水密化措置も内部溢水を想定したもので、津波がそのまま原子炉施設に浸水したのに対して原子炉施設の安全機能を保持するだけの水密化技術は確立していなかった。したがって、長期評価の知見を前提に水密化措置を講じたとしても本件事故の発生を回避することはできなかった」

 「長期評価後の一審被告国の津波対策に関する対応に問題があったとまで認めることは困難である」

 「以上の諸事情を総合的に考慮すると、経済産業大臣が一審被告東電に対して規制権限を行使しなかった(技術基準適合命令を発しなかった)ことが、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとは認められず、国賠法1条1項の適用上違法であるということはできない」

 弁護団事務局長の関夕三郎弁護士は「判決を聴いた時にはショックでしばらく立ち上がれなかった。裁判は法律と証拠で真実を明らかにするものだと考えていたが、判決は証拠を軒並み無視している。いったい、どこからこんな認定が出来るのか、愕然とした。申し訳ないが裁判官のリーガルマインドを疑う。(最高裁で)盛り返さなければ私のリーガルマインドが許さない」

 2017年3月の前橋地裁判決は、国の責任を認めた最初の判断だった。あれから4年。東京高裁は国の責任を全否定した。区域外避難者の冷遇は変わらない。原告たちは最高裁の判断を仰ぐべく、上告する方針だ。

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