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正論か、暴論か 「東京五輪開催できる」という人に根拠を聞いてみた

今年、東京五輪を開催できると考える人たちの根拠とは(写真/AFP=時事)

 二階俊博・自民党幹事長は「開催しないお考えを聞いてみたいぐらいだ」と見下すように言い放ち、森喜朗・東京五輪組織委会長は「不安? まったくありません」と嘯いた。そして菅義偉・総理は「必ずやり切る」と断言した。しかし、共同通信の世論調査では東京五輪の開催賛成はわずか14%。国民は冷ややかな目で見ている。五輪開催はもはや暴論ではないのか――それでも五輪をやれるという人たちに根拠を質した。

【写真】2016年・リオ五輪の開催式。ブラジル国旗を持った選手団が入場、会場は肩が触れ合う距離で関係者や選手が立つ

「ウイルスは弱毒化している」

 五輪開催に反対する声が多いのは、コロナ感染のさらなる拡大を懸念するからだろう。しかし、京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授の宮沢孝幸氏は、ウイルス研究者の立場から「東京五輪中止はナンセンス」と断言する。

「私は自民党支持者でもなんでもありませんが、森会長や二階幹事長が五輪開催を主張するのは間違っていないと思います。正しい感染予防対策さえ取れば、新型コロナに感染することはまずない。世間で騒がれているほど感染力が高いウイルスではありません。

 居酒屋で飲食をしながら大声で会話し、大量の飛沫を浴びれば別ですが、マスク着用のもと着席でスポーツを観戦したり、普通に会話する分には感染リスクはほとんどない。無観客試合や観客制限の必要はないと考えます」

 海外からの多くの観光者が感染拡大を招くという意見が多いが、これも宮沢氏は否定する。

「海外からの入国者は各国でPCR検査を受け、陰性証明をもって来日するでしょう。その中に感染者が含まれている確率はわずか。開催時期は夏季で、北半球の多くの国の感染率は低く、PCR検査をすり抜けるのはせいぜい10万人に1人程度だと私は考えます。

 東京五輪で仮に100万人の外国人旅行者が来日したとしても、PCR検査をすり抜けてくる陽性者は10人です。現在、日本では全国で毎日7000人の感染者が出ている。もっと多くの人がPCR検査を受ければ陽性者は何倍もいるでしょう。海外からその程度の陽性者が入ってきたからといって大きな影響は出ない」

 イギリスや南アフリカなど世界各地で確認されている変異種の流入リスクについてはどうか。

「ウイルスは常に変異するため、日本でも感染力の強い変異型が発生する可能性はあるし、既に海外から流入しているだろう。五輪による流入を防ぐことに大きな意味はありません。

 また、ウイルスは変異で毒性が変化するが、弱毒化したウイルスのほうが集団に広まりやすく、弱毒ウイルスが優勢になっていくのが普通です。

 イギリスの場合、第一波のピークだった昨年4月14~21日の感染者の平均は1日4788人で、死亡者は880人。一方、今年1月4~11日の平均は感染者が5万7851人、死亡者は933人。致死率が10分の1以下になっているので、断言はできないがデータを見る限りウイルスは弱毒化している可能性が高い。データを積み重ねれば、過度に怖れる必要はない」

「選手村を完全隔離すればいい」

 感染症を専門とする愛知医科大学循環器内科助教の後藤礼司氏は、感染リスクの徹底管理で開催可能と主張した。

「開催の意思はあるのに準備を尽くしていない政権への批判が五輪反対論につながっています。粛々と備えれば開催は十分可能です。まずやるべきは無観客開催の宣言と、選手の感染管理策を示すことです」

 具体的な対策として挙げるのが、アメリカのプロバスケットリーグ・NBAがプレーオフで実施した「バブル」方式だ。

「NBAはフロリダ州のディズニーワールドリゾート内に『バブル』と呼ばれる隔離地域を定め、選手と少数のスタッフを外部と遮断し、競技を行ないました。現在は全米での開催となり感染した選手も出ているが、バブル実施中はPCR検査での陽性者はゼロでした。

 感染者をバブルに入れなければ、選手やスタッフはコロナから隔絶される。オリンピック委員会は『選手は選手村と練習場以外の行き来ができないようにする』と約束しているので、それを徹底する。政府も開催意思が強いならせめてこのような具体策を示す。そうすれば国民からも世界からも一定の理解を得られるはずです」(後藤氏)

「これまでの投資が無駄になる」

 日本経済への配慮から五輪開催を訴える声もある。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が語る。

「中止すれば約3.2兆円の経済波及効果が失われ、これまでの投資もすべて無駄になってしまいます。科学技術などさまざまな面で“コロナを克服した”とアピールできなくなるのも日本にとって痛手でしょう。これまで五輪開催国では確実にその後のインバウンドが増えている。たとえ無観客で参加選手が限られたとしても、開催することが重要です。

 ただし五輪開催で再び緊急事態宣言を出すようなことは避けなければならない。ワクチンの効果や今後の感染状況を見極める必要はありますが、現時点で中止と決め込むのは早計です」

 自民党都連最高顧問で郵政大臣、通産大臣などを歴任した深谷隆司氏も開催への努力を尽くすべきと語る。

「世界の感染状況を見て、最終的に決定するのは5月ごろでいいと思っています。大事なのは、開催するためにどうやってコロナを抑え込むか、全身全霊をかけて取り組む姿勢を世界に見せることです。

 日本が本気度を示すには法改正に取り組むこと。現在の強制力のない緊急事態宣言では、どんな対策を講じても世界を納得させられない。憲法改正で緊急事態条項を整えることを、ぜひ与野党で議論してもらいたい」

「セレモニーなんてなくていい」

「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」――2004年アテネ五輪の体操・男子団体決勝など、数々の名実況で知られる元NHKアナウンサーの刈屋富士雄氏は「五輪という日本の未来の財産を失ってはいけない」と強く主張する。

「五輪には経済効果より大事なことがある。それは真剣に戦うアスリートたちが創り出す心揺さぶるシーンです。五輪でしか味わうことができない張り詰めた空気の中で選手が見せる一瞬にして永遠の煌めきを目撃する機会を失うのは日本の若者にとって大損失です。

 セレモニーなんてできなくてもいいし、観客制限も仕方ない。しかし、せめて10代の若者たちだけでも会場に招いて現場の空気を体験してもらいたい。そこで感じたインスピレーションが、その人の人生を変え、未来を変えていくことにつながるかもしれない。

 2018年平昌五輪のスピードスケート女子500メートル決勝で、小平奈緒と韓国のイ・サンファが肩を抱き合ったシーンを思い出してほしい。あれを見た韓国の若者の日本に対するイメージは大きく変わったはずです。言葉より強いメッセージを世界に発信できる力が五輪にはある。“開催を1年待ってくれ”と言った日本には、開催に向け最後まで努力をする義務がある」

 1972年ミュンヘン五輪の平泳ぎ100メートルで金メダル、200メートルで銅メダルを獲得した医療創生大学副学長の田口信教氏もアスリートの立場から五輪開催を熱望する。

「選手にとっても五輪は最大の目標であり、レベルアップの大きなチャンス。ぜひ五輪でしかできない貴重な経験をさせてあげたい。そのために選手たちも自覚を持って自己管理してほしい。

 開催までにワクチンが間に合わなければ観客を最低限に減らしてもいいと思う。現代の放送技術なら、テレビでもスポーツの面白さは臨場感をもって伝えられる」

※週刊ポスト2021年1月29日号

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