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くまモンはゆるキャラではない!(中編)

くまモン、ゆるキャラのようでいて実は徹底的にコンセプトを煮詰めたキャラクター、いわば「なーんちゃってゆるキャラ」であることを前回は示していた。くまモンは、その洗練されたコンセプトを隠蔽するため、あえてゆるいところを配置させる「ダサイジング」という手法(ただし、この命名は筆者)を採用した。そうして、ゆるキャラのラインナップに乗っかることで、今、旬の「ゆるキャラブーム」に便乗し、他の本当のゆるキャラと並びながら、その実洗練化したコンセプトで客を奪っていくという詐術で爆発的なブームを引き起こしたのだ。

では、そのコンセプトとはなんだろう。まあ小山薫堂と水野学のことだからいろいろんなことをやっているのだろうけれど、ここではくまモンのデザインコンセプトに限定して注目してみたい。

ほとんど設定が、ない

くまモンは90年代以降キャラクターの基調の一つとなった二つのコンセプトを忠実に踏襲している。「物語性の欠如」と「視線の喪失」だ。

まず「物語性の欠如」。本来キャラクターはアニメやマンガ作品の登場人物として位置づけられる。たとえば「鉄腕アトム」は未来世界という設定があり、その中でロボット三原則を守る正義の味方のロボット=心やさしい科学の子といった性格付けがなされている。つまり物語や設定あって初めて成立するキャラクター。またミッキーマウスについては強くて明るい元気な子、かつ紳士でイマジネーションのパワーを信じているといった性格が設定され、これはどんな役割を演じる際にも踏襲されている。

ところが、90年代から背後に物語や設定のないキャラクターが頻発し始める。つまり単なる情報=記号としてのキャラクターが次々と出現しはじめたのだ。この辺については東浩紀が『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)の中で、ブロッコリーのキャラクター、デジキャラットを取り上げて指摘しているのでご存知の方も多いだろう。デジキャラットはオタクアニメキャラの萌え要素だけを組み合わせて作った物語のない、そして性格もほとんどわからない(凶暴らしいのだが)キャラクター、言い換えれば設定の一切ないキャラクターとして出現し、支持を得たのだ。

さて、くまモンだが、やはりほとんど背後に物語を背負っていない(誕生日3月11日は九州新幹線全線開通日、「いちおう公務員」で、身近にあるサプライズ&ハッピーを見つけて全国に知らせることを目標にすると、オフィシャルページの自己紹介にあるが、これじゃほとんど他のゆるキャラとの差異化になっていないので物語と言うには失格に近い。まあ、熊本を全国に知ってもらうために、出現時に大阪で名刺を配ったなんてサプライズもやったらしいが)。

くまモンはどこを見ているんだろう?

もう一つ「視線の喪失」はどうか?要するに、くまモンの目は「瞳孔が開いている」という状態なのだ。一応、サプライズを探すので「驚いている」ということになってはいる。まあ、そう言われればそういうふうにとれないこともないが「ボーッとしている」「何も考えていない」「死んでいる」というふうにも見える。言い換えればどこを見ているのかわからないのだ。もっとはっきり言ってしまえば「こちらを見ていない」、だから視線が失われている。

こういったキャラクターも、実はここ二十年の間に次々と出現している。もともと日本のキャラクター、とりわけアニメのそれでは視線がはっきりと一定の方を向いているものが多かった。典型的なのは少女漫画の通称「お目々バチバチ」というやつで、これは明らかに読者(あるいは彼氏?王子様?)に向かって媚びた視線=感情を投げかけている。そしてこういったはっきりとした視線は海外の作品を国内に導入する際にも持ち込まれている。たとえばムーミン。放映された当初ムーミンの目は楕円でかわいい、やはりやや媚びたようなタッチだったが、これはオリジナルのタダ丸くて焦点が定まっていないものとは異なっていたため、原作者のトーベ・ヤンソンからクレームが付き、後に修正された逸話がある。ちなみにその焦点の定まらないものに変更したときには「怖い」という苦情が殺到したとか。

視線が定まらないキャラクターが注目されはじめるのは90年代半ばからだ(ちなみに古くは70年代後半、吾妻ひでおが描いた「ナハハ」や「のた魚」があるが、知っているのは一部マニアのみ)。その典型が「たれぱんだ」で、このキャラクターは明らかに瞳孔が開いた状態で、どこを見ているのかわからない(ちなみに姿勢も寝ているのか立っているの、逆立ちしているのかかわからない)。また同時期に登場したToy Storyに登場するエイリアン、リトル・グリーン・メンも同様で、こちらは三ツ目なのでさらにどこを見ているのか全くわからない。そして、これらはいずれも人気を博した。

物語の欠如と視線の消失が産む解釈の自由

「物語の欠如」と「視線の消失」という二つの傾向は、最終的に一つの方向性へとそのキャラクターの特徴を収斂させる。それは、キャラクターがこちらに何らかの訴えかけをしてこないという「押しつけがましくない」存在になること、それによってこのキャラクターに対し、こちらが自由に視線を投げかけることが出来るという点だ。物語がないのだから、どんな物語を付与してもよいし、こっちを見ていないのだからこっちから見て適当に表情を判断すればいい。つまり、自分の思うがままにそこに意味を読み取ることができる(言語学者のロラン・バルトはこのことを「テクストの快楽」と呼んだ)。

こういった「主張しない、読み込み自由」なキャラクターはが90年代後半以降のトレンドとなった。ちょっとあげてみよう。古くはハローキティやミッフィ(出現はさらにずっと前だが、この時期にブレイクしている)。これらには口がない(あるいは口が×)。だから主張しないし表情がない。ということは表情はこちらが勝手に読み込めばいいということになる(ハローキティでは「口は自分でその都度入れてください」との説明まである。アニメに登場するハローキティは口があり違和感がある)。また2000年前後にはペットとして爬虫類系がもてはやされたことがあるが、これも表情がなく感情が判断できないのでかわいいということになった(これらペットは”ムヒョ系”、つまり「無表情系のペット」と呼ばれた)。そしてディズニーシーに出現したのダッフィーはまさにこういった「主張しない、読み込み自由」キャラクターのディズニー版。ほとんど物語を持たず(とってつけたようなものあるだけ。しかもオリジナルとなったアメリカのディズニーベアとはその設定を変更している)、ディズニー的な文法を全く踏まえていない(身体に“隠れミッキー”が加えられて、かろうじてディズニーファミリーであることを示しているのみ)。にもかかわらず爆発的なブームを生み、日本ではディズニーキャラクターとしてミッキーマウスに次ぐポジションにまで上り詰めたのだ。

そして、こういった文法を集約したかたちでデザインされているのがくまモンなのだ。くまモンは、一切主張しないことでこれを所有する側の意のままに思い入れが可能という「お気に召すまま」キャラクターという近年のトレンドを徹底して踏襲しているのである。

じゃあ、こういったデザインや戦略はどういうかたちで一般に受け入れられているんだろう。そして熊本の地域活性化に貢献しているのだろう?(続く)

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