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補完通貨の考え - 岡光序治

地球規模の課題と日本の医療のこれから

地球規模の様々な課題―資源枯渇とか金融危機など―を抱えた人類が21世紀も幸せに暮らしていくためには、地域社会から全世界レベルまで持続可能な運営ができるような仕組みを考えていく必要がある。

国連の『ブルントラント・レポート』(1987年)では、持続可能性について、「持続可能な開発とは、未来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズが満たされるような開発である」と定義した。

10月27日の日経新聞『私の履歴書』で根岸英一先生が述べておられる「緑の化学」(グリーンケミストリー)の5つの条件をなるほどと思う次第である。Y:イールド、収率。原料からできるだけ多くの生成物を得たい。E:エフィシェンシー、効率性。より少ない工程。S:セレクティビティー、選択性。必要な分だけ作る。E:エコノミカリー、経済的に。S:セーフティー、安全性。人に害を及ぼすような元素や化合物を使ったり合成してはいけない。

モノはふんだんにあって、カネさえあれば勝手に使える、のではない。グローバル資本主義においては、地球上のすべての人間が同質集団を形成することを目指す。地球上どこでも同質の商品が生産され、その商品にすべての労働者=消費者が同一の欲望を抱く、と考える。「欲望の連鎖」を引き起こし「大量生産・大量消費・大量廃棄」型のライフスタイルがいわば強要される。しかし、資源には限りがあり、しかも、予測不能な脅威が存在する。

ライフスタイルを「豊かさ」(量)から「幸せ」(質)に転換するべき時が来ている。幸せは、物量より人間関係の質に重きを置く。モノではなく心、消費ではなく生産、没個性ではなく個性、こそが追及されねばならない。

このことは、わが国の医療のあるべき姿を考えると、よくわかる。超高齢社会において医療の多くの対象者は高齢者である。この人々は、複数の病気を同時に抱え、症状の悪化と改善を繰り返す。もはや病院で完治することは期待できない。医療と福祉を順次受け、回復したり再発したり、新たな病気が発生したりの循環を繰り返し、最期に死に至る。クスリや機械を駆使した物量医療ではなく心に主眼をおき(病気の気を正し)、患者は医療の消費者ではなく医療関係者と心を交わしながら協働作業のもと尊厳のある生活を生産することが求められ、個々人の状況に応じた個の医療が求められている。

補完通貨:持続可能な社会に向けた提案

では、持続可能な社会にするために具体的に何が必要なのか?

エネルギー資源について、資源浪費型から自然の恵みを利用するものへの転換(自然エネルギーの活用・代替)であり、通貨システムについて、短期的に儲かる投資に資金が集まりやすい現在のシステムに、人類のためになる事業を促進する新たなシステムを補完することではなかろうか。

化石燃料頼みの今の文明から新しい文明に移行する際にも、資金(カネ)が必要である。

現在、資金は融資という形でしか調達できず、借りた側は金利を付け、借りた以上の額を返さねばならない。地球の資源が有限である以上経済も際限なく発展できないことは自明であるにもかかわらず、そもそも金利のせいで果てしない経済成長が求められている。この金融システムを改めることが破たんをきたさないために不可欠と言える。

具体的には、手持ちのお金が少しずつ減っていくという減価システムをもつ通貨システムを導入し、融資ではなく貸与という形で発行するシステムを付け加えることである。

シルビオ・ゲゼルは、1916年『自然的経済秩序』のなかで、「減価する通貨」というシステムを提言した。商品は多かれ少なかれ時間の経過とともにその価値は減るのに、物価が安定している場合にはお金の価値だけは変わらない(いつでも自分が好きな時に使えるお金をわざわざ人に貸す場合には、その対価として金利を取ろうという考えが生まれた)。

そこでゲゼルは、お金を持っている人が有利になる今の通貨システムを改革すべく、「お金の特権を廃止しよう」というわけだ。つまり、お金の価値も他の商品の価値と同じように少しずつ減るようにしよう、というわけである。

「補完通貨」という表現は、ベルギー出身のベルナルド・リエターがEUへのレポートの中で初めて使ったという。リエターは、『マネー崩壊』(日本経済評論社)で、米ドルなど今の通貨は科学技術や中央権力、権威が支配するタテ社会、競争、一時的繁栄など男性的=陽的な価値を推進し、人間同士の対話や相互信頼、平等主義が基本のヨコ社会、協力、持続性など女性的=陰的な価値を疎んずる傾向を持つ。両者の均衡を図る必要があり、陽的部分は現在の通貨に任せ、陰的な部分をカバーするような通貨を補完通貨として導入することを提案した。

補完通貨の運営のためには専門の組織が必要である。行政と連携しつつも行政から独立した形で運営する。地域の参加者からの「できます」「してください」リストを編集・配布、仲間作りを進めながら、新しい多様な人間関係を生み出す場として運営することが考えられる。

また、子ども給付金などの現金給付は、減価する通貨で支給してはどうか。週2%減価を実施すれば、問題なく支給できる。SUICAのようなポイント制にして、このポイントで買い物や公共料金を支払えるようにする。これを受け取った商店、企業、自治体は日本円同様に使い続ける(当然のことながら、ポイントは減価するので、できるだけ早く使おうと考えるはず)。ずいぶん、面白いことになるのではないか。

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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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