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罰則規定なぜ求める?新型コロナとポピュリスト

会見する小池百合子東京都知事 共同通信社

「腐敗した敵」を設定し支持を集める小池都知事

ポピュリストのパフォーマンスに騙されてはいけない。年始早々、もっともメディアを賑わせる政治的パフォーマンスに成功したのは、典型的なポピュリスト、東京都の小池百合子知事であったことは間違いない。

彼女は首都圏の各県知事を巻き込む形で国に緊急事態宣言を出させることに成功し、今後の国会で争点となる新型インフルエンザ等特措法の改正において実行力を高めることを名目に、罰則規定を取り入れるようにも求めてきた。

一見すると感染症対策に熱心であり、彼女の発信に対しては専門家から「政府よりも考えが近い」という声があった。

だが、本当に小池氏はコロナ対策に熱心なのだろうか。むしろ、政局ゲームに熱心なようにしか見えない。

私が都度参考にしているポピュリズムの定義はこうだ。

「社会が究極的に『汚れなき人民』対『腐敗したエリート』という敵対する二つの同質的な陣営に分かれると考え、政治とは人民の一般意志の表現であるべきだと論じる、中心の薄弱なイデオロギー」(カス・ミュデら『ポピュリズム:デモクラシーの友と敵』白水社、2018年)

この定義が優れているのは、中心の薄弱さと二項対立的な構図にこそポピュリズムの本質があると指摘しているところにある。

「都民ファースト」という言葉に象徴的に表れる小池氏の政治手法は、この定義にピタリとあてはまる。彼女は「穢れなき普通の都民」を代弁し、「腐敗した敵」をその都度設定することで、支持を集めてきた。

今回、ターゲットになったのは菅義偉首相だ。小池氏は、都に比べ国はより対策に消極的で、後手後手に回っているという印象操作に成功し、批判の矛先をすり替えた。

小池知事を支持していない人にも、メモを読む首相と比べて「なんて熱心な人なんだ」と思った人は少なくないだろう。

いくら政権側が「昨年12月の時点で、東京都は飲食店の営業を午後10時まで認め、午後8時までの時短営業要請をしなかった」と主張しても遅い。まさに後手であり、迅速に動いたイメージをいち早く作ったほうが政局には有利だ。マスコミ各社の世論調査でも、支持率は軒並み低下している。

コロナ対策には逆効果だった「夜の街」という言葉

繰り返しになるが、小池氏は典型的なポピュリスト政治家で、「敵」を作る能力に長けている。例えば、第1波、第2波を思い返してみよう。小池氏は一貫して、「夜の街」をターゲットにした発言を繰り返した。

これにより小池氏は「夜の街に出入りする人々」を特殊な人々、「普通の都民」とは違う人々であると印象付けることに成功したが、こうした印象操作が本当に効果的だったは疑問だ。

前回のコラムでも少し書いたが、実際のところ「夜の街」の感染対策にもっとも熱心かつ効果的な手を打ったのは、新宿区と新宿区保健所だった。彼らは、ホストクラブの経営者たちと腹を割って話し合い、「接待を伴う飲食店」として名指しされたキャバクラの関係者なども参加したネットワークを築く。検査のホットラインも作り、経営者たちが強く警戒していたクラスターが発生した店舗名公表についても、区側にその発想はないと明言した。

新宿区は少なくとも歌舞伎町をターゲットにした厳罰化は感染症対策に効果がない、と判断した。なぜか。

店名を公表すれば、社会に広く蔓延している処罰感情を満たせるだろう。だが、それによって店名が公表されるリスクを取るくらいなら検査には協力しない、という動機が強まってしまう。感染している可能性が高い人々が検査を恐れ、逃げ回ったらどうなるか。結果は火を見るより明らかだ。

対策に尽力した関係者の中に、小池氏が連呼した「夜の街」という言葉に対する恨み節を漏らした人は少なくない。取材ノートにこんな言葉があった。

「歌舞伎町だって一枚岩ではない。あれだけ行政から敵扱いされたら、『うちの店は協力しない。なんで従わないといけないんだ』という店は出るし、実際に営業したほうが儲かるという声は強い。それでも協力しようという人がいるのに、ターゲットにしないでほしい」

小池氏の発信によって感染症対策に協力するグループと、しないグループに分断され、一つの街に深い亀裂が生まれてしまう可能性があった。これこそが現実的な危機だったのだ。結果的に区と保健所、経営者たちの努力が功を奏し、第二波の感染者数は収束に向かい、関係者によれば第三波でも大きな波になっていないという。

コミュニケーションを重ねた現場から見えるのはパフォーマンスに終始したトップの姿だった。

「腐敗した敵」はどこにでも設定することができる。

特措法改正で自粛に従わない飲食店が「違法事業者」になる?

次のターゲットになる可能性が高いのは「飲食店」ではないか。小池氏が主張しーそして、政府与党も賛同し既定路線になっているー特措法改正が実現し、いかに軽微なものであれ罰則規定が導入されたらどうなるか。

社会学者の西田亮介が指摘するように(https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/1345963715418472448)、罰則を導入すれば、緊急事態宣言下で補償を受け取らずに営業を続ける飲食店はどんな理由があっても「違法事業者」になる。

「ポピュリスト」が危機の真っ只中で民意と法を背景に「違法業者」を叩く未来は、より現実のものとして想定されなければならない。

「今、再び感染が拡大しており、人々は恐怖感を強めている可能性がある。恐怖心に駆られると世論は強行策に傾きがちになる。このような時に民主主義的な意思決定をしても、あまり良い結果が出ない可能性がある」(社会の対立増幅 感染の恐怖で世論強硬に 求められる冷静さ 森政稔・東京大教授 - 毎日新聞 2021年1月5日
「危機に関する法律は、その最中に変えるべきではない。危機が起きている時には極端な方向に議論がふれやすい。理性的な判断ができる状況下で時間をかけて議論し、合意形成を得るべきだ」(戦略なき「一番の悪手」方針転換、緊急事態再宣言 日大・福田充教授 - 西日本新聞オンライン版 2021年1月9日

危機時の法改正のリスクは、このように社会科学畑の専門家からは疑念の声が上がっている。

この先、小池氏は特措法改正を求める動きを強めるだろう。それも自分の責任を棚上げしたままに。

東京都医師会長の尾崎治夫は「都立の駒込病院や広尾病院、2つくらいを転用して作ってくれとずっと都に訴えてきました」(医療崩壊への危機感…都医師会長が「新型コロナ専門病院」設置を本気で提唱するワケ- 現代ビジネス 2020年12月27日)という。

経済学者の大竹文雄―彼は政府の新型コロナ感染症対策分科会のメンバーでもあるーは昨年8月の時点から「重症者に対応する病床が不足することが医療崩壊を引き起こす最大の原因であるため、そこへの対応も不可欠だ」(「新型コロナは制御可能」が今夏の経験の結論だ - 東洋経済オンライン 2020年9月5日)と主張を続けている。

これらが実現していれば、より望ましかったことは論をまたないが、小池氏の動きはここでも鈍かったように見える。

ポピュリストは、失政を挽回し「強いリーダー」を演出するための武器を常に求めている。より強大な権限を与える決定を危機の真っ只中ですべきか否か。歴史を振り返れば、ポピュリストたちはしばしば誤った答えを出す。危機時ほど、大胆な言葉には注意が必要だと思うのだが……。

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