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「福祉」に頼りたくない、それぞれの理由。「扶養照会」についてのアンケートから見えたもの。の巻 - 雨宮処凛

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 コロナ禍で、多くの人が生活困窮に直面している。

 仕事を失い、貯金も尽き、家賃やライフラインの滞納も始まっているという人も多いだろう。そんな時、頭にちらつくのは「生活保護」という言葉だと思う。自力で頑張りたいけれど、友人知人から借金もしていて、売れるものはすべて売って、万策尽きている状態。迷い、悩みながら勇気を振り絞って訪れた役所の窓口で、「大変でしたね」とねぎらいの言葉をかけられ、思わず涙した人もいる。一方で、冷たい対応をされたと憤る人もいる。

 そんな生活保護を利用する上で、大きなハードルとなっているのが「扶養照会」だ。

 扶養照会とは、親族に連絡が行くこと。生活保護の申請をすると、親や兄弟、子どものもとに「あなたの息子さん(きょうだい、親など)が生活保護の申請に来ているが面倒をみることはできないか」と連絡が行くのだ。

 これがどうしても嫌、ということで生活保護を利用せずにいる人を、少なくない数、知っている。仕事と住まいを失った人に生活保護申請を提案したところ、「受けてみるしかないかな」と前向きだったものの、「扶養照会」の説明した途端に顔色を変え、「無理です」と言われたことも一度や二度ではない。

 もし、自分だったら。

 そう考えると、私も嫌だ。現在、親や兄弟との関係が悪くない私でもそう思うのだ。関係が複雑だったりしたら、その抵抗感は何倍にもなるだろう。

 ちなみに扶養照会は、されない場合もある。厚労省は、DVや虐待があった場合は問い合わせをしないこと、また20年以上音信不通、親族が70歳以上など明らかに扶養が見込めない場合は問い合わせをしなくていいという通知を出している。が、これを守っていない自治体もあるのが現実なので、虐待を受けていた場合などはその事実を強調し、「扶養照会は絶対にしないでください」と念を押そう。

 しかし、中には厚労省の通知を守らないどころか、「生活保護申請をするなら親族に連絡する」と言って申請をあきらめさせようとする自治体も一部あるという。なんだかため息が出てくるような話だ。

 そんな扶養照会について、つくろい東京ファンドがアンケートを行った。対象は、この年末年始に困窮者向けの相談会を訪れた人たちで、165人。

 165人中、生活保護を、A)現在利用している人は22.4%。B)過去利用していた人は13.3%、C)一度も利用していない人は64.2%で128人。

 いま生活保護を利用していない、B)とC)の人に、その理由を聞いたところ、もっとも多かった回答が「家族に知られるのが嫌」(34.4%)だった。20〜50代に限定すると、77人中33人(42.9%)が「家族に知られるのが嫌」を選んでいた。ちなみに生活保護を利用していない人の実に52.1%が路上や公園、ネットカフェや簡易旅館など安定した住まいがない状態。それでも家族に知られるのが嫌で生活保護を利用していないのだ。

 一方、生活保護を利用したことがある人59人のうち、32人(54.2%)が扶養照会に「抵抗感があった」と回答。

 ここから、アンケートに答えてくれた人の記述を見てみよう。生活保護を今利用している人、過去利用していた人からは、扶養照会について、以下のような声があった。

 「家族から縁を切られるのではと思った」
 「親と疎遠なのに連絡された」
 「親は他界。きょうだいに連絡行ったのが嫌だった」
 「子どもに連絡いくのが嫌だった」
 「知られたくない。田舎だから親戚にも知られてしまう」
 「困ります。一回きょうだいが迎えに来て困った。その時もお金を一回置いていっただけ。どうにもならない」
 「家族に知られるのがいちばんのハードル」
 「親に連絡されることに抵抗あった」

 やはり抵抗感は強い。中には以下のような回答もあった。

 「以前利用した際、不仲の親に連絡された。妹には絶縁され、親は『援助する』と答え(申請が)却下された。実家に戻ったら親は面倒など見てくれず、路上生活に」

 援助する気などないのに、親が「援助する」と言ったため生活保護を利用できずに路上生活になってしまったという最悪のパターンだ。扶養照会などなければ、この人は生活保護を利用でき、路上に行かずに済んだだろう。

 また、生活保護を利用していない人からは、その理由として以下のようなものがあった。

 「窓口で相談すると扶養照会される。年取った両親をビックリさせたくない」
 「今の姿を自分の娘に知られたくない」
 「子どもに連絡が行くのはイヤ」
 「扶養照会があるから利用できないでいる」

 やはり、扶養紹介が大きなハードルになっている。一方、もし制度が変わって、親族に知られることがないなら生活保護を利用したいと答えた人は約4割。

 つくろい東京ファンドでは、都内のいくつかの区で、扶養照会の実績について調査している。前回の原稿で、足立区では2019年、生活保護新規申請世帯は2275件だったが、うち、扶養照会によって実際に扶養がなされたのはわずか7件だということは書いたが、他の区も同じような結果だった。

 例えば台東区は19年、1187件の保護が開始されたが、なんらかの援助ができると回答したのはわずか5件で0.4%。荒川区、あきる野市に至っては、扶養照会の結果、なんらかの援助ができると回答したのは0件。本当に、やっても意味がないのである。

 このアンケートでは、扶養照会以外にも、生活保護を利用する上でのハードルがいくつか挙げられている。そのひとつが「根掘り葉掘り」話を聞かれること。

 「過去に〇〇区に行ったらとんでもない目にあった。取り囲まれて根掘り葉掘り」
 「役所でいろいろ話すのが煩わしく面倒だった」
 「かつて役所で嫌な目に遭った。体調悪くても身の上話からしなくちゃならない」

 この回答に、深く頷いた。

 私もこれまで少なくない人の生活保護申請に同行してきたが、「なんでそこまで過去のことを根掘り葉掘り聞くの? 関係なくない? 」と面食らったことは一度や二度ではない。

 この年末年始、相談会に来て生活保護利用を始めた人からも、「小学校の名前とか、ものすごく遡って全部話さないといけなくて嫌だった」という声を聞いた。現在の所持金や仕事、住まいの有無など最低限の聞き取りはもちろん必要だが、中には「それ関係ある?」ということを延々と聞き出される場合もある。その人がこれまで辿ってきた人生について、あまりにも執拗に聞き出すのは、当人にダメージを与える行為だと思う。

 なぜなら、それが「人生でもっとも成功している時期」なら気分がいいだろうが、もっとも経済的に厳しい時に「これまでの軌跡」を話すのは過酷なことだと思うからだ。

 なんだか赤の他人に「人生の成績表」の点数をつけられているような、そんな情けない気分になるのではないか。そんなやりとりは、時に当人をたまらなく「惨め」な気持ちにもさせるだろう。

 こんなことを書くのは、「聞き取り」がひとつのきっかけとなったのではないかと言われる心中事件があるからだ。

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