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焦点:「分断国家と不安定化した世界」を遺したトランプ氏


[ワシントン 19日 ロイター] - トランプ米大統領は2017年1月20日の就任演説で「アメリカの大虐殺」、すなわち殺伐(さつばつ)として機能不全に陥った米国の現状を終わらせると約束し、それができるのは自分だけだと豪語した。

4年の任期を終えてトランプ氏が去った後に残るのは、新型コロナウイルスの感染で1日に数千人が亡くなり、経済が手ひどく痛んで政治暴力が吹き荒れる、さらに二極化が進んだ米国だ。

今や米国人の日常を定義付けるようになった苦々しい格差は、トランプ氏が一から生み出したわけではない。とはいえトランプ氏は、格差の多くを自分の権力基盤を作るための道具とした。地方の住民や労働者階層は政治的エリートから無視されてきたと訴え、トランプ氏はこうした人々を引っ張り上げると約束した。

6日には、大半が白人のトランプ氏支持者数千人が連邦議会議事堂に乗り込んだが、彼らが盾にしたのは「盗まれた選挙」というトランプ氏の誤った主張だった。この騒乱で警官1人を含む5人が死亡、数十人が負傷し、国全体が揺れた。

20日にホワイトハウスを去るトランプ氏のレガシー(遺産)の大部分は、同氏の大統領就任前よりも政治的・文化的に分断した米国民、ということになりそうだ。

反トランプ派は、こうした分断の核心に人種問題があると指摘する。2017年にバージニア州シャーロッツビルで白人至上主義を掲げる団体と反対派が衝突した事件で、トランプ氏は当初、白人至上主義者らの非難を避け、こうした団体の言い分に共感しているとの受け止めが広がった。トランプ氏の過激な言い回しはしばしば、黒人が警官に殺された事件を巡って高まった人種的な危機をさらにあおり立てた。

反貧困・反人種差別に取り組む「プア・ピープルズ・キャンペーン」の著名な人権活動家、ウィリアム・バーバー牧師は「悲しむべきことだが、トランプ氏の存在は(米国における人種間の)分割統治の歴史がもたらした当然の帰結だ」と指摘。「実際のところ、トランプ氏はそれを徹底的に進めたにすぎない」と述べた。

<「忘れられた」人々に強い訴求力>

トランプ氏は人種差別主義的な憎悪はまったくないと繰り返し述べている。

トランプ氏の強固な支持者は、過去の民主・共和両党政権が数十年にわたり苦しんできた貧困層や労働者層、地方を見捨ててきたとし、その政策を修正しているのがトランプ氏だと主張している。こうした支持層の規模は依然として大きく、これもまたトランプ時代のレガシーになりそうだ。

大統領選の結果に反対する親トランプ団体「ストップ・ザ・スティール」とつながりのある保守派活動家、アレックス・ブルゼヴィッツ氏は、トランプ氏は労働者層有権者に対する訴求力を維持していると話す。「彼らは自分たちが忘れられたと感じていた。そのときトランプ氏が『もう忘れ去られてはいないぞ』と語りかけたのだ」と言う。

トランプ氏は大統領選での敗北を受け入れず、支持者に連邦議会議事堂に向けて行進するよう促した。このことは、渦巻く虚偽を数百万人の共和党支持者が信じ込んでいることを意味し、次期政権がこうした人々の信頼を勝ち取るのは大きな難題となるだろう。

トランプ氏が軽視した新型コロナは感染が拡大し、コロナ禍による深刻な景気悪化で財政は厳しさを増している。トランプ氏支持派による連邦議会議事堂乱入で勢いづいた極右が再び暴動を起こすのを懸念し、首都ワシントンは厳重な警戒を敷いている。

共和・民主両党の政権で国務省の顧問を務め、今はカーネギー国際平和財団に籍を置くアーロン・デービッド・ミラー氏は「米国の機能不全かこれほどあからさまになったことは近代の大統領制ではかつてないことだ」と述べた。

ホワイトハウスのディア報道官はロイターに対して書面で、トランプ氏の経済面の成果として、経済を回復軌道に乗せたことや規制緩和などを列挙。大統領はメキシコとの国境の警備を確実にし、米軍を再強化し、一部の軍隊を帰還させ、わずか数カ月で新型コロナワクチンの開発を成し遂げたと説明した。

一方、トランプ氏に対する人種差別を巡る批判については返答を避けた。

<傷ついた米国の民主主義>

確かにトランプ氏は共和党が最優先とする多くの課題に取り組んだ。

上院で過半数の議席を握る共和党のマコネル院内総務と連携し、最高裁判事3人、連邦判事200人余りを指名し、司法をさらに保守化させた。

トランプ氏は大型の法人税減税を導入。成長率は前オバマ政権時代よりも加速し、失業率は過去最低となった。

しかし、好調だった景気は新型コロナ流行による経済閉鎖で失速。失業率が上昇し、景気は約100年で最悪の落ち込みとなった。トランプ氏の任期中に増加していた国家債務は、任期の最終年に一段と膨らんだ。

トランプ氏は違法移民の取り締まりで支持層を作り上げたが、反トランプ派は進め方が厳しすぎると批判した。バイデン次期大統領は、イスラム教徒が過半数を占める国に対する入国禁止措置などトランプ氏の移民政策の多くを撤廃する方針だ。

またトランプ氏は外国向けに「米国第一主義」を標榜。地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」やイラン核合意などの国際協約について、離脱したり破棄したりした。トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)など強固な同盟関係を損なう一方、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記など独裁者には甘かった。

しかし、中国に対する強硬姿勢は共和党だけでなく民主党からも支持を得た。トランプ氏は中国の輸入に多額の追加関税を課し、香港の民主化運動弾圧に絡んで香港当局者に制裁を科し、中国の通信大手に制裁を科した。ただ、中国との間で貿易戦争を起こしたことや、冷戦時代型の物言いは批判を浴びた。

離任直前の19日には、新疆ウイグル自治区で少数民族に対してジェノサイド(大量虐殺)と犯罪が行われたと認定した。

また、イスラエルとアラブの近隣4カ国の関係を正常化する歴史的な合意を仲介したことには賞賛が寄せられた。アフガニスタンやイラク、シリアなどの紛争地域では駐留米軍を縮小したが、2016年の選挙期間中に約束したような戦地からの完全撤退は果たせなかった。

元国務省高官のリチャード・ハス氏はウェブサイトへの書き込みで、対中政策などで「トランプ氏はいくつか有益なことを成し遂げた」とする一方、「間違った政策の方がはるかに多かった」と指摘。その最たるものは「米国の民主主義を傷つけたことだ」とした。

<恩恵は富裕層に>

トランプ氏の政治的な強みはある部分、大衆迎合主義の熱心な擁護者として、地方の白人や労働者層の鬱積した恨みをくみ取る能力に由来している。これらの層は、米国の人種が多様化し、自分たちのコミュニティーが急速なグローバル化のあおりを受ける中で、長年にわたり怒りをため込んできた。

極右グループもトランプ氏を支持した。連邦議会議事堂乱入事件には、陰謀論を信じる「Qアノン」のメンバーが加わっていた。

ライス大学のダグラス・ブリンクレー氏は「トランプ氏は白人至上主義者、陰謀論者、偏屈者などで連合体を築いた」と述べた。

トランプ氏の移民政策も批判を浴びた。あるホワイトハウス当局者は匿名を条件に、2018年に政権が打ち出したメキシコ国境地帯で親子を引き離す移民政策について「失敗だった」と認めた。

議事堂乱入事件以来、支持者の一部はトランプ氏から離反したが、ほとんどは支持を変えていないようだ。ロイター/イプソスが乱入事件の直後に実施した調査によると、共和党ではトランプ氏支持が70%に達していた。

一方、反トランプ派は、金持ちのトランプ氏は支持層である労働者や貧困層を少しも助けなかったと主張する。トランプ氏は数百万人の国民が健康保険に入るのを助ける「オバマケア」の廃止を繰り返し求めた。中国との関税合戦は米国の農家を痛めつけ、国内の製造業を回復させる契機にはならなかった。大規模減税の恩恵を受けたのは主に富裕層だ。

<共和党にトランプ氏の呪い>

米国で初めて大統領として2度の弾劾訴追を受けたトランプ氏の大統領退任で、共和党は先行きが極めて不透明になっている。

トランプ氏は共和党のイメージを自分の色に塗り替えた。緊縮財政や国際的な同盟への支持といった伝統的な保守派の原理に取って代わったのは、巨額の財政赤字、「米国第一主義的」なアプローチ、ツイッターへの投稿による度重なる政策変更などだ。

今や上院で野党に転じた共和党は、トランプ氏が共和党に掛けた呪いと「トランピズム」は同氏の大統領退任後も続くのか、という疑問を突きつけられている。

トランプ支持層は選挙における力を維持しており、同氏の大統領選での得票数は約7400万票と共和党候補として過去最高だった。下院では共和党議員の半数近くがバイデン氏の勝利認定を阻止する動きを支持し、党内でトランプ支持層を敵に回すことへの不安が強いことが浮き彫りになった。

ただ、議事堂乱入事件で共和党指導部には亀裂が生じており、共和党は自己省察の時期に入っているのかもしれない。マコネル院内総務は19日、議事堂乱入事件について、「大統領や他の有力者があおった」と述べた。

トランプ氏自身の政治面での未来も危機に瀕する可能性がある。上院の弾劾裁判で有罪になれば二度と大統領には就けないかもしれない。

共和党重鎮のボブ・コーカー氏は、トランプ氏は共和党が目指す政策の多くを実行したという点で「重要な大統領」だったが、大統領選の進め方は「意図的に分断を招き、虚偽を永続化する」もので、「米国の民主主義を弱体化させた」と指摘した。

コーカー氏は、共和党は「トランプ氏が導くのとは違う方向に」進む必要があるとし、「自分たちを再定義しなければならない」と語った。

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