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迷走する日本の教育――専門知なき教育政策の問題点 中村高康×川口俊明

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戦後最大の入試改革と言われた、センター試験に代わる新たな共通テスト改革。英語民間試験および記述式問題の導入が、新テスト実施の1年前という直前の2019年末に見送られました。加えて2020年8月には主体性評価のための「e-Portfolio」の導入を断念するなど、入試改革の混乱が続いています。

また2007年から行われている全国学力テストは、学力調査という目的が達成されず、自治体の順位競争などにばかり注目が集まったまま、教育現場に大きな負担が掛かってきました。「このままでは望ましい学力調査にはならない」という有識者の声もあります。

これらに代表される教育問題の背景には、教育政策の決定に際して、専門家の知見が生かされず、また教育現場の実態が踏まえられていない点が挙げられます。11月20日に行われた第5回のシノドス・トークラウンジでは、こうした問題意識から、『大学入試がわかる本』編者の中村高康さん、『全国学力テストはなぜ失敗したのか』著者の川口俊明さんをお迎えし、現在進行形の教育政策の課題を論じていただきました。その模様を抜粋しレポートします。

●著者とつながる「シノドス・トークラウンジ」
https://synodos.jp/authorcategory/synodostalklounge

三つの柱すべてが頓挫した大学入試改革

中村 2021年1月から実施予定の大学入学共通テストは、入試改革の非常に大きなトピックでした。この改革には、英語の民間試験利用、国語・数学の記述式問題導入、そして生徒の学習・活動記録(eポートフォリオ)の入試活用という三つの柱があったのですが、ご承知の通り、このすべてが頓挫するという異例の事態になりました。まずはこの背景から説明します。

三つの柱は何を目指していたのか。まず、英語の民間試験については、「英語を読む、聞く、書く、話す」の英語四技能を試験で問いたい、という願望がありました。特に、「中学・高校で6年間英語をやっても話せるようにならない」ことが強調され、大学入試を変えることで高校の授業を変えていくことが改革の理由として挙げられてもいたのです。

記述式問題の導入については、従来のマークシート式問題のみでは、高校段階で重視されることになっている「思考力・判断力・表現力」を測ることができていない、という不満が背景にありました。また、生徒の学習・活動記録の活用では、テストの点数でなく「学ぶ意欲や主体性」を評価したいという考え方が影響していました。いずれについても、高校での学びの目標が、大学入試に強く反映した改革だと言えます。

もっとも、高校と大学をどうつなぐかという議論は、かなり前から存在していました。それがこの10年ほどで急速に政策として具体化し、「高大接続改革」というかたちで高校教育・大学入試・大学教育のすべてを変える、大きな改革プランとして議論が進んでいきます。

この議論に際して前提になるのは、18歳のおおよそ半数が大学に進学するという現状です。激しい大学入試競争が社会問題になっていた時期、大学進学率は15%~30%でした。この頃は、点数を競って進学していく高大接続の形が主流でしたが、進学率が半分まで上がると、必ずしもそのスタイルになじまない受験生の割合が増えてきます。だから、これまでとは違うインターフェースが必要だというところから議論が始まりました。

ただ、接続とは入試だけではありません。カリキュラムなど様々な形のつながりを含んでの「接続」だったはずですが、どうも議論になるのは入試ばかり。特に今回、共通テストの問題に焦点がぐっと狭く絞り込まれてしまった。

どのようなねらいで、どんな力を測るのか

中村 今回、「主体性」を評価する、といった、いわゆる「受験学力」でない、従来とは異なる学力を図ろうとする見解が見られますが、「多様な入試」とか「「学力」以外の要素を見る」という話であれば、推薦入試が50年以上前から行われていますし、AO入試もあります。面接評価をめぐっても知見の蓄積がありますし、各大学で工夫して実施されていることは今回刊行した『大学入試がわかる本』でも紹介しています。全く新しい話ではないのです。

では、今回の入試改革がどういうものだったのか。例えば、これまで学力試験中心でやってきた大学にも入試で主体性の評価を入れるようにする。あるいは、専門学校などから推薦入試やAO入試で大学進学する人に対して「学力を測っていない、けしからん」ということで、学力的な担保を取ろうとしている、こういったものです。

とはいえ、いろいろな戦略の大学があり、いろいろな受験生がいます。ですから、こうした新たな指針がどういう必要性やビジョンがあってのものかよくわかりませんし、多くの大学も自分のところには不要だと判断してきました。でも、試験を変えたい側の人たちは、みんなに同じような試験を課そうとしているのです。

先に挙げた入試改革の三つの柱、英語の民間試験利用、国語・数学の記述式問題、そして生徒の学習・活動記録の入試活用、いずれも生徒の「思考力・判断力・表現力」や「主体性」を評価する点が注目されてきました。

ただ、どれも専門家や現場の意見が十分吟味されないまま、トップダウンで方向づけられてしまう面が強かったんですね。私は、これが頓挫の大きな原因になったと思っています。『大学入試がわかる本』では、特定の誰かの「思い」でやるトップダウンの改革ではなく、きちんと地に足のついた現場・専門家等々議論や意見を反映することが必要ということを示したつもりです。

高校生や予備校関係者からも反対の声

中村 そもそも、特に昔のイメージしか持っていない人には悪玉のように思われがちな現行のセンター試験は、高校・大学・予備校関係者からも評判が良かったのです。マークシート式の試験も長年かけて定着しており、変える必要性を感じていなかったのではないでしょうか。

入試というのは人生分岐的な決定力の強い、ハイステークスな試験です。このため、他の教育政策はともかく入試には議論が集中し、当事者である高校生たちも含め、多くの方が声を上げました。私自身もそのうちの一人でしたが、こうした状況を受け、入試改革の目玉であったそれぞれの取り組みが中止となったわけです。

現在、文科省では「大学入試のあり方に関する検討会議」を立ち上げ、今後のあり方について仕切り直し、議論を続けています。私も時間を見つけて聞くようにしていますが、反省的に取りまとめをしようとしているように見受けられます。

ただ、具体的にどういう制度が提案されるのか、まだよくわかりません。結果的に、「やっぱり民間試験を使いなさい」「記述式を入れなさい」となってしまうのかどうか、よく見ておかないといけないなと思ってます。


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