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「右翼」と「左翼」の区別に関する(私の)常識

■右翼と左翼の常識

右翼左翼の区別って、私の世代では、左右の立場の違いがあっても、一定の共通の了解事項があったと思います(軍隊=「暴力装置」と同じように)。もっとも、この常識が成立していたのは、私の世代だけなのかもしれません。

ちなみに、「右翼」や「左翼」というのは「悪口」ではないのです。政治的な傾向や思想の特徴を示す便利な用語で、世界中で使われている政治用語です。そして、左翼は「左翼」と呼ばれても、別に怒らないでしょう。右翼も「右翼」と呼ばれても、怒らないと思います。どちらも胸をはって、「そのとおり。それが何か?」って言うと思います。

■第1の分岐点<王制か、民主制か>

周知のごとく、フランス革命(1789年)にあたって、議会での席の配置で、王党派が「右翼」、革命派(民主主義派)が「左翼」と呼ばれるようになりました。この18世紀の分岐点は、王制か民主制かです。

しかも、王党派の王制を正当化する根拠は、王権神授説ですからキリスト教です。つまり、右翼は、「王様と宗教」が大好き。貴族や僧侶、地主、官吏、軍人が右翼の本流でした。街宣車を走らせるのが右翼ってわけではないのです。もともと、右翼って上流階級の人々の考え方です。

もっとも、今は民主主義体制がヨーロッパや日本で確立しているので、この古い分岐点は相対化されています。日本では、「天皇制」と「国家神道」(靖国神社を含む)が「本当に大好きな人々」を普通「右翼」と呼べます。これは世界的な判断基準からして、何らおかしなことはありません。

■第2の分岐点<誰の目線で考えるか>

「誰の目線で考えるのか」が、左翼と右翼では大いに異なります。たぶん、ここが両者が最も相容れないところだと思います。

右翼は、自らと同じ民族や国民の目線で考えます。国家の独立と主権の維持が右翼の崇高な使命です。自らの祖国や民族、国民に至高の価値をおくのです。いわば「身内」中心主義です。外国人全般に対して警戒心が強い(欧米では移民排斥。日本では、在日韓国・朝鮮人排斥となります。)。日本人であっても、左翼や少数派に対して、「非国民」とか「日本人じゃない」などと排他的になります。

左翼
は、虐げられた庶民や民衆、つまり人民の視点で考えます。ですから祖国や民族の目線ではなく、金持ちや権力者などに支配される(警官に小突かれたり、横暴な上司に怒鳴られ扱き使われる)民衆の目線で考えます。そして、外国人であっても、外国の権力者・支配者に抵抗する民衆に共感し、応援します。

■第3の分岐点<政府が貧困・福祉対策を行うべきか、個人の自助努力か>

19世紀から現代にかけては、社会保障政策・労働政策が左翼と右翼の分岐点になります。
民衆の貧困・雇用・福祉を改善するため、政府が積極的な政策を行うべきか否か。例えば、労働者を保護するために労働基準法などの労働者保護法や社会保険・労働保険、年金制度の導入に賛成するかどうか。現代では、政府の財政出動はどのような分野に行うべきかなどです。

政府の雇用対策や福祉政策の実施を積極的に賛成するのが左翼。なお、19世紀末から20世紀初めにかけては、さらに社会主義計画経済を目指す社会主義運動(共産主義運動)が左翼の中心となった。ただ、ソ連が崩壊した後、この共産主義運動は解体しました。

このような施策を政府が行うことに反対するのが右翼。右翼も救貧対策などは否定しませんが、それは保守的な温情主義の発露です。要するに大金持ち(ビル・ゲイツとか)やキリスト教会の寄付などの善意に委ねる方向性です。右翼の立場の人の多くは、曰く、「格差はいつの時代にもある。」「貧乏人を甘やかすな。」「自助努力を促すべきだ。」「生活保護は怠け者をつくる。」等々

■第4の分岐点<国家による戦争に価値を認めるか否か>

戦争観も右翼と左翼では、大きな違いがあると思います。

右翼
は現実主義者ですから、国際関係とは各国家が自国の国益を追求する「弱肉強食」関係にほかならないと考えます。何よりも、右翼は国家(祖国)や民族に至高の価値をおきますから、植民地や市場獲得のため、あるいは自国領土を奪還するための戦争を価値あるものと位置づけます。軍隊や軍事力行使を担うことは、崇高な国民の任務である考えます。

左翼
にとっては、帝国主義戦争や植民地獲得戦争などの戦争は、政府や金持ちの支配層が自らの利益のために、労働者や農民を動員して他国の兵士と殺し合わせるものにほかなりません。したがって、国家による戦争に反対します。ただし、植民地解放のための武力闘争や民主主義国家の独立をまもるための自衛戦争には賛成します。そして、自国の正規軍が敗北したとしても、民衆が主体的に武器をとって戦うことを讃えます(スペイン市民戦争の国際義勇軍。レジスタンス闘争。パルチザン闘争。アジア、アフリカの植民地解放戦争)。

なお、日本国憲法9条を根拠として徹底的な非武装主義を標榜する日本の旧社会党的左翼は、世界的に見れば例外的な左翼党派です。フランスの左翼からすれば、それは平和主義などでなく、単なる敗北主義として批判するでしょう(戦争回避のためにナチスと融和路線をとった弱腰の政府のようなものであり、かえって戦争を招くことになったと。)

ちなみに、戦後日本では、敗戦により米国に従属させられたにもかかわらず、右翼は反米闘争ができませんでした(三島由紀夫はこれに反発して決起した唯一の右翼だと思います)。他方、左翼は、反米軍基地闘争、安保反対闘争やベトナム反戦運動を行いました。これは平和運動でしたが、ある意味では、米国への抵抗であり、「愛国的」運動という側面(代償行為)がありました(小熊英二著「民主と愛国」)。

■右翼と左翼の相対化、右派と左派

現代では、右翼と左翼の対立も相対化しています。
今更、民主主義を否定して、王政復古を唱えて反米闘争を訴える右翼(これは極右)は、さすがに超少数派でしょう。また、プロレタリアート独裁を掲げて暴力革命で共産主義を目指す左翼(これは極左)も、超少数派です。 今や、左翼も右翼も相対化しています。

現代日本は、日本国憲法の法的有効性を認めて「象徴天皇制」を容認するという枠組みの中で、右翼や左翼の配置が決まります。

この枠内で、上記の分岐点ごとに濃淡がある各勢力(各党派)が存在しています。日本国憲法体制を容認し前提とする以上、右翼や左翼の分岐点の対立は薄まり、相対化しています。そこで、右翼でなく右派、左翼でなく左派と呼んだりします。でも本質的には、右翼と左翼の特徴と変わりありません。

■中道右派、中道左派、そして右翼

自民党の保守本流は、「自主憲法」を事実上棚上げし、自衛隊の「専守防衛」路線をひき、集団的自衛権行使に慎重です。また、民主党主流派(野田、菅、仙谷、前原ら)は、日本国憲法を法的に容認し、親米路線をとり、自由主義的な経済政策と保守主義的な福祉政策をとります。これらは両方とも共通性があり、「中道右派」です。

これに対して、社民党から分離して民主党に合流した勢力は「中道左派」です。国民の生活が第一は「中道右派」でしょう。

ちなみに、オバマ大統領は、この基準で言えば、「中道左派」でしょう。

そして、共産党や社民党は当然のことながら、左翼です。

安倍晋三自民党総裁は、上記の4つの分岐点から見れば、どこから見ても立派な「右翼」だと思います。

また、石原慎太郎日本維新の会代表は、何しろ、「日本国憲法を法的に無効」と考え、「天皇主権の大日本帝国憲法が法的には有効だ」という奇矯な見解ですから、安倍自民党より、はるかに右です。上記基準から見れば、極右に近いでしょう。

なお、石原氏が、本気で「憲法破棄」を言っているのであれば、立憲主義を破壊する主張です。憲法改正論者は、まだ立憲主義に立脚しています。石原氏の「憲法破棄」論は、憲法改正手続も不要との主張ですから、大日本帝国憲法がまだ生きているというとんでも議論です。自衛隊の統帥権は天皇が握っており、シビリアン・コントロールなどは「統帥権干犯」で違法ということになります。

以上が、私が考える「右翼と左翼」の区別に関する常識です。ネットの住人にはきっと理解されないのでしょうねえ。

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