記事

覚せい剤と再犯

ここ数日、覚せい剤事件で執行猶予判決を受けた女性タレントの芸能界復帰の話題に関係して、私のところにも、覚せい剤事犯の再犯率の問い合わせが寄せられています。「覚せい剤はやめられない」そんなイメージが強いせいか、ひとたび覚せい剤事犯として有罪判決を受けた人に対して、再犯を危惧する見方が強いのでしょうか。

たしかに覚せい剤事犯では、繰り返して裁判を受ける人の存在が目立っています。私が担当した覚せい剤事件では、同じ覚せい剤の前科が9回という人もいました。私は10回目を担当したわけです。他方、覚せい剤を使っていたけれども、やめた人、やめられた人も沢山います。そこで、薬物乱用をやめられるかどうかの指標のような感覚でよく参考にされるのが薬物事犯の再犯率です。

ところが、ときおり「覚せい剤事犯の過半数が再犯」といった言葉に出会いますが、これは、ある年度中に覚せい剤事犯として検挙されたなかで、何らかの前科(前科とする犯罪は統計によってことなります。一般に交通前科は除外されるのが多いようです。)を持つ人が過半数を占めているというデータを曲解したもので、覚せい剤事犯者の過半数が再犯しているという意味ではありません。もっとも、これは、仮に前科が覚せい剤の前科であったとしても、同じことです。ある年度中の覚せい剤事犯検挙者の過半数が覚せい剤事犯の有前科者であるということは、覚せい剤事犯の再犯率が高いということはいえますが、覚せい剤事件で裁判を受けた者の半分以上が再犯するということではありません。

リンク先を見る
↑ 覚せい剤事犯者中の有前科者の割合
警察庁データに基づいて筆者が作成


上のグラフは、「平成23年中の薬物銃器情勢」のデータに基づいて作成したものですが、私はこのデータを「初犯者比率」を示すものであり、乱用者の増減を知る指標だと考えています。覚せい剤事犯として検挙される中で初犯者の比率が高いときは、覚せい剤乱用者が増加傾向にあり、逆に、現在のように初犯者が半数を割り込んでいるときには、乱用者の増加が抑制されていると考えられるからです。

では、話題のタレントのように、初めて覚せい剤事犯として検挙され、裁判で執行猶予つきの有罪判決を受けた人たちのうち、実際に再犯に至るのはどのくらいかということになりますが、これについては、法務省が実際の被告人の記録に基づいて行った特別調査のデータが、平成21年版犯罪白書にあります。

この調査は、平成16年中に覚せい剤取締法違反で執行猶予付き判決を言い渡された519人(東京地方検察庁(本庁)及び横浜地方検察庁(本庁)において処理され、平成16年中に第一審で確定したもので、同一罪名での前科がない者)について、その後4年間の再犯状況を追跡調査したものです。

執行猶予付き判決を言い渡されてから4年以内に再犯したのは約30%で、そのうち前と同じ覚せい剤取締法違反で有罪となったのが25%(男性26.0%、女性20.6%)で、別な罪名で有罪になったのが約5%。大多数にあたる70%は期間内に再犯がありませんでした。これは私の実感にもあうデータです。

なお、この調査については、当ブログ内過去記事でくわしく説明していますので、ご参照ください(下記参照(3))。

リンク先を見る
↑執行猶予判決を受けた覚せい剤事犯者の再犯状況
犯罪白書のデータに基づいて筆者が作成


執行猶予付き判決を言い渡され、社会内で更生する機会を与えられたのに、4年以内に3分の1近くが再犯してしまい、しかもその大半が同じ覚せい剤での再犯・・・この結果はたいへん厳しいものだと思います。

その一方で、70%という多数派が、見事に自力で更生しているのです。もちろん本人の努力が第一ですが、家族や友人、職場や地域社会の様々な人に支えられて、なんとか頑張りぬくことができたのでしょう。

あなたの周りに、覚せい剤をやめて出直そうとしている人がいたら、どうぞ温かく見守って、そして少しだけ力を貸してあげてください。覚せい剤は、やめられます。実際に、これだけ多くの人たちがやめているのです。

[参照]
(1)覚せい剤事犯検挙者中の再犯者の割合
警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課編「平成23年中の薬物・銃器情勢・確定値」6ページ
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h23_yakujyuu_jousei.pdf

(2)平成21年度版犯罪白書の特集
第7編「再犯防止策の充実」>第3章窃盗・覚せい剤事犯に係る再犯の実態>第1節 執行猶予者の再犯(233~255頁)

(3)関連の過去記事
覚せい剤再犯の要因|平成21年版犯罪白書から4(2009/12/09)
http://33765910.at.webry.info/200912/article_8.html

あわせて読みたい

「ドラッグ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    病院の窓にデカデカと「医療は限界 五輪やめて」

    田中龍作

    05月05日 08:42

  2. 2

    「週刊文春」の強さはどこからやってくるのか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    05月05日 12:05

  3. 3

    東京五輪に沈黙する小池都知事 豊田真由子氏「反対の世論を見て振る舞い変えている」

    ABEMA TIMES

    05月05日 20:47

  4. 4

    オリンピック中止に舵を切るためには、やはり二階さんの力が必要なようだ

    早川忠孝

    05月05日 16:48

  5. 5

    本物の教養を身につけるには「優れた歴史書」を読めばいい - 出口治明

    幻冬舎plus

    05月05日 14:49

  6. 6

    変異株で感染の閾値が低下した 緊急事態宣言延長は仕方ないか 橋下さんと岩田先生の交わりのない議論を聞いて 責任ない批判は簡単

    中村ゆきつぐ

    05月06日 08:21

  7. 7

    コロナ禍での「緊急事態条項」は「諸刃の剣」

    自由人

    05月05日 14:14

  8. 8

    人生、山あり谷あり… ビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏の離婚に思う

    ヒロ

    05月05日 11:43

  9. 9

    出産予定日間近の倉持由香 腰痛と仕事を奪われる不安でメンタルをやられる

    倉持由香

    05月05日 08:03

  10. 10

    憲法改正についての世論調査 改憲必要という発想の危うさ その2

    猪野 亨

    05月05日 14:37

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。