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想像力を働かせて支援を行う介護は知的でクリエイティブな仕事 - 「賢人論。」130回(前編)金田一秀穂氏

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日本は超高齢化社会を迎え、いまや総人口に対する高齢者の割合は世界トップの国となった。しかし、介護や福祉のニーズが今後高まり続ける中で、それを支える人材の不足が喫緊の課題である。これを解消する一つの施策として、海外からの人材を受け入れる事業所が増えてきたが、言語の壁などが受け入れ促進を阻んでいる。そこで、今回は一世紀にわたって国語を研究し続けている“金田一家”の三代目・金田一秀穂氏に、言葉の壁や非言語コミュニケーションをテーマに話を伺った。

取材・文/木村光一 撮影/タカオカ邦彦

SNSによる短文のやり取りが相手の誤解を招くことも

みんなの介護 いまやインターネットは私たちの仕事や生活と切り離せない存在です。また、SNSの普及によって言葉の使われ方もずいぶん変化してきました。金田一さんは言語学者として、このような状況をどのように受け止めているのでしょう。

金田一 言葉というのは考えを組み立てるための道具なんですよ。何かを突き詰めて考えようとするときにはたくさんの言葉が必要になる。言葉を知らないとうまく考えられないわけです。

もしかしたら十行で済んでしまうかもしれない話を作家が長編小説にするのも、あるテーマに関する思考のプロセスを、登場人物の会話や情景描写に託して物語の中で再構成しているから。長文であること自体に意味があるわけです。

ところがツイッターなどには文字数制限があるため、わかりやすく伝えなければいけない。ここが問題で、多くの方はわかりやすさを「単純化」だと誤解されているように思います。また、LINE上のグループでの会話もすぐに返事をしなければいけないため、思いついたまま反射的に書いてしまって誤解を生じさせる確率が高い。

僕はできるだけ言葉を吟味して返信を書くのですが、「よし、これでいいだろう」と送ったときにはとっくにその話が流れ去っていて、かえって恥ずかしい思いをしてしまう。つまり、こういった縛りの多いやり方で自分の考えを正確に相手へ伝えるのは無理なんです。

政治家の言葉の使い方を見ていても、複雑な事柄を無理矢理一括りにしてワンフレーズに単純化してしまっているように感じます。一般受けを狙うあまり、言葉を粗末に扱っている印象さえあります。これでは深刻な事態も薄っぺらな事象になってしまう。だから議論も白熱せず、いつまで経っても問題の本質的な解決策が見つからない。これではせっかくの言葉が勿体ないと思います。

海外からの人材を求める前に日本の介護現場の“モラル”を見直す

みんなの介護 現在、介護業界では慢性的な人材不足を解消するため、外国人の受け入れが推奨されています。しかし、言葉の問題が一番の障壁となっているようです。外国人に日本語をマスターしてもらう際、どういう点に最も留意すればいいのでしょうか。

金田一 僕はアメリカで暮らしていたとき、まだ子どもが小さかったのでベビーシッターを頼んでよく面倒を見てもらっていました。何人かいたシッターの1人は韓国人の高齢女性で言葉は通じなかった。

でも、うちの子どもはその人が大好きでとても懐いていました。フィリピン人の女性もとても温かくて良い人でした。結局、言葉はわからなくても人の情は伝わる。それは万国共通なんだと彼女たちを見ていて感じました。

みんなの介護 人間には、言葉の壁を超えた、心を通わせるユニバーサルな何かが備わっているのでしょうか。

金田一 介護という仕事も、一番大切なのは「高齢者を敬い労る気持ち」。僕はその点でいえば日本人も外国人も違いはないと確信しています。また、アジア各国から日本の介護職のノウハウを学びにやって来る人たちの学力や能力も非常に高いですから、ことさら言葉の心配は要らないと思います。

求められるのは「高齢者の気持ちを理解しようとする姿勢」であって、それは日本人であれば誰でも無条件に備わっているというものでもない。個々の資質の問題でしょう。

ただ、コロナ禍で浮き彫りになった医療や介護従事者の限度を超えた頑張りのような「自己犠牲」を外国人にも求めてはいけない。それは日本人にしか通じない悪しき精神論のようなもの。本来、そこまで個人に責任に負わせるべきではないし、もちろん、日本人だから許されるということでもありません。とはいえ、個人の頑張りのおかげでどうにか持ちこたえているのが実情です。最も考えなければいけない問題の核心はそこにあるのではないでしょうか。

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