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「金魚電話ボックス」大阪高裁判決での大逆転劇が示した「表現」の意味。

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「他人の事件は忘れた頃に判決が出る」というのはよく言ったものだと思うが、一昨年の夏、大きな話題となり、このブログでも取り上げていた「金魚電話ボックス」事件の控訴審判決が大阪高裁から出された。

結論は、見事なまでの大逆転、である。

「金魚が電話ボックスの中を泳ぐオブジェが自身の作品と酷似し、著作権を侵害されたとして福島県いわき市の現代美術作家が、オブジェを設置した奈良県大和郡山市の商店街側に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(山田陽三裁判長)は15日までに、商店街側に55万円の支払いとオブジェの廃棄を命じた。請求を棄却した一審奈良地裁判決を変更した。」(日本経済新聞2021年1月15日付夕刊・第11面、強調筆者)

2019年7月11日、奈良地裁で、原告の請求を棄却する第一審判決が出た時は、「まぁそうなるよね」という感想が世の中に満ちていたような気がする。

特に、著作権にある程度通じた方ほど、地裁判決でも使われていた「表現とアイデアの二分論」を掲げて、大要、「電話ボックスの中で金魚を泳がせるのはアイデアに過ぎない」ということをもって、地裁判決の結論を支持していたようにも見受けられた。

だが、当時のエントリーでも書いた通り、自分はあの地裁判決に関しては、チグハグ感のある創作性判断&原告・被告両作品の対比手法についても、「請求棄却」の結論に対しても、どうしても違和感を拭い去れなかったものだった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

だからといって特段アクションを起こすでもなく、さらには慌ただしさにかまけて、事件の存在すら忘却の彼方に消え去りそうになっていたのが現実だから、偉そうに「ほら見たことか」と言えるような立場では到底ないのだが、それでも、こういう形で美しく結論がひっくり返るというのは、なかなかあることではないので、既に関係者のサイトに掲載されている判決文を参照しつつ、備忘のために*1、感じたところを書き残しておくことにしたい。

大阪高判令和3年1月14日(令和元年(ネ)第1735号)*2

作品目録も含めて僅か13ページに留まっていた地裁判決と比べると、今回の高裁判決は36ページと3倍近いボリュームになっている。

また、類似性の争点をクリアして、依拠性の認定まで進んだことから、被告作品が大和郡山市内に設置されるようになった経緯まで詳細な事実認定がなされており、地裁判決に接した時点ではいろいろと浮かんでいた謎をかなりの部分解きほぐしてくれるような中身でもある*3

だが、やはり今回の判決のキモは、何といっても「メッセージ」と名付けられていた原告作品の著作物性(創作性)を認めたことと、原告作品・被告作品の共通点から直接感得性を認め翻案権侵害を肯定した、ということに尽きるだろう。

そこで、以下関係する部分の判示をおってみることにしたい。

■著作物性に関する判断

裁判所は「表現がありふれたものである場合」は当該表現を「創作的な」表現ということはできない、「ある思想ないしアイデアの表現方法がただ1つしか存在しない場合」等は当該表現には創作性を認め難い、と一般的な考え方を示し、

「原告作品は、その外見が公衆電話ボックスに酷似したものであり、その点だけに着目すれば、ありふれた表現である。そこで、これに水を満たし、金魚を泳がせるなどしたことにより、原告作品に創作性が認められるかが問題となる。」(23頁、強調筆者、以下同じ。)

と述べた上で、「本物の公衆電話ボックス」との外観の相違点に着目するアプローチを採用した。

そして、

①電話ボックスの多くの部分に水が満たされている。
②電話ボックスの側面の4面とも、全面がアクリルガラスである(実際の公衆電話ボックスには存在する縦長の蝶番が存在しない)。
③水中に赤色の金魚が泳いでおり、その数は少なくて50匹、多くて150匹程度である。
④公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している。

という4点を相違点として指摘した上で、①~③については、それぞれ「広い選択の幅があるとは言えない」(①)、「蝶番は、それほど目立つものではなく・・・この縦長の蝶番が存在しないという表現・・・に、原告作品の創作性が現れているとはいえない」(②)、「ありふれた数といえなくもなく、そこに控訴人の個性が発揮されているとみることは困難」(③)と創作性を否定した。

だが、最後の④については、以下のように述べて創作性を肯定する方向に結論を持っていった。

「人が使用していない公衆電話機の受話器はハンガー部に掛かっているものであり、それが水中に浮いた状態で固定されていること自体、非日常的な情景を表現しているといえるし、受話器の受話部から気泡が発生することも本来あり得ないことである。そして、受話器がハンガー部から外れ、水中に浮いた状態で、受話部から気泡が発生していることから、電話を掛け、電話先との間で、通話をしている状態がイメージされており、鑑賞者に強い印象を与える表現である。したがって、この表現には、控訴人の個性が発揮されているというべきである。」(24~25頁)

奈良地裁の判決では、「公衆電話ボックス内で気泡を発生させようとしたら受話器から発生させるのが合理的」という首をかしげたくなるような理屈まで持ち出して創作性が否定されていたのだが、大阪高裁は、

「水槽に空気を注入する方法としてよく用いられるのは、水槽内にエアストーン(気泡発生装置)を設置することである。」
「受話器は、・・・音声を通すためのものであり、空気を通す機能を果たすものではない
(以上25頁)

と、ごく当たり前のことによって、「アイデアから必然的に生じる表現」という被控訴人(被告)の主張を退け、

「第4の点を加えることによって、・・・原告作品は、その制作者である控訴人の個性が発揮されており、創作性がある。このような表現方法を含む1つの美術作品として、原告作品は著作物性を有するというべきであり、美術の著作物に該当すると認められる。」(26頁)

という結論を導いたのである。

大阪高裁の判示は、4つの要素のうち、①~③の創作性を否定しておきながら、④の要素の創作性のみで、①~④をひとくくりにして著作物性を認めているように読めるものだけに、この点に対しては、批判もあり得るところかもしれない。

ただ、細部までこだわった原告作品の(公衆電話ボックス内の素材以外の)「表現」に目を向けず、バッサリと創作性を否定してしまった地裁判決と比べると、こちらの方がより「表現」の保護の当否を判断する著作権法の趣旨に添った判断、ということができるのではなかろうか*4。

■類似性に関する判断

大阪高裁は続いて、複製権、翻案権侵害の成否の判断に移り、冒頭で原告作品と被告作品の共通点、として、以下の2点を認定した。

①公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガラス)に水が入れられ(ただし、後記イ⑥を参照*5)、水中に主に赤色の金魚が50匹から150匹程度、泳いでいる。
②公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している。
(26頁)

続いて「著作権の翻案」を、ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー最判(最一小判昭和53年9月7日)と江差追分最判(最一小判平成13年6月28日)を引いて、

「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」(27頁)

と定義した上で、以下のような結論を導いたのである。

「被告作品は、原告作品のうち表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製しているといえる一方で、それ以外の部位や細部の具体的な表現において相違があるものの、被告作品が新たに思想又は感情を創作的に表現した作品であるとはいえない。」
「仮に、公衆電話機の種類と色、屋根の色(相違点①~③)の選択に創作性を認めることができ、被告作品が、原告作品と別の著作物ということができるとしても、被告作品は、上記相違点①から③について変更を加えながらも、後記(3)のとおり原告作品に依拠し、かつ、上記共通点①及び②に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、原告作品における表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、原告作品を翻案したものということができる。」(以上28~29頁)

これを読んで、ああそういえば、全体比較論と反対説、某高裁長官と某教授、そんな神々の論争があったなぁ・・・ということを思い出したりもして、今回の高裁判決がそんな論争をさらに活発化させるかもな・・・と思ったりもしたのだが、こと本件に関して言えば、「公衆電話ボックス内」の創作的な表現部分が共通している、ということをもって翻案権侵害とした結論に違和感はないし*6、仮に「全体比較」というアプローチを採用したとしても、共通している部分が原告・被告両作品の最もコアな部分であることからすれば、そこに創作性が認められた以上、結論がひっくり返ることはないように思うところである。

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