WHOの勧告に先んじ「室温問題」を世に問う
住宅への関心がかつてないほど高まった1年だった。新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるべく、世界中で「STAY HOME」が叫ばれ、日本でも緊急事態宣言が発出、外出自粛が徹底された。在宅勤務も急速に普及し、ビジネスパーソンが住環境を考える機会は増えている。
ジャーナリスト 笹井 恵里子氏
どのような家に住むべきか、最新の研究成果とエビデンスをもとに解を与えてくれるのが本書だ。著者はプレジデント誌連載でお馴染みの笹井恵里子さん。ジャーナリストとして、住宅と健康というテーマには4年以上向き合ってきた。
「取材を始めた当時、既に慶應義塾大学の伊香賀俊治教授や東京都立大学名誉教授の星旦二医師の先進的な研究が積み重なっていましたが、世間的には関心が高まっていないという状況でした」(笹井さん)
冬の住居の「室温」が健康寿命に大きな影響を与えている。2017年10月に「週刊文春」誌上で取材の成果をまとめた記事は、公開後すぐに大きな反響があったという。
今まで誰も取り組んでいなかったことが不思議なくらい
「読者ランキングで1位を獲得し、他のマスコミも追随しました。日本ではおよそ6人に1人が住宅関係の仕事に従事していることを考えれば、今まで誰も取り組んでいなかったことが不思議なくらいです」(同)
出会いにも恵まれた。当時の同誌編集長は、誰も手掛けていない企画だからこそ価値がある、と考えるタイプだったという。
「『二番煎じはいらない』と、まだ成功するかどうかもわからない企画の後押しをしてくれました。日本を代表する週刊誌の『強さ』の源泉を見た気がしましたね」(同)

その後、2018年11月にはWHO(世界保健機関)から「冬の室内温度は18度以上に」という勧告が出された。国際機関に先立ち、最新の研究成果を世に問うたのは、まさに慧眼と言えるだろう。
本書ではタイトルに使われた「室温」のほかに、「湿度」「光」「空気の質」「室内の色」など、さまざまな要素に注目。健康を保つというだけでなく、仕事や勉強での生産性を高める室内環境づくりのヒントも盛り込んだ。
「一見、スタイリッシュに見える白色をオフィスに増やしすぎるのは、実はNG。室内の色と生産性の関係については、本書の発売後に登壇したイベントでも特に興味を持ってもらいました」(同)
膨大なエビデンスと取材をもとにした本書だが、平易な語り口とクイズを交えた構成で、どこから開いても新たな発見を得られる仕掛けが施されている。誰もが過ごす住居を改善するための知見が、誰にでも開かれる1冊だ。
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笹井恵里子(ささい・えりこ)ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。
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(プレジデント編集部 撮影=今井一詞)