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「商社3位が定着」伊藤忠、三菱商事の後を追う三井物産の社長交代に秘められた意図

堀健一次期社長は道半ばの社風改革で名門復活に挑む

三井物産は昨年末、今年4月1日付けで堀健一専務執行役員が社長になる人事を発表した。6年前に並み居る上司をおさえて、「32人抜き」でトップについた安永竜夫社長は代表権のある会長に就く。

記者会見後、写真に納まる三井物産の堀健一次期社長(左)と安永竜夫社長記者会見後、写真に納まる三井物産の堀健一次期社長(左)と安永竜夫社長=2020年12月23日、東京・大手町 - 写真=時事通信フォト

安永社長は6年前、飯島彰己前社長から「若い感性で、既存の考えにとらわれないで社内の風土を変えてもらいたい」という狙いを込めて大抜擢された。だが、今や、同社は伊藤忠商事にも遠く引き離され、業界では「3位」が定位置になっている。名門復活へのハードルは高い。

「ようやく安永氏を社長の座から引きずり落とすことができた」――。12月に入り、三井物産の幹部OBたちは安堵した。

次期社長を審議する同社の指名委員会でのことだ。安永社長は「新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻化する中、ここで逃げたくない」と訴えてきた。

昨年12月でようやく60歳になったばかりの安永社長がOBなどからの説得に折れたのは12月に入ってからだった。「社長任期6年」は同社の不文律。OBたちはこの不文律の遵守を迫った。その背景には「格下の伊藤忠に業績を引き離され、業界で存在感が薄まる一方の物産を安永氏にこれ以上任せることは承服できない」というOBらの一致した思いがあった。

セブン‐イレブンとの提携を模索するが一蹴され…

新型コロナウイルス感染拡大による景気減速で、物産の稼ぎ頭の金属・資源の市況が低迷。ほかに収益をあげる事業もない。そんな中、景気の変動に左右されにくい生活産業を軸に据える伊藤忠は、三井物産の倍の利益を稼ぎ出す。

安永氏も社長就任当初、長年の懸案である「非資源」事業の拡大を目指し、伊藤忠傘下のファミリーマート、三菱商事のローソンに対抗すべく、セブン‐イレブン・ジャパンとの提携などを模索した。しかし、業界トップのセブンは「何も物産の助けを得なくてもうちの棚は埋まる」(セブン‐イレブン幹部)とこれを一蹴。

セブンのバックヤードで商品の売れ行きをチェックしたり、容器を作ったりする「裏方」の立場から関係を深めることはできなかった。

安永氏が自らの成果として強調するヘルスケア事業も「収益貢献という意味ではまだ迫力不足だ」(大手証券アナリスト)。

不祥事でリストラに追われた東芝が売却した東芝メディカル(現・東芝メディカルシステムズ)も米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と組んで買収に名乗りを上げたが、キヤノンや富士フイルムホールディングスなどに早々に競り負けた。

累計でおよそ3000億円を投じて手に入れたアジア最大の病院グループ、IHHヘルスケア(マレーシア)も、不幸にも新型コロナウイルスの感染拡大で来院客数は伸び悩んでいる。IHHの子会社の株式売却などで益出しはしたものの、ヘルスケア事業の純利益は2020年3月期で284億円と、まだ全体の1割にも満たない。

名門の威光を取り戻せない責任は、安永氏だけではない

そんな安永氏も2018年3月期に純利益で4184億円と過去最高益を記録するが、それは資源価格の上昇によるものだった。食品や小売りに加え、さらには金融事業など「BtoC(消費者向け事業)」まで矢継ぎ早に手を伸ばす伊藤忠や三菱商事に、最後まで追いつくことはできなかった。

なかなか取り戻せない名門の威光。その責任は安永氏一人にあるのだろうか。

「多くの罪は会長の飯島彰己氏にある」と三井物産社内ではささやかれている。「自らの院政を敷くために32人抜き人事を決めた」(三井物産幹部)というのがその理由だ。

安永氏が社長に就任した初年度(2016年3月期)に三井物産はオーストラリアにもつ銅山の減損計上などで、創業初の834億円の最終赤字に転落した。

安永氏は、かつての上司がまだ副社長などとして残る中で、その上司たちが手掛けてきた資源や金属、海外プロジェクトなどの不採算事業のリストラをいきなり背負わされた。

鉱業※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hello my names is james,I'm photographer.

「商社で一番難しいのは投資案件からの撤退」

同業の丸紅幹部からは、「商社で一番難しいのは投資案件から撤退することだ。担当者の思い入れもある。それがかつての上司が手掛けた案件であれば、なかなかメスを入れることはできない」と同情の声も聞かれるほど面倒が伴う。

さらに、元上司を説得して子会社などに移すなどするのにも労力がいる。その結果、自らの意に沿った経営体制を築くのも時間がかかった。

三菱商事も三井物産と同時期に赤字に転落した。同じ銅鉱山に出資していたためだ。その銅鉱山への出資規模が三井物産の倍だったので、三菱商事の赤字額は物産の倍に膨れた。しかし、当時の社長だった小林健氏(現会長)は赤字を機に不良資産の処理と同時に副社長を一斉に退陣させ、体制を一新させてから次代に引き継いだ。

「人の三井」という言葉も死語になりつつある

三井物産と同様、三菱商事も非資源部門の強化が課題だった。小林氏はシャケの養殖や穀物商社などの買収などを進め、ローソンには自らの秘書だった竹増貞信氏を社長に送り込んだ。非資源部門の強化にめどをつけ、社長のバトンを継いだ食料部門出身の垣内威彦氏も就任直後にローソンを子会社化するなど、資源・非資源の両立体制を確立。業績のV字回復も早かった。

三井物産は財閥グループの中で“人の三井”と言われるが、最近ではその言葉も「死語」になりつつある。

かつては馬力のある営業部員がロシアやブラジル、オーストラリアンなど資源国を中心に乗り込み、現地政府の要人や資源メジャーの懐に飛び込んで石炭や鉄鉱石、液化天然ガス(LNG)などを日本に運んだ。

タンカー※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bill Chizek

しかし、その営業の「個の強さ」は、2002年の国後島のディーゼル発電施設をめぐる不正入札事件やモンゴルへの政府開発援助(ODA)に関する贈賄事件などが発覚するにつれ、「利益のためなら多少の不正に手を染めてもかまわない」との風潮を社内に蔓延させた。

「安永氏に負の遺産ごと放り投げた」社長交代

この一連の不祥事を機に当時の会長や社長は引責辞任し、社内の内部統制を強めた。特定の部署に長く在籍することが不正の温床につながるとして、「エネルギーをやっていたエースが全く畑違いの食糧などに移される人事が相次いだ」(三井物産幹部)。

その流れの中で「取り立てて実績のない」(三井物産OB)飯島氏が社長に就任。資源以外のビジネスに力を入れることなく、しかも、不採算事業を整理することもなく6年後には「安永氏に負の遺産ごと放り投げた」(同OB)。

その安永社長も、昨年12月の社長交代の会見で「内向き、内部統制色が強く、それを外向きにすることに注力した」と話したが、「失敗を恐れ、小粒化する」(ライバルの商社大手幹部)三井物産の凋落から同社を再び活気のある企業に生まれ変わらせることはできなかった。

次期社長の選考でも、飯島氏は稼ぎ頭である鉄鉱石など自らの出身部隊である金属部門やLNGなどエネルギー・資源分野の役員を推した。しかし、まだ社長のポストに未練たらたらの安永氏に、会長に退くことを飲ませるためには傍流とも言える化学部門が長く、全社を見通せる経営企画部長やIR部長を歴任した「調整型」の堀氏を据えることで落ち着いた。

「LNGばかりで30年、50年先を見据えた展望が見えない」

「打倒・財閥」に燃え、今や盟主・三菱商事も抜き、業界トップになった伊藤忠を引っ張ってきた岡藤正広会長CEOは、「本当は電力会社や鉄鋼会社と取引がしたかった。しかし、財閥でもなく、大阪の繊維出身と言うこともあって全く相手にされなかった」とかつての苦労を振り返る。

資源・エネルギーといった分野では三井・三菱にかなわないとみた岡藤会長は、経営資源を「個人向けビジネス」に集中し、投資先への経営チェックを強めながら、利益をコツコツ積み上げていった。

三井を越える最大財閥の三菱商事は同じエネルギー分野でも、石油やLNGから、オランダの電力会社であるエネコへの5000億円の買収で再生エネルギー事業へのシフトを急ぎ、「脱・炭素」への種まきを急いでいる。ローソンを核に顧客データを吸い上げ、傘下の三菱食品や物流会社などとデータを共用するなど連携して、BtoC分野の深堀りを進めている。

三井物産は「強いところは伸ばす」(安永社長)と言うが、投資先も「LNGのプロジェクトに集中するばかりで、30年、50年先を見据えた展望が見えない」(大手証券アナリスト)と分析されている。

次期社長となる堀氏は「中途半端な」(同アナリスト)三井物産をどう特長づけるのか。体質転換や構造改革が再び後手に回るようだと、昨年夏、大手商社5社に同時に投資した「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏から三井物産は最初に見切られるかもしれない。

(経済ジャーナリスト 矢吹 丈二)

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