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政策懇談会(IMFと世界経済・財政問題について)

私的に主宰する勉強会、「政策懇談会」を開催。

今回は、財務省職員で、今夏までIMFに出向されていた徳岡喜一氏より、「IMFの機能と現下の世界経済財政問題」とのテーマでプレゼンをいただき、ディスカッションしました。

<プレゼンの概要>(文責高田)

第一部 IMFの機能と現下の世界経済財政問題
1.IMFの機能



IMFによる資金支援(貸付)は、国際収支危機に陥り外貨が枯渇しそうな国に行われる。融資の条件(コンディショナリティ)として、財政規律や規制改革などの義務が課される。

IMFは、1944年7月のブレトンウッズ会議で設立された。戦争中に、連合国はすでに戦後の世界経済の枠組みを考えていたのである。同じくブレトンウッズ会議で設立された機関として世界銀行がある。IMFは外貨が枯渇しそうな国に融資するのに対し、世銀は開発資金を融資する。

IMFの意思決定の仕組みについては、各国の代表である理事から構成される理事会が意思決定機関として、いわば国会のような役割を果たしている。理事会では、出資比率に応じた投票権が各理事に与えられる。アメリカとヨーロッパで全議決権の五割を超えている。他方、専務理事以下、スタッフがいわば行政機関として存在する。

2.現下の世界経済財政問題



近年、IMFを巡っては不幸な歴史があった。1997年、アジア金融危機が起こり、タイ、インドネシア、韓国といった国々から資金が逃げ出した。一国で生じた危機が、近隣他国に伝染していったことがそれまでの危機と違う点。これらの国では自国通貨が売られ、外貨準備が急減した。

IMFは、これらの国々を支援したが、その際の条件について、後に批判された。IMFは、財政収支の改善、クローニーキャピタリズム(縁故資本主義)の解体、構造改革といった条件を課したが、これらの国々において、当時の財政赤字はそれほど大きくなく、無理な財政緊縮により結果として経済が悪くなった。むしろ、マーケットの信認を取り戻すような大量の資金を貸すべきだったのではないかとの批判がある。マレーシアは、IMFの介入を拒み、資本規制を行うことで対応したが、その後の経済パフォーマンスはタイなどより良かった。

IMFは、ワシントンコンセンサスと呼ばれるひとつのルールを各国の状況を踏まえず押し付けているとの批判が生じた。

このような、IMFの政策提言の内容や、アジアの国々が経済力の割に出資比率が少ないといった問題に関し、IMF改革の議論がなされるようになった。

また、2000年前後のブラジル、アルゼンチン危機後、大きな危機の発生がなく、2003年から2007年にかけての好調な世界経済の下、IMFの貸付先がなくなってくるという状況が生じてきた。IMFは金利収入で職員の給料等の経費をまかなっているため、規模縮小の議論が出てくることとなった。

リーマンショックで突如状況が変わり、IMFの役割は増大することとなる。IMFの貸付残高は現在、15兆円程度。今のIMFの資金規模では、大きな国で財政破綻が起きたときは対応できないのではないかと考えられる。金融危機後、IMFの資金が足りないとの懸念から、資金基盤の強化を行うこととなった。出資はすぐに対応できないので、まずは各国から融資枠を供与することとなった。

世界金融危機後、IMFのスタンスは変化してきている。先般のIMF世銀総会で、ラガルド専務理事も言及したように、財政規律一本槍ではなく、経済成長への配慮がなされるようになってきている。

最近のIMFの関心分野として、Inclusive growthというキーワードがある。貧困や世代内格差の存在が、社会を不安定化させ、持続的成長を阻害することから、こうした問題の解決が重視されている。

第二部 日本における財政健全化の世代間格差に与える影響



日本は1990年から2010年にかけて高齢者人口比率が倍増し、他の先進国を追い抜いている。日本は高齢化のトップランナーであり、日本がこれにどのように対応するかは、今後高齢化が進展するアジア諸国にとっても重要な問題。

賦課方式の社会保障制度が少子高齢化と合わさることにより、世代間格差が広がる。1995年時点における将来世代の純負担でみると、日本の世代間格差は主要国でも最大になっている。また、内閣府の2003年時点の推計によれば、高齢世代と将来世代では生涯のネット負担において1億円の格差が生じる。

こうした状況は、「財政的児童虐待」ともいわれる。また、日本では巨額の公的債務が問題となっている。公的債務対GDP比について、主要先進国で群を抜いた水準もさることながら、右肩上がりのトレンドが憂慮すべき問題。

公的債務の増加は将来の歳出削減や増税を要するため、さらに世代間格差を拡大することになる。親の世代で借金をしても、親が子のことを心配して貯蓄を残しておけば格差は生じないとの見方もある。しかし、大阪大学ホリオカ教授の研究によれば、子どものことを心配している親は二割から四割ぐらいしかおらず、仮に親が心配するとしても、皆が裕福な親を持てるわけではないことから、やはり世代間格差は問題。

ではどうすればよいか。財政健全化のために、社会保障改革や増税が必要。シミュレーションとして、5種類の措置(所得代替率(年金給付水準)の引下げ、年金支給開始年齢の引上げ、年金保険料の引上げ、年金以外の社会保障給付の抑制、消費増税)を検討し、それぞれ、各世代に与える影響を試算する。

所得代替率の引下げは高齢者を含めた各世代に負担が及ぶが、年金支給開始年齢引上げは、すでに年金を受給している高齢世代には負担されない。

年金保険料の引上げは、今後長期間保険料を支払う、若い世代ほど負担が大きくなる。年金以外の社会保障給付の抑制、消費増税は、各世代を通じて負担される。年金保険料の引上げは、労働意欲を阻害するため、経済へのマイナス効果が大きい。消費増税も経済へのマイナス効果があるが、年金保険料引上げほど大きくない。

今後の財政健全化に必要な負担も加味すると、若年世代のネット負担は、内閣府の試算よりさらに拡大し、15年分の勤労所得に相当する。

財政健全化の開始が遅れると、付加的な負担が生じるが、逃げ切りのできる中高年世代は得をすることになる。これらの世代の人口が多いため、政治的には、財政健全化を遅らせるインセンティブが働いてしまう。

日本の家族向け及び教育向けの公的支出対GDP比はOECDの中でも最低レベルであり、積極的に世代間格差に対応するには、これらの支出を増やす必要があるが、財源の問題がある。

<ディスカッションの概要>

今般の欧州の財政危機を、IMFは予見できていたのか。



IMFは必ずしも2009年時点では今般の財政危機を予想していなかった。財政再建を進めたときの経済への悪影響が従来考えていたのより大きく、当初予想していたより悪い状況が続いている。IMFが従来言っていたのは、財政再建をすると市場の信認が高まり金利が下がるため、経済にもプラスになるということだが、今、先進国では金利は下限に張り付いており、金利低下によるプラスの効果が働きにくい。

世代間格差については、現在の高齢世代が築き上げてきた社会経済のストックを現世代は享受しており、単純にフローの損得だけでは語れないとの見方もあるが、そうした観点の議論はあるか。

経済的効用でみれば、若い世代は様々な面で享受しているのではないかとの見方もあるが、それにしても現在の格差が許容限度かという問題。また、今後の財政健全化のための負担により、将来に向けてどんどん悪化することを考えれば、やはりどこかで世代間格差を緩和する努力が必要。

IMFは日本の財政は問題と考えているのか。



極めて問題視している。IMFの資金規模に対して、日本が抱えている問題は大きすぎるともいえる。民間の貯蓄を税で吸い上げることと、国債で吸い上げることのマクロの影響の違いはどうみているか。

国債でも将来増税で返すから、国民がそれを予想することにより、民間の行動は何も変わらない、との議論が経済学的にはあるが、それは現実的ではない。短期的には税の方が経済には悪影響。だが、銀行に貸し先がないため、消極的理由から国債に資金が回っており、国債によるファイナンスを続けるだけでは縮小均衡に陥ってしまう。民間経済を活性化させ、投資先をつくらなければならず、そのためにも国債発行を減らしていくことが必要。

ギリシャと違い、日本の場合、国債は国内で消化している。問題を先送りできるのではないかという説もあるが、どのあたりで破綻が来るのか。破綻のメカニズムは。

日本のように自国通貨建てで国債を発行している国では、いざとなれば中央銀行が国債を引き受けることができる。しかし、それは、市場ではファイナンスできないということを示すに他ならない。いずれ、ハイパーインフレとなるという意見がある。財政危機を脱するには、こうしたショックシナリオか、徐々に改善していくか、どちらかしかない。歴史的にはショックシナリオをとっているケースが多く、戦前の日本もそうだった。だが、こうしたハイパーインフレや、劇的な歳出カットによる不景気は深刻なものとなる。これにより、若年世代にもしわよせが来る。

勤労世代の負担で高齢者を支える年金制度の発想がおかしかったのではないか。



賦課方式を維持しようと思えば、どこかで少子高齢化を反転させなければならない。賦課方式から積立方式に切り替えると、現役世代は、現在の年金受給者の分と、自分達の積立の二重の負担が生じる。ただ、切り替えの期間を長くとって、今の高齢者の分は国債を発行し、時間をかけて償還していくといったことは考えられる。

過去、ハイパーインフレが起きたケースには二つの類型がある。第一は、戦争の時、物がないため物価が上がるケース。第二類型として、自国通貨とドルがペッグしていた状態から、ペッグを外す場合。日本の場合、そのいずれでもないが、最終的にどういうメカニズムでインフレとなるのか。

日本はすでにフリーフロートだが、それでもインフレにはなりうる。通貨の減価に伴い輸入物価が上昇し、物価が上がることによる経済への悪影響が生じる。

発想の転換が必要。高齢者の定義を見直すべき。元気な高齢者には年金を我慢してもらい、そういう人には褒章を出すとか。

日本の貿易収支の悪化についてIMFで議論はあるか。



もともと近年は、日本の貿易黒字はそもそもそれほど大きくなく、所得収支が中心となっており、貿易収支についてはそこまで問題視されていない。

他の国では世代内格差が問題となるのに対して、日本では世代間格差が問題となる背景は。世代内格差に関して、日本では、相対的貧困率が大きくなっているといった問題はあるが、絶対的貧困は問題とならない。世代間格差についてはトップランナーとして注目されている。

IMFはGlobal financial stability reportを公表しているが、IMFには個別の金融機関の情報はいってくるのか。中国なども分析しているのか。

IMFはもともと金融セクターはあまり見ていなかった。しかし、金融セクターから危機が出てくることがあるので、90年代以降、金融セクターを見るようになってきた。IMFのスタッフと各国金融当局との定期的なやりとりはある。

IMFはそもそも、アメリカや日本のような先進国に対して提言する意味はあるのか。

先進国はそもそもIMFのいうことあまり聞いていない。しかし、IMF協定に基づき、国別に分析を行い、レポートを作成することとなっている。

中国は巧妙に為替操作をしていると言われるが、そういう国はけっこうあるのではないか。IMFに、何らかの基準、考え方はあるか。

為替の話はかなりセンシティブであり、IMFも、中国、日本に対しては遠慮がちに言っている。最近、中国が槍玉にあげられるのは、経済規模が大きく、世界経済への責任が大きいから。日本についてはあまり言われなくなってきたのは、日本の経済力が相対的に落ちてきたという残念な状況の反映でもある。

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