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■ウォルマートは15日、同社のデジタル・トランスフォーメーション(DX)化で立役者となったeコマース部門CEOのマーク・ローリー氏の退社を発表した。
ローリー氏は1月31日でCEOを退任後、今年9月までウォルマートの戦略的アドバイサーとしてコンサルティング業務を行うとしている。eコマースCEO等の後任は、ウォルマートUSのCEOであるジョン・ファーナー氏が兼任する。
ローリー氏はウォルマートに入社する2年の2014年4月、会員制ネット通販のジェット・コム(Jet.com)を創業。ウォルマートが2016年8月にジェット・コムを33億ドル(約3,400億円)で買収後、ローリー氏がグローバルeコマース事業部CEOに就任した。
ウォルマートは2012年から同部門のCEOを務めていたニール・アッシュ氏の後任としてローリー氏を33億ドルでヘッドハントしたのだ。
ウォルマートの傘下となったジェット・コムはその後、靴のオンラインショップの「シューバイ(ShoeBuy)」、アウトドア用品販売の「ムースジョー(Moosejaw)」、ビンテージ&レトロ風レディース・ファッションブランドの「モドクロス(Modcloth)」、オンライン・メンズアパレル・ブランドの「ボノボス(Bonobos)」、プラスサイズブランドの「エロクイ(Eloquii)」等のネット企業の買収を行った。
ボノボスの共同創業者であるアンディ・ダン氏は買収後にローリー氏の直属の部下となり、ウォルマート傘下になったネット企業を監督している。
ローリー氏はまたウォルマートのホームページからストアアプリまで刷新、マーケットプレイスも強化しオンライン商品数を約8倍に拡大した。同氏はネット通販の2日間配送や翌日配送、ネットスーパー対応等のサプライチェーンの改善も積極的に行っていた。
特にカーブサイド・ピックアップや宅配サービスのネットスーパー展開の拡大により、ウォルマートの売上成長を支えることになった。最近でもウォルマートはネットスーパーにサブスクリプションを導入している。
直近の四半期決算ではネットスーパーを含めEコマース売上高が前年同期比で79%の増加となっている。調査会社のeマーケッターによるとローリー氏の4年半におよぶ在職期間でウォルマートのECシェアは2倍以上となった。
ウォルマートの株価も2016年の入社当時から現在までに80%以上も増加した。
一方、ローリー氏が立ち上げた富裕層向けパーソナル・ショッピング・サービス「ジェット・ブラック(Jet Black)」は昨年2月、撤退に追い込まれた。ジェット・コムも昨年5月に廃止となったのだ。
ローリー氏は2019年9月、ウォルマートUSの当時のCEOであったグレッグ・フォーラン氏との間に「不満と緊張(frustration and tension)」があることを認めた。DXを進めるローリー氏と現場を重視するフォラン氏との間に軋轢があったことを明らかにしたのだ。その翌月、ウォルマートはフォラン氏がCEOを退職することを発表している。
ローリー氏はウォルマートを退職後についてオンライメディアのリコード(Recode)に起業より「新たな都市開発」に興味があると語っている。
またスタートアップへのアドバイスや慈善事業にも興味をもっており、その傍ら本の執筆も行うようだ。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。ダグ・マクミラン氏が2014年、ウォルマートの5番目のCEOになった直後、役員に配った本があります。「ジェフ・ベゾス 果てなき野望(The Everything Store)」です。
ジャーナリストのブラッド・ストーン氏が書いたハードカバーで原文は400ページ近くあり、日本語訳では500ページを超えます。アマゾン創業者でCEOのジェフ・ベゾス氏の生い立ち等、アマゾン創業時から今にいたるまで詳細に書かれた書籍です。
その中でとても興味深いエピソードがあります。409ページにある「このあと紹介するストーリーは、前述3社(ウォルマート、アマゾン、そしてマーク・ローリー氏が立ち上げたクィッジー)の関係者が記憶していたことをもとに再構成したものである。証言はすべて匿名を条件に行われたが、アマゾンもウォルマートも機密保持に厳しく、この件について口外したとばれたら大変なことになると、全員、震えあがりながら話してくれた」との記述後に展開する5ページにわたるストーリーです。
⇒翻訳本ではクィッジー(Quidsi)をクイッドシー、ダイパーズ・コム(Diapers.com)をダイアパーズ・コムとローマ字読みになっている点はご愛嬌ですが、当時のウォルマート役員のEコマースに対する「誤った認識」がよく表されています。ウォルマートはリアル店舗で大成功をしていたことで、役員の間でEコマースの価値を見誤っていたことをよく示しています。
ウォルマートは結局、買収額でケチッてしまいクィッジーを買収しませんでした。当時はローリー氏が作った物流ノウハウを過小評価していたのです。クィッジーを買収しなかったことでロボット物流のキバ・システムズも買収できなかったのです。
で、ウォルマートが買収をやめた後にクィッジーはアマゾンにもっていかれました。これによりECシェアでウォルマートとアマゾンに大きな差が付いたと言っても過言ではないと思います。で、ウォルマートは反省し、その後、ECの天才のヘッドハントに33億ドル(約3,400億円)を費やすことになりました。その後のネットスーパーの躍進を含め元はとっています。
ローリー氏が執筆すれば、その本は起業家にとってバイブルになるかもしれません。少なくともウォルマートでやっていたことをもっと詳しく知りたいですね。
記事
- 2021年01月16日 10:40
【ウォルマート】、DXに導いた立役者のマーク・ローリー氏退社!参考にすべきことは?
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