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バフェット銘柄になった三井物産、丸紅、三菱商事が「脱炭素」に大きく舵を切る必然

昨夏、「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏は、総合商社大手5社についてそれぞれ時価総額の5%程度の株式を取得した。その後、三井物産は、2021年中にも海外石炭火力発電事業から撤退を始める方針を決めた。それらは「脱炭素」という必然を示している——。

2019年5月、ネブラスカ州オマハで開催される年次株主総会に到着する、バークシャーハサウェイCEOのウォーレンバフェット。2019年5月、ネブラスカ州オマハで開催される年次株主総会に到着するバークシャー・ハサウェイCEOのウォーレン・バフェット氏。 - 写真=AFP/時事通信フォト

バフェット氏も「脱炭素」の行動に目を凝らしている

総合商社大手5社が海外での石炭火力発電事業の抜本見直しを迫られている。

「パリ協定」による「脱炭素」の流れが企業行動にも求められている中、「環境」「社会」「企業統治」を重視するESG投資に大きく傾く世界の有力な機関投資家や、金融機関による容赦ない重圧が加わる。

この企業環境の流れは、事業の縮小・撤退が避けられない次元を迎えた。昨年夏に突如、大手5社の株式取得に動いた「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏もその行動に目を凝らす。

三井物産は早ければ2021年中にも海外石炭火力発電事業からの撤退を始める方針を決めた。読売新聞が1月1日付朝刊で、三井物産の安永竜夫社長へのインタビューをベースに報じた。

三井物産は中国、インドネシア、マレーシア、モロッコで現地資本などとの共同出資で石炭火力発電事業に参画している。世界的な「脱炭素」の流れを踏まえ、2020年10月に2030年までの10年間で出資分の売却を終える方針を示していた。

今回の決定はこの大幅な前倒しを意味する。

三井物産は非資源ビジネスの強化に注力するも道半ば

三井物産は市況に左右されがちな資源ビジネス(金属・エネルギー部門)に偏重した収益基盤からの脱却を目指し、「安永体制」で非資源ビジネスの強化に注力してきた。その点でも海外火力発電事業の段階的縮小は必然の流れだ。しかし、収益基盤のポートフォリオ転換は思うように進まず、資源ビジネス偏重からの脱却は引き続き経営課題として残ったままだ。

そのカギを握るのは2020年12月23日に発表したトップ人事で、安永社長は4月1日付で6年間務めてきた社長の座を堀健一専務執行役員に譲り、代表権を持つ会長に退く。安永社長は「収益基盤の組み換えに注力してきたが、まだ道半ば」と無念さをにじませ、堀氏に長年の経営課題解消を託す。

それは堀氏にとって「脱石炭火力」が早急に取り組まなければならない命題になる。

三菱商事が参画するベトナムプロジェクトに投資家が撤退要請

三井物産に限らず、総合商社大手にとって、稼ぎ頭ながら海外石炭火力発電事業の縮小・撤退は避けて通れない重要課題であることは間違いない。

ESG投資へのシフトを鮮明にする世界の機関投資家や金融機関からの出資や融資が途絶えかねないリスクを内包するだけに、もはや時間稼ぎは許されない。

工場の煙突からの煙※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DWalker44

丸紅は2018年9月、2030年までに石炭火力発電事業規模を半減し、新規事業に取り組まない方針を表明した。三菱商事、住友商事、伊藤忠商事も原則、新規事業に参画しない意向を示し、総合商社大手5社は脱石炭火力で足並みをそろえる。

ただ、5社の基本スタンスは新規事業に対する停止が主体で、既存事業については、まだ撤退に踏み切れない。

実際、日本、ベトナムの国家プロジェクトとしてベトナムで計画されている石炭火力発電所「ブンアン2」の建設には三菱商事が参画し、今後も継続する意向だ。

しかし、こうした企業姿勢に機関投資家の対応は容赦しない。

「ブンアン2」の建設プロジェクトを巡っては、2020年10月、北欧最大の機関投資家ノルデアはじめ、アムンディ、AP7、アリアンツなど欧州を中心にした21の投資家連合が建設計画に関わる12社に「計画撤退を要請する」との書簡を突き付けた。うち8社は三菱商事をはじめとする日本企業だ。

ESG投資の奔流と国家間プロジェクトの板挟み

さらに2021年1月5日には、学生環境団体に所属する日本とベトナム、韓国の学生が三菱商事や金融機関に対して抗議する動画をインスタグラムに公開し、日本の学生らが事業の関係先に公開質問状を送付した。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんも「キャンペーンを全面的に支援しています」とメッセージを寄せ、話題となった。

その意味で、「ブンアン2」のプロジェクトは、総合商社大手が東南アジアを中心に世界各地で展開している石炭火力発電事業について、「脱炭素」推進の観点から真っ先にやり玉に挙がる象徴的存在になっている。

同時にそれは、世界的なESG投資の奔流に飲み込まれる一方で、日越の国家間プロジェクトの板挟みにあい「抜け出したくても抜けられない」ジレンマを抱える事情を浮き彫りにする。

3メガ損保も「脱石炭火力」で足並みを揃えた

しかし、環境負荷の重い石炭火力発電所に対する逆風は「外圧」ばかりでなく、今や国内からも吹き込む。2020年9月、損害保険大手は相次いで「脱石炭火力」を宣言したのもその流れだ。

SOMPOホールディングス(HD)傘下の損害保険ジャパンが先陣を切って9月23日、石炭火力発電所の新規建設に対する保険引受・投融資を原則停止すると発表した。

東京海上日動火災保険の持ち株会社の東京海上HD、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険を傘下に持つMS&ADインシュランスグループHDもこれに追随し、3メガ損保は「脱石炭火力」で足並みを揃えた。

通常、発電所建設に向けた事業融資(プロジェクトファイナンス)は保険への加入が前提となるため、損保会社の引き受けがなければ事業に大きな影響が及ぶのは避けられない。

「脱石炭火力」への日本の金融機関の取り組みとしてはすでに3メガバンク、生命保険大手がともに新規建設への融資や投融資の原則停止を決めている。3メガ損保の場合、3メガバンクや生保大手に比べて「脱石炭火力」への対応が明確でなかったのは、取引先への配慮を優先したためとみられる。

「脱石炭火力発電」に向けて形成された金融面での包囲網

しかし、昨年6月に国連傘下の国連環境計画(UNEP)と世界各国の金融機関で構成するUNEP金融イニシアチブが損保業界向けのESGリスクへの取り組みの手引書をまとめ、「脱石炭火力」の方向に3メガ損保の背中を押した。

メガ損保がメガバンク、生保大手の歩調に合わせたことで、日本でも石炭火力発電事業に対する金融面での包囲網が形成された格好だ。しかし、これも原則は新規の案件に限定され、すでに投融資や引き受けを表明している事業は除かれる。さらに高い発電効率を備えた施設は例外という“逃げ道”もある。

現に、政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)は2020年12月29日、前述した三菱商事が参画するベトナムの「ブンアン2」に対し、約17億6700万ドル(約1800億円)の協調融資を決めたと発表した。

JBICは約6億3600万ドルを限度に融資し、3メガバンクや韓国輸出入銀行などが加わる。日越の国家間プロジェクトだけに「脱石炭火力」を宣言した3メガバンクも容易に反故にできない事情を反映している。それだけに、今後も例外案件が出る可能性はあり得る。その場合は明確な説明責任が求められる。

「投資の神様」の商社投資は、日本株で最大規模

ESG投資は、大きなうねりとなって世界経済を巻き込んでいる。世界最大規模の資産運用会社である米ブラックロックすらも2020年1月に、収益の25%を石炭生産から得ている企業からのダイベストメント(投資の引き揚げ)を発表している。

こうしたうねりに、日本企業も否応なしに対応を迫られている。政府も菅義偉首相が2020年10月26日の所信表明演説で、2050年までの二酸化炭素の実質排出ゼロを宣言し、石炭火力発電についても「これまで長年続けてきた政策を抜本的に転換する」と表明している。それだけに日本企業は、「脱炭素」に向けた行動を迫られる。

総合商社を巡っては、2020年8月30日、著名投資家として知られるウォーレン・バフェット氏は自ら率いる米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイを通じ、総合商社大手5社の株式をそれぞれ時価総額の5%程度を取得したと発表した。バフェット氏にとっては日本株への投資としては最大規模であり、株式市場に大きなインパクトをもって受け止められた。

取得目的など詳細は明らかにしなかったため、市場関係者の間では、バフェット氏の動きの解釈では諸説入り乱れる。ただ、はっきりしているのは「投資の神様」が脱炭素に向けた各社の取り組みと市場反応をしっかり見極めているという事実だろう。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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