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監査・監督委員会設置会社への移行と社外監査役の憂鬱

今回の会社法改正要綱をみますと、「第三の株式会社機関設計」として、新たに「監査・監督委員会設置会社」が創設されています。会社法改正により、社外取締役の導入義務付けが制度化された場合には、ずいぶんと脚光を浴びたのではないか、と言われています。たとえば上場会社の場合には、取引所ルールで「監査役会の設置」が要求されていますので、少なくとも(現状では)社外監査役が2名います。監査・監督委員会設置会社では、2名以上の社外取締役を要するので、監査役会設置会社が監査・監督委員会に機関変更してしまえば、現行の社外監査役2名をそのまま社外取締役にスライドできます。つまり、新たに社外取締役候補者を探したりすることも不要になるわけです。しかしながら、ご存じのとおり社外取締役の導入義務付けは見送られることになりましたので「これで監査・監督委員会設置会社への世間の関心も薄れてしまうのだろう」と、私などは考えておりました。

しかしここに来て、またまた監査・監督委員会設置会社への移行に関心が高まりつつあるようですね。経営トップによる迅速かつ柔軟な意思決定を可能とするには、今の監査役会設置会社よりも監査・監督委員会設置会社のほうが実効性が高いのではないか?とする意見もよく聞かれるところとなりました(旬刊商事法務にも、そのような趣旨の論文が掲載されています)。また最新号のビジネスロージャーナル(2013年1月号)の日経新聞編集委員の方の論稿も、企業統治を真剣に検討するのであれば、監査・監督委員会設置会社への移行も十分に検討すべし、と述べておられます。証券取引所も監査・監督委員会設置会社への移行を推奨しているところですし、さらに(監査役会設置会社だけでなく)委員会設置会社からの移行も検討されている、との話もお聴きするところです。

手続きが面倒そうだし、実益がないのであれば関心はないとする見解と経営者の思うままに会社を動かすためには結構有益では?とする見解と、どちらが正しいのかという点は、私自身、これまであまり深く考えたことはありません。ただ、そもそも議論の前提になっている「社外監査役→社外取締役」へのスライドというのは、そんなに簡単にできるものなのでしょうか?「ウチの会社は監査・監督委員会設置会社に移行するために定款変更を考えています。社外監査役のみなさんも、これからは議決権を持つ社外取締役に移行していただきます」と言われて、ハイそうですかと簡単に納得できるものでしょうか?少なくとも私が社外監査役であれば、「ちょっと待ってくださいよ。私は社外監査役であれば気持ちよくお請けしますけど、監査・監督委員会設置会社の社外取締役だったら、ちょっと考えさせてください」と申し上げるのではないかと。

まずなんといっても常勤の監査・監督委員の設置が任意であることです(監査役会設置会社では常勤監査役の存在は必須)。これまで常勤監査役さんに慣れてきた社外監査役が、いきなり内部統制に依拠する監査に果たして怖さを感じないのでしょうか?通常は、常勤監査役さんの往査の結果報告や出席した重要会議の結果報告等から、リスク評価を行うための情報を入手するところですが、もし内部統制システムに依拠した監査に移行するのであれば、人よりも組織を信用する態勢を覚悟しなければならないわけです。そうであるならば就任の条件としてはこちらが要求する内部統制システムを構築してもらわなければ、高い「監査見逃し責任」リスクからは抜けられない気がいたします。過去に非常勤社外役員の法的責任が否定された判例などもありますが、今の時代の流れの中で、同様の判決が出るとは限りません。

また、監査・監督委員会は(同委員会が選定した監査・監督委員を通じて、ということになりますが)株主総会で取締役の指名や報酬に関する議案提出の際に、委員会としての意見を述べることができます。ということは、委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会の権限の一部を監査・監督委員が担うことになります。権限あるところに責任あり、ということになりますから、監査・監督委員といえども、社内の派閥間における支配権争いに巻き込まれることもあるでしょうし、社内事情に精通したうえでの説明責任も課されることになるのではないでしょうか。「意見を述べない」との選択肢も、社外取締役は社内のことがわからないから意見を述べない、では済まされないものと思います。

これに加えて、取締役に移行する社外監査役にとって「気持ち悪い」のが会社法423条3項の「利益相反取引に関する任務懈怠の推認規定」の排除です。監査・監督委員会が、取締役会における利益相反取引に関する承諾手続きの際に、これに同意した場合、後日利益相反取引によって会社に損害が発生しても、取締役会で賛成した取締役の任務懈怠の推定が排除される法的効果が生じます。もちろんしっかりした監査・監督委員の方が多い場合、その他の取締役の方々の監督機能に十分に期待できる場合であれば良いのですが、そうでない場合には経営トップが暴走することの「隠れ蓑」にされてしまうおそれがあります。監査・監督委員のメンバーが利益相反取引の妥当性についてきとんと判断できればよいのですが、そもそも判断の前提となる情報に監査・監督委員会が十分にアクセスできる保証はありません。そういった中で、利益相反取引が会社に損害を発生させない根拠をきちんと把握できるものかどうか、暴走とはいえないまでも、短期的利益追求を目指す社長と対決してまで取引に反対する社外取締役がどれほどいるのか、ということを考えますと、これはとても悩ましい課題ではないかと。

監査役会設置会社の社外監査役であれば、「監査役の独任制」によって社長と対立するということもあるかもしれませんが、監査・監督委員会の場合はそれも困難です。こういった有事における監査・監督委員たる社外取締役の身の処し方や法的リスクについての十分な議論がなされないまま、単純に「社外監査役→社外取締役」へのスライドに応じることはちょっとオソロシイ気がしますし、社外取締役に就任することの覚悟をもって臨む必要があろうかと思います。もちろん、経営者サイドからみても「この人は監査役としてなら就任してほしいけど、取締役となるとどうもなぁ」といった事態も出てくるかもしれません。そう考えますと、今後監査・監督委員会設置会社が増えることがあったとしても、やはり上場会社が新たに社外取締役を探してくる必要性は(従来の監査役会設置会社における労力と比較しても)それほど変わらないのではないだろうか・・・・・と思うところです。

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