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どっちに転んでも叩く人は叩くけれど

 一時期、お役所の「不正経理」が世間の話題に上ったことがありました。「不正」と言っても私的流用に相当するものは皆無に近く、単に正規の手段を100%遵守することなしに公金を支出していただけのことなのですが、まぁ公務員を叩く材料に飢えていた政治家や国民にとっては、そういった事情などはどうでも良かったようです。ではこの「不正」を是正するためには何が必要だったのでしょうか。

 当時の私の勤務先では官公庁とも取引がありまして、「融通の利かない」役所とのやりとりには悩まされたものです。「保守契約料」を請求しているのに「契約に対する支払いはできない、業務委託費に書き直してくれ」だの、「修理代」を請求したら「修繕費用としては支払えない、部品代として請求してくれ」とか、「先月分への支払いはできない、修理対応日を今月に書き直してくれ」云々と、色々ありました。とかく「融通が利かない」イメージの強い「お役所」らしいエピソードに見えるかも知れません。でも正規のルートから外れないように手続きを進めるためには、それが必要だったのでしょう。ここで役所側が融通を利かせて、細かいところは無視して支払いを奨めてしまえば、それは公の規定から外れた「不正」になってしまうのですから。ルールを守れば「融通が利かない」と責められ、柔軟に振る舞えば「不正」として糾弾される、これではどうしようもないですね。

参考、だから役所は難しい

 ……で、昨今の職務上は通信設備工事に関わることが多いのですけれど、似たような問題を意識せざるを得ないところがあります。つまり、ルールを徹底して守るのか、「柔軟に」違反するのか。どちらが正しくどちらが間違っているというものではないのですが、しかるに公務員の世界よろしく世間の敵意に晒された場合、「どっちに転んでも非難される」という不条理に見舞われるであろうことが想像されるわけです。幸いにして私の関わる業界は特にバッシングの対象として好まれてはいないとはいえ、決して他人事とも思えないなと。

 例えば安全管理のため、現場代理人(監督責任者)は自ら作業に当たってはいけない、危険を伴う作業は必ず現場代理人の監視の下で行うこと、みたいな規定があるわけです。そして施工会社にも2パターンあって、概ね小さいところほどルールは気にしない、現場代理人も率先して作業に手を付ける、現場代理人がいなくとも作業員は自らの判断で次々と作業を進めていく、おかげで作業が早くて助かっているところも多いのですが、ウチの会社の上司はご立腹です。そのうち絶対に問題になるから、規則を守らない施工会社は切れ、と。

参考、現場が求めたことでないのは確かだ

 一方で、大きいところはちゃんとしてます。例えば関電工とかですね。全員が全員とは言いませんけれど、大手の工事会社はルールを厳守する、現場代理人は監督に専念し、自らは作業しないわけです。形式上は、それで正しい、何も間違ったことはしていません。しかるに別の角度から見ると、大手の元請け工事会社の人間(現場代理人)は、下請けの人間が危険な作業に当たっている間も遠くから眺めているだけ、指示を出すだけという形になります。これも安全管理のために必要と判断された結果ではあるのですが。

 ある程度まで現場に関わったことがある人間なら、このような構図を特に恨みに思うようなことはないでしょう。じゃぁ管理監督者が自らの持ち場を離れて作業を始めれば良いのか、それはやはり事故のリスクを高めるだろうと、これぐらいは理解されているものです。しかし、部外者の手によって「色」を付けられて伝えられるとなるとどうでしょう? 自らの政治的な思惑を抱えた自称ジャーナリストの類が、現場作業員にインタビューをしてみた結果がどのようなものになるのか、通信設備工事の世界とそれほどの違いがあるとは思えない原発作業を巡る報道には、今なお考えさせられるものが少なくありません。

 ルールを無視して作業が進められれば、それはしばしばスキャンダルとして広められます。現場代理人が自ら作業に手を染める、現場代理人の監視がない状況で作業が進められる等々、これも安全軽視の表れの一つとして糾弾されるには十分なものですし、実際にそう伝えられることもありました。では逆に現場代理人が「監視しているだけ」「指示を出すだけ」であればどうかというと、「元請けの人間は見ているだけで、実際に危険な仕事をやらされるのは下請けばかり……」みたいな報道が相次いできたことは今さら繰り返すまでもないでしょう。

 ルールを遵守するのと柔軟に運用するのとでは、一概にどちらが正しいと言えるものではありません。むしろ、どちらも正しくない。ただどちらを選んでも100点満点ではない中で、その完璧でない部分を探してはバッシングのネタにしようとする、そういう根性は実に卑しいと思います。役所でも分野に限らず現場作業の世界でも、是正されるべき問題がないとは言いませんけれど、槍玉に挙げられているものの背景ぐらいは伝えて欲しいし、受け手の側でも考えて欲しいところです。しかし敢えて背景を語らず、読者(視聴者)をミスリードしたがるメディアは目立つ、それをマスゴミ云々と罵倒しながら毎回のように乗せられている「お客様」も多いわけです。分別がないな、と。

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