コロナ禍で日本のデジタル化の遅れが露見した。この遅れを取り戻せるのか。元Googleで今はシリコンバレーやシアトルで活動するAIビジネスデザイナーの石角友愛氏(パルアルトインサイトCEO)は「日本のデジタル政策は、アメリカと比較すると具体的な目標設定がされていない。デジタル化のためのデジタル化に陥る恐れがある」という――。
デジタル改革関連法案準備室の立ち上げ式で、記念撮影の際に中央を平井卓也デジタル改革担当相(左)に譲る菅義偉首相(東京都・港区)=2020年9月30日 - 写真=時事通信フォト
デジタル化に不可欠な「国民が享受できる利点」の明示
自民党が提出したデジタル庁への提言内容によると、デジタル庁を各省庁の調整機能的な組織にするのではなく、首相直轄で、強い権限を有した常設組織にしたいということです。
提言では、デジタル庁に権限を集約し、政府や地方公共団体、民間のデジタル化をけん引する強力な司令塔機能を持つことが大事だと記載されています。その内容を読むと、フラットな組織にして、年齢に関係なくデジタル人材を国内外から積極的に採用することなどがまとめられています。
取り組むべきアジェンダとしては、マイナンバーデータを中心としたマスターデータの整理や一元化、地方公共団体でおのおのに調達、整備、運用されているITシステムの共通化、デジタル化に不可欠な人材育成やリテラシーの育成などが挙げられています。
私がアメリカから見ていて感じることは、デジタル国家としては後れを取っている日本が、ハンコの廃止などから始まりデジタル化に取り組むことには期待が高まります。
しかし、国民にその理由や利点、目的が明確に伝えられておらず、データ統合やマイナンバー普及などの話ばかりが取り上げられ、具体的な省庁ごとのアジェンダが不足しています。かつ、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)強化という言葉ばかりが先走り、政府のDX化の目的や戦略などの議論が足りないように思います。
米国の戦略的なデジタル推進体制
例えば、米国ではトランプ政権にCTO(最高技術責任者)がいて、トランプ大統領に直接国家のIT戦略について策定、助言、実行を担ってきました。
米国CTOの役割は、米国での新興技術の開発を奨励し、米国企業が新しい技術を商業化して採用できるよう促し、米国民が21世紀の経済で成功するために必要なツールへのアクセスを改善および拡大することとあります。
また、アメリカ人労働者のために新技術の開発を促すこと、国外でのアメリカ発イノベーションを擁護すること、そしてアメリカ人の安全とセキュリティーを保護することなどの責任があります。
現在の米国CTOはマイケル・クラトシオス氏です。1986年生まれで、ピーター・ティール氏率いるベンチャーキャピタルであるシールキャピタルの元経営陣です。彼はトランプ大統領の支援者でもあり、投資家として幅広い技術を見てきた経験を生かして、以下の領域で政策に取り組んでいます。
これらはバイデン政権に移行後は修正や更新される可能性がありますが、少なくとも政府のデジタル戦略の取り組みとしては参考になるのではないかと思います。
●AIイニシアチブ
●クアンタムコンピューティング
●5G
●ブロードバンドコミュニケーション
●自動運転
●商用ドローン
●STEM教育
●応用製造
それぞれの領域で、国防省や司法省などの政府各省が取り組むべきアジェンダを作りこみ、その進行具合をチェックするためのKPI(政策成果目標)の策定などを行っています。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rocky89