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法科大学院は、医学部に学べ!?

 法曹養成検討会議の第3回議事録が公開されています。
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 ここでの和田委員の発言が話題を呼んでいます。
法曹養成制度検討会議 第3回会議議事録 和田委員の発言「法科大学院は受験予備校化さえしていない」」(Schulze BLOG)

要するに、中途半端なんです。」(福岡の家電弁護士 なにわ電気商会)

 和田委員は、これまでのこの検討会議の前身であった「法曹の養成に関するフォーラム」の旧来のメンバーに加えて新たに選任された方ですが、従来のフォーラムがあまりの出来レースのひどい人選で(荻原委員を除く)、法科大学院制度を賛美するだけの人たちの巣窟だったので、光明が差した感があります。

 和田委員の発言は長いので要旨を記載します。
 経歴 現在弁護士だが、司法修習後は明治学院大学法学部に勤務。
 その後、裁判官(東京地裁勤務)になった。
 3年後、青山学院大学法科大学院に6年間勤務(専任教授)
 青山学院大学以外に,九州大学の法科大学院や筑波大学の法科大学院の非常勤講師を務めた。司法試験の予備校の講師をした経験もある。
 現在の法科大学院における教育というのは,教員によってはあるいは大学によっては,一部によいものもあるとは思うものの,全体としては適切なものであると言い難い。現在の制度を大きく変えない限り,司法試験の受験の前提としてそのような法科大学院の教育を強制するということには合理性がない。
 現在の法科大学院における教育というのは全体的に見て司法試験の受験にも余り役に立たず,実務をする上でも余り役に立たないという内容が多過ぎると感じられ、学生にとっては2年ないし3年の時間と数百万円の費用等をかけて法科大学院での教育を受けないと司法試験が受験できないという現行制度について、それを正当化できるだけの適切な教育がなされていない,と言わざるを得ない。
 「法科大学院修了を受験資格としても,法科大学院が受験予備校化するだけであり」という点も、むしろ法科大学院が受験予備校化さえしていないというのが現状。
 法科大学院では実務家養成をトータルとして行うべきであり,司法試験の受験のことだけ教えればいいとは思わないが,法科大学院で教育を受けることが司法試験の受験資格になっていて,司法試験が実務家になるための実力を問うものとされている以上,法科大学院でも司法試験の受験のことも教えるべきだ。
 答案練習も司法試験に合格するためだけでなく,実務家の法曹養成プロセスとしても不可欠。それにもかかわらず,法科大学院において,司法試験の受験指導をすることは公式には現在も禁止されている。
 医師を養成する医学部では国家試験の指導をしてはいけないとはされていないはずであり、受験予備校化してはいけないなどとして司法試験の受験指導を排除しようとしているのは,司法試験に受かりたいという学生の思いにも著しくかけ離れている。
(要旨は以上)

 法科大学院制度に対する批判としては、素晴らしいです。
 ただ、やはり法科大学院制度を推進する人たちの主張とはかみ合っていませんし、実際に法科大学院を卒業し、法曹となった人たちに対する説得力は、欠くように思います。
 和田委員は、法科大学院を予備校にすらなっていないと批判していますが、法科大学院制度推進派からは、法科大学院は予備校を批判してできた、予備校的な受験テクニックを教えるところでもないのだから、予備校なっていなくて当然だと主張(反論)するでしょう。
 しかも、法科大学院制度推進派は、司法試験自体を法科大学院で学んだことを試す試験に変更せよと主張していますが(これ自体の根拠は司法審意見書にあります。)、プロセスの教育である以上、司法試験の合格することを目標にした試験勉強だけをやるでは、法科大学院制度の存在意義の否定にもなります。この点もかみ合っていません。

 和田委員は、医学部では、医師国家試験勉強対策をしてはいけないということにはなっていないと述べますが、ただ、これは比較対象にはなり得ないでしょう。
 例えば、医学部の中でも底辺校と言われているところでは、結局、6年間が国試対策になっており、臨床などの授業が曖昧になっています。
 文科省に設置された「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」の「論点整理」では以下のような指摘(意見)が掲載されています(2011年12月14日発表)。
 掲載されているところ
 意見そのもの(PDF
(以下、抜粋)
[1]カリキュラム改革の必要性について
○本検討会では、短期間で医学部入学定員を増加したことなどにより医学生の学力が低下しているのではないかという意見があった。
多くの医学部の6 年次の時間の大半が、医師国家試験の対策に費やされ臨床実習が必ずしも十分でないと言われている現状を考慮し、6 年間の医学教育の効果を高め、特に後述する診療参加型臨床実習の充実など、各大学におけるカリキュラム改革が求められる。
[4]診療参加型臨床実習の充実(基本的な診療能力の確実な修得)
○臨床実習は、概ね5 年次から6 年次にかけて行われている。しかし実施時間数がきわめて少ない大学があることや、全体としても時間が少ないこと、さらに実習の内容が見学にとどまるものが多いなどの問題もある。この背景として、前述の国家試験の準備に多くの時間を割くために実習が形骸化している場合があるのではないかという指摘があった。
○こうした中、医学部入学定員を短期間で増加させたことに伴い、医学生の能力が低下するのではないかという懸念に応えていくためには、特に臨床実習の充実が非常に重要であるという意見があった。
(以上、抜粋)

 この医学部との比較は、非常に示唆に富みます。
 法科大学院制度推進派は、何事につけ、この医学部の養成制度を引き合いに出し、「法曹が点で選抜されるのはおかしい、養成制度があって当然だ、医学部をみてみろ。」というわけです。和田委員の発言は、このような主張が念頭にあったのかもしれません。

 医学部での臨床教育は不可欠であり、極めて重要です。国試が通っても、技術が何もないでは話になりません。
 それこそ、きちんと6年間の医学部での授業をきちんと履修すれば、本来、通る試験という位置づけであり(もちろん、試験である以上、それに応じた対策は必要であり、全く試験対策が皆無ということはあり得ないでしょう。)、しかし、現実には、それにおぼつかない底辺校であったり、あるいは定員増により学力がないままに入学してしまい、臨床どころではない学生などは、国試対策に走らざるを得ないということでもあります(従って、上記意見(要旨)のようなカリキュラムの問題ではありません。)。

 むしろ、医学部の失敗に教訓をくみ取るべきです
 医学部の定員自体が医師数の数と合致させて制度設計をしている医学部と比較することも誤りといえます。
 導かれる教訓とは、一夜にして大量の人材育成はできないということです。医学部の定員増や医学部の新設をすれば医師が大量に要請できるわけではないということと同じです。
 結果として、大量の法曹育成はできなかった、それは夢物語だったということを何故、認めたがらないのか、ということです。
 現実に無理なんです、一夜で法曹資格者を3倍にも6倍にもすることがです。
 現実には、理念的には合格してもらわなければならないカリキュラムのもとで合格できないのは、本来、学力が足りていないにもかかわらず、法科大学院の入試段階での選抜に失敗しているからです。
 本来、法科大学院のカリキュラムのもとで学び、そして、その結果、司法試験に合格できる者のみを入試で選抜しなければならないにもかかわらず(医学部を模範にするなら、そうなります。)、それができていないことは、何故なのか、ということこそ検証しなければならないのです。

 人材の育成がここまで簡単にできるものと思い込んでいたというのであれば、脳天気そのものであるし、医学部ですら学力低下が問題になり、理想的な国試の在り方から離れて行っているのに、教育の現状を知らないにもほどがあります。
 それだけ日本では人材不足が甚だしいということになるのですが、しかし、文科省は決して、そこから出発しようとはしません。
 構造改革により、より重点的な税金の投入という発想のもと、多くの「できない子」を切り捨てる政策を行い(後は低賃金労働者になればいいという政策です。)、「できる子」だけを優遇すれば足りるという露骨な政策を行った結果、全体の地盤沈下が起きているのですから、本来、法科大学院とか大学院とかではなく、小中高の教育の充実こそ求められているのです。
 人材育成の失敗を失敗と認めないで、ただひた走ろうとする姿は、構造改革の視点からも相容れない文科省の醜態であり、検討会議が法科大学院推進派で固められた人事のなせるわざです
 財界関係者の荻原委員のみが法曹人口拡大政策に異議を唱えているのも(一応、丸島委員も法曹人口激増政策には異を唱えていますが。)、経済的感覚からみれば、無駄が明らかだからです。

 それにしても検討会では議論が全くかみ合っていません。それぞれが言いたいことを言っているだけ。
 前掲Schulzeさんが指摘しているとおりです。 
 短期間で結論を出すことを前提にしているものだから、議事進行としては、万遍なく発言させておしまい、結論が見えているから、それでよいということなのでしょうが、これが国の施策を検討する公的な場なのですから、お寒い限りです。

 そういえば、先般、札幌弁護士会で法曹養成制度に関して徹底討論を司法改革推進本部で行いましたが、法科大学院制度推進派が議論を拒否し、それぞれの意見を聞きたいと言い出したことを思い出しました(但し、発言者の結論は、推進派の思惑とは全く逆の発言が多数でしたけれど。)。
法科大学院制度の是非 何故、推進派は議論を避けるのか。」
 議論を拒否するのは、レベルが低いことを自認しているようなものです。

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