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「まっとうに生きる」人々が世の中を変える 『トッカイ』原作者・清武英利氏インタビュー

BLOGOS編集部

WOWOWの開局30周年を記念し、バブル経済崩壊後に経営破綻した住宅金融専門会社(住専)の不良債権回収をテーマとして、本格社会派大作『連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~』(全12話)が本日17日夜10時から放送される。

巨額の税金投入に対して国民の怒りが高まった当時、中でも“怪商”“不動産王”と呼ばれた悪質債務者からの取り立てを担当したのが特別回収部(通称・トッカイ)だ。破綻した住専社員や銀行員、元警察官ら多彩な面々が集まったトッカイのリーダー役を伊藤英明が演じ、狡猾な悪質債務者から6兆7800億円ともいわれる不良債権回収を目指して奮闘する様子を描いている。

原作は、元読売新聞記者のノンフィクション作家・清武英利氏の『トッカイ 不良債権特別回収部』(講談社文庫)。長編のドラマとして映像化されることへの思いや、不良債権回収など過去の経済事案から学ぶべきことについて語ってもらった。


「まっとうでいたい」という堅い芯 ドラマから自分の中に見つけて

――『トッカイ』原作者として、視聴者にドラマを見て感じ取って欲しいことはありますか。

人間誰しも同じだと思うのですが、堅い芯のような部分があると思うのです。例えば、トッカイの面々もそうで、自分が窮地に陥ったり、追い込まれたりしたときに、自らの中に堅い芯があらわになることがある。それは、その人にとって非常に頼りになるものだったりするのです。

トッカイのメンバーにとってのそれは、いわば「まっとうでありたい」「パブリックでありたい」といった気持ちで、誰の心の中にも眠っているものだと思います。「時代が違えば、自分がトッカイの中にいたのかもしれない」ということを踏まえて観ることで、自分の中の堅い芯を見つけてもらいたいと願っています。

――整理回収機構、トッカイという組織、そして、それが生まれた背景であるバブル期を知らない世代も増えています。バブル期をどう見るべきでしょうか。

「昔は」と言ったら嫌がられるかもしれないけど、学生運動や社会運動が盛んで、よく「怒りを力に」と言われたものです。それなのに、現在の社会は政権の不祥事やそれに連なる理不尽な事件を見ても、怒りが持続しない。私は、怒りは力になると思うんです。ドラマを見ることによってそのことを思い出してもらえたらと考えています。

大人になると、その怒りも「まあ、いいじゃないか」となる人が多い。僕は、若い人にはそうあってほしくないのです。昔も「白ける」という言葉があったし、恥ずかしいことと捉える状況はありました。それでも、少なくとも今の政治をしっかり考えて、NOを突き付けたり、もしくは「世の中変わらないよ」と投げ出したりしないことで、世の中は変わると考えてもらいたいのです。相手によっては挫折することがあるかもしれないけど、人生は何とかなるし変えることもできるのだから。

――清武さんから見て、今の若い人はどのように映っていますか。

昔で言うところのノンポリ、ノンポリシーの人々が多くなったように感じます。その根っこには、ノンポリを多くさせる政治があったわけです。いくら言っても変わらず、知らんぷりして、先送りする。「お答えを控えます」と言う政治を見てきて、それで何とかなってしまっていることに絶望しているわけです。

今も、その長い絶望の間にいるのではないでしょうか。長い絶望はどこかで変えなくちゃいけないし、変える努力をしないと駄目です。しかも、それは変えられる。

銀行員に弁護士、警察官まで集まる組織 ドラマでの描かれ方に注目

――原作がドラマ化されることで、より若い人にも届くようになり、そうしたことを考える契機にもなりますね。

今回のコロナ禍でも、税金投入の愚かさが次々とあらわになっています。でも、それに対して本気で怒る人は多くはない。ドラマを見て、自分の両親やおじいちゃん、おばあちゃんが怒ったものとは何だったのかを知って欲しいのです。あるいは社会が6,850億円も投入されることにどうして怒ったのかを知ることが必要です。

このドラマの前にもWOWOWは、骨太な社会派“ドラマ”を作り続けているけど、常にまっとうな現実、リアルの世界を提示し続けている。それは、民放にはできないものだと思います。

――トッカイにはもともと住専の社員だった者も多く、巨額を融資したという自分自身の過去の行為の尻拭いの面もありました。そうした格好悪さの一方で、「国民のために」という理念も併せ持っていたのですね。

ドラマの中でどのように表現されるか今から楽しみなのですが、整理回収機構は何層もの人間によって出来上がっていました。

1層は、母体の銀行から送り込まれたいわゆる銀行員。2層目には、住専を中心とした破綻した金融機関から送り込まれた人々。さらに、3層目として、その後につぶれた全国で約180の金融機関から送り込まれた人々がいるわけです。環境が違うところから送り込まれたのだから、まさに「ごった煮」状態で、不良債権の回収を目指していく。

それだけじゃなくて、弁護士がいて、検察や警察の人間も加わる。そういう人たちと組んずほぐれつ、大変なるつぼの中で、人生を歩むわけです。たくさんの人生模様があって、僕も本にするときにどうまとめようかと苦労しました。WOWOWがどうやって3層、4層の人々を描いていくのか、楽しみで仕方がないのです。

――言ってみれば滅茶苦茶な構成の組織ですね。それも過去の話ではなく、今も活動を続けています。

すでに役目を果たしたと思っていたのですが、まだやっているという点に執念を感じました。時代によって価値観が変わるから、あまり正義、不正義とは言いたくないけど、「正義は持続だ」と言う人もいる。WOWOWが制作するドラマは、そこをうまいことすぱっと切りとってくれるでしょう。

この閉塞した時代の中で、「パブリックの心、まっとうな気持ちを見つけよう」と言っても非常に分かりづらいと思う。けれども、ドラマがどうそれを表現してくれるのか、ワクワクしますよ。


『トッカイ』で取り上げたような経済事案は今後も起こる

――今おっしゃっていただいた閉塞という言葉は、やはりコロナウイルスが影響しているのでしょうか。

それだけじゃないですよ。政治の世界では前からあったけど、どんな疑惑があっても「黙って答えなければ何とか通るだろう」というような世の中はおかしい。

諦めの気持ちを国民の中にまん延させ、それがコロナ禍によってさらに正当化されてしまう。今は、デモであったり、集まりを開いたりするようなこともできない。「みんなでこういうアピールをする!」といったことも難しい状況です。でも、このドラマを見るということも一つのアクションになってくれれば良いと僕は思う。

――これまで、自主廃業した山一証券に残り続け真相究明と清算業務を進めた社員を描いた『しんがり』、そして、外務省機密費流用事件をめぐる警視庁捜査2課の様子を描いた『石つぶて』でも経済事案を扱っています。過去の経済事案を振り返る意義はどんな点にありますか。

同じことを繰り返すからです。会社の破綻は次々に起きています。山一証券の破綻というのは、今後も起こり続けることなのです。そのときに、会社の最期を看取る人は必ず出てきますよね。

『石つぶて』では、中央省庁の腐敗と、それを追求する人々のことを描きました。いつでも権力は腐敗します。そのときに、捜査二課とか、東京地検とか捜査する人々の力が弱くなっていたら問題です。不正がそのまま放置され、汚職が見過ごされてしまう。これも過去のことではなく、今日的な課題ですよ。

警察にも検察にも根底には「不正を追及し続ける」という気持ちがあるから、逮捕権という武器を与えるのです。今回のトッカイに当てはめても、整理回収機構が追い求めた正義、要するに“回収の正義”は必ずや全うしてほしいのです。

©WOWOW

輝きを増した伊藤英明 ドラマを彩るキャストを原作者はこう見る

――ドラマでは、回収の正義側のリーダー役を伊藤英明さんが演じます。

伊藤英明さんは、愁いを帯びるようになって、さらに輝きが増していますよね。若い頃のすごく光り輝いていた時期から、ちょっと愁いを帯びて一皮むけたと言うのかな。もちろん、こんなに格好良い人は周りにいないけど。何て表現したら言いのか、現実離れしたスーパーマンから、現実社会の背広もよく似合ういい男になったという感じなのかな。

ドラマの一部を見せてもらいましたが、非常に強弱のついた演技を見せてくださっていました。演技論なんかを語るのは生意気だけれども、視聴者は「この人を理解したいな」と思うかどうかで、ドラマを観るかを決めるのではないでしょうか。伊藤さんは、まさにそう思わせてくれる俳優です。

――他にも、住管機構初代社長役に橋爪功さん、悪質債務者役にイッセー尾形さん、仲村トオルさんと、キャスト陣は個性あふれる方ばかりです。

僕はまだ、若松節朗監督とイッセー尾形さんしか会っていないけど、やっぱりイッセー尾形さんのこだわりはすごいですよ。役作りのために、プロデューサーを通じて、「そんなことまで聞くの!?」というところまで質問をしてくださる。名優、怪優と言われるだけあるなと思いましたよ。

――若松節朗監督に対してはどのような期待をされていますか。

若松さんは僕と同世代だけど、センスには非常に距離がある。あと、若松さんは人使いがすごくうまい。若松さんを見ていると、「監督さんというのはこうやって人を褒めるのか」って驚くんです。あんなに人を褒めて、その気にさせて、言葉を言わせる。アドリブを言わせる能力が高いと感じます。

©WOWOW

「公的に生きる」とは何か? 自分に照らし合わせる意味

――最後にドラマをご覧になる方に対してメッセージをいただければ。

あなたがその場面になったらどうしますか――ということかな。逃げるか、前に進むか、「奪り駒」(※)にあなたは飛び込むかということだと思う。僕は飛び込む人が好きですけど。

※=住管機構では、破綻した住専の社員を採用して債権回収に充てる人材活用手法が採られた。住専の社員を取られた“駒”に見立てたことから、「奪り駒」とも称されたという。

一人一人、本当に多彩な人生ドラマがあった。銀行を含めたら、関与したのは数千、いや万の単位かもしれない。それぞれの家族も入れたらもっと多くなるわけですよ。大変な戦場、金融の戦場を前にして、「あなたは奪り駒になりますか、どうしますか」ということだと思うんですよ。

もしかしたら、コロナ禍を脱したときに、バブルがまた再現されるかもしれない。どん底の後には、また絶頂が来るかもしれない。その時に備えて、自分の中に堅い芯のようなものを持っていてもらいたいと思うのです。幸せ、生きがいって何だろうとあれこれと考えることも重要です。

トッカイに登場する人たちは、激しく一時期燃える人たちです。彼らはもしかしたら生きがいを見つけて、幸せだったのかもしれない。「公的に生きる」ということもできていたのだから。自分自身が公になり、公のためになった人たちのドラマなのです。自分に照らし合わせて見るのは意味があることでしょう。

――清武さんがなぜ、過去の経済事案を追い続けるのか、そして、トッカイを観て考えるべきことが分かりました。ありがとうございました。

WOWOW開局30周年記念『連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~』は毎週日曜夜10時より放送中。全12話。WOWOWへの新規加入はこちらから


清武英利(きよたけ・ひでとし):1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、読売新聞社入社。警視庁、国税庁などを担当。読売巨人軍球団代表兼GMを経て退職、ノンフィクション作家に。『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞読者賞を受賞した。

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