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「福島第一原発事故」とは何だったのか

いよいよ各政党、各候補者がこの連休、“戦闘状態”に入った。全国あちこちで各党の党首や候補者たちの叫び声が響きわたっている。

多くの争点が浮上しているこの総選挙で、さらに絞れば、「消費税増税」「TPP」「原発」「外交政策」が四大争点なのだそうである。これらをめぐって史上最多の政党が乱立し、有権者の判断を仰ぐことになる。

そんな中、本日、拙著『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP研究所)が発売になった。「原発」に対するスタンスは、たしかに国民にとって投票を決定づける大きな要素である。

解散総選挙のまさにその時期と拙著の出版が重なったことに、私は運命的なものも感じている。10月には出したいと思っていたが、取材の継続やさまざまな事情によって出版が遅れに遅れ、この時期になってしまった。

本は、題名でもわかるように福島第一原発所長として事故の最前線で指揮を執った吉田昌郎氏とその部下たちを中心に、菅直人首相、班目春樹・原子力安全委員会委員長、自衛隊、政治家、官僚、地元の人々……等々、90名以上の実名証言をもとにノンフィクション作品として描かせてもらったものだ。

外国メディアによって“フクシマ・フィフティ”と呼ばれ、原発に残って事故の最前線で闘った人たちの実名証言は、言うまでもなく初めてである。

私が吉田前所長とお会いしたのは、今年の7月はじめのことだ。私は、吉田さんと会うために事故以来、1年以上にわたってさまざまなルートを通じてアプローチをつづけた。もちろん、東電広報部に取材申し込みもしたが、各報道機関や、さまざまなジャーナリストから取材申請が殺到していたので、全く何の音沙汰もなかった。

私は、吉田さんの生い立ちや学校時代の友人や恩師など、さまざまなアプローチをつづけ、10本以上のルートを探ったが、最後に吉田さん本人に辿りついたのは、意外な「ルート」だった。

協力者にご迷惑がかかるので、それについては触れないが、やっと事故後1年4か月を経て、私は吉田さんとお会いすることができた。昨年12月に福島第一原発所長から退く原因になった食道癌は、すでに今年2月に手術を終えていたが、痩(や)せて所長時代とはすっかり面(おも)変わりした姿に私は衝撃を受けた。

2度目の取材となった7月中旬には、すこし頬がふくらみ、体調が回復していることが私にもわかったが、それでも、所長時代の姿には程遠かった。そして、3度目の取材の直前に、吉田さんは脳内出血を起こし、ふたたび長期入院を余儀なくされたのである。

その後、2回の開頭手術、そしてカテーテル手術も1回おこなうなど、吉田さんは現在も厳しい病状と闘っている。しかし、私は吉田さんへの取材を端緒に、多くの部下たちに直接取材をおこなうことができた。

私が知りたかったのは、考えられうる最悪の事態の中で、現場がどう動き、何を感じ、どう闘ったのかという「人としての姿」だった。

あの全電源喪失、注水不能、線量増加、そして水素爆発……という絶望的な状況の中で、命をかけて原子炉建屋に突入していったのは、どんな人々なのか。また、どんな思いで死の恐怖を克服したのか。私はその「人としての姿」を知りたかったのである。

極限の場面では、人間は、強さと弱さを両方、曝け出す。日頃は目立たない人が土壇場で驚くような力を発揮したり、逆に普段は立派なことを口にする人間が、いざという時に情けない姿を露呈したりする。ぎりぎりの場面では、人間とは、もともと持ったその人の“本来の姿”がむき出しになるものだ。

私は、それぞれの人たちがさまざまな葛藤の末に、「家族」や「故郷」を背負って事故に立ち向かい、その中で、想像を超えたドラマが数多くあったことを、取材を通じて知った。

原子力安全委員会委員長だった班目春樹氏は、「あの時、日本は“三分割”されるところだった」と語ってくれた。すなわち、日本は、致命的な打撃を受けた「東北・関東」と、それ以外の「北海道」と「西日本」に三分割される、ということである。そして、吉田前所長本人は、事故の規模を「チェルノブイリ事故の10倍になる」というぎりぎりだったことを詳しく語ってくれた。

事故は、福島県とその周辺に大きな被害をもたらした。しかし、それでも「日本三分割」という最悪の事態になることは土壇場で阻止された。その闘いを展開した現場の人々の凄まじい執念と、制御不能に陥った時の原子力の怖さ――取材の間中、私はそのことを考えつづけた。

吉田さんは脳内出血で倒れる前、しみじみとこう語ってくれた。「もうだめだと思った時、私は、自分と一緒に“死んでくれる”部下たちの顔を思い浮かべました。頭の中では、死なしたらかわいそうだ、と思っているんですが、だけど、どうしようもねぇよな、と。一人一人、顔を思い浮かべて、それ以外の人間は、もうここ(福島第一原発)から出てもらおうと思ったんですよ」

それは、いよいよ2号機が「最期の時」を迎えようとした2011年3月15日明け方のことである。気迫と闘志で暴走しようとする原子炉と闘いつづけた吉田所長ら“フクシマ・フィフティ”たちの姿を想像しながら、私は、「首都東京」を含めた今の生活が彼らの「執念」と、事故の中で信じられないような幸運がもたらした「奇跡」によって成り立っていることを感じざるを得なかった。

大きな選挙の争点となった原発問題。あの事故の「真実」を一人でも多くの人に知って欲しいと思う。

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