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【赤木智弘の眼光紙背】マナーとは、内発的なもののはずでは?

赤木智弘の眼光紙背:第247回

 漫画家であり、最近は保守系の論者として知られる、さかもと未明が発表した『再生JALの心意気』というコラムが話題になっている。(*1)

 内容としては飛行機の中で泣き止まない赤ん坊にぶちきれ、親に説教を行ったさかもとが、「子供に合わせた眠剤を用いるべき」と、あるべきマナーや、防音室を作れない、航空法に基づく機体の構造問題をを論じ、航空会社はプライドをもって客を教育し、快適な空の旅を作り上げ、日本人の素晴らしさを発信して欲しいと提案するというもの。

 つまり、自分の不満に嬉々として日の丸を持ちだす保守イデオロギー臭プンプンの、「くそウゼー」としか表現しようのないコラムであり、僕もこのコラムを読んだ大半の人と同様に「泣き喚く子供ってのは、お前のことだろ!」という素直な感想をとりあえず記しておく。

 そんな素直なことだけ書いても面白くないので、すこし「マナー」という問題を切り出してみたい。

 そもそもさかもとの苛立ちの原因は、赤ちゃんの鳴き声そのものではなく、公共の場は静寂であるべきというマナーを守れない家族の存在である。もちろん、家族は赤ちゃんをあやすなど静寂に戻す努力をしていたが、残念ながらそれは実らなかった。その家族にさかもとは「赤ちゃんだから何でも許されるというわけではない」とヒステリックに言い捨てる。

 そしてその行為は、静寂を守らない家族に対する叱責である一方で、「赤ん坊は泣くものなのだから、騒がしくても我慢する」というマナーに対する違反でもある。だからこそ、そのマナー違反を指して、このコラムを批判している人は多い。

 つまりこのコラムとネットからの批判は、マナーが対立である。片方のマナーが片方を排除しようとしているのである。

 「マナー」という言葉は「ルール」という言葉の別称になってしまっている感がある。しかし、マナーとルールという言葉を本質的には同一のものではないはずだ。ルールというのは外から決められたものであり、マナーは内発的なものであると、僕は認識している。

 しかし、最近使われる「マナー」は、すっかり「ルール」になってしまっている。そしてそのマナーと呼ばれるルールさえ守っていれば、自分はマナーがしっかりしているという勘違いがあるような気がする。

 このところ僕は、スポーツバッグに荷物をパンパンに詰めて電車に乗る機会が多かった。空いている時ならいいのだが、当然ラッシュ時に遭遇せざるを得ないことも多かった。そういう時に、僕はできるだけ荷物を網棚に乗せるようにしていた。持っていても床に置いても、周りの人たちに迷惑になるからだ。しかし、ラッシュ時は、どうしても扉の近くまでしか移動できない。だから、周りに一声かけて角の網棚に荷物を乗せようと考える。しかしそこにサラリーマンの何も中身のないような、薄くて軽そうなカバンが乗せてあることが、あまりにも多いのだ。そうなると、もう大きなカバンを抱えるしかなくなってしまう。

 僕はそういう時にこそマナーが内側から発せられるべきだと思うのだ。つまり、カバンをどかす必要があることを自発的に気づいて欲しいと思うのだ。

 それは決して網棚の機構を薄くて軽いカバンを乗せられないように変更するものではない。そうではなく、今その場において、自分が取りうるべき最善の行動は何かということを認識するべきなのだ。

 よく「諸外国では誰かが困っていればみんなが積極的に助けてくれるけど、日本人は見て見ぬふりで冷たい」ということが言われる。それは確かによくある海外かぶれが日本を見下していい気になっている人たちのいいようなのかもしれないが、それでもルールとしてのマナーしか守れない日本人が、そうしたタイミングで動かないというのは、そのとおりなのだろう。ルールに規定されないとっさの時に動くという心づもりが最初からないからだ。

 その一方で、一度決められたマナーは声高に叫ばれることはないけれども、静かに深く私たちの行動を縛り付け、マナー違反者をじっと睨みつけて心密かに恨む。そうした人たちの中ではさかもとの行動はエキセントリックに見えるのだろうが、少なくとも「自分はこう考えている」という内発的な意識から行動を起こすことそのものは、より本来の「マナー」に近しかったのではないかと僕は思う。

 もちろん、その場で親を叱責したり、着陸準備中の機内を歩きまわるのは論外ではあるけれども、少なくともマナーの対立という構図においては、一方的にさかもとのマナー違反を叩くことはできないはずだと、僕は思う。

*1:再生JALの心意気(PHP研究所)http://shuchi.php.co.jp/article/1229

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