記事

川谷絵音が振り返る2020年の音楽シーン

3/3

川谷絵音の2020年を総括

―最後に、川谷さん自身の2020年について振り返っていただきたいと思います。

川谷:うーん……何もやってなかった記憶しかないんですよね。

―いやいやいやいや。

川谷:でもホント記憶がなくて、あんまりいつもと変わらなかった気もします。



―曲をたくさん作って出すことが、もうデフォルトになってるわけですよね。

川谷:でも、ゲスのアルバムは出たけど、インディゴはコロナの影響で遅れたので、例年よりは少ないんですよ。逆にライブがなかったんで、じっくり作ることができたっていうのはあるんですけど、ライブをやらなさすぎて、ライブ感を忘れてしまって、曲にもそれが表れちゃったというか。ライブをやりながらだったら、もうちょっと違うものになってたのかなとか、自分の中で思うところはありました。ちょっとバランスが崩れちゃったんで。でも最近はライブがちょっとずつ再開して、「こんな忙しかったっけ」みたいな。制作だけならいいんですけど、ライブやって、制作やって、取材入って、テレビ入ってとなると、ウワッてなっちゃうんですよね。12月は3日にインディゴ、6日にゲスのライブがあって、前日に泊まり込みでリハをして、今日が取材、明日が音楽バラエティー、その翌日がお笑い系のバラエティーの収録とか、意味不明じゃないですか?

―川谷さんでしかありえないスケジュールですね(笑)。インディゴやゲス、ジェニーハイなどの活動もありつつ、ここまでの話との関連で言うと、いろんなヴォーカリストを招くソロプロジェクト「美的計画」の動きは、サブスクの時代らしいものだと感じました。

川谷:ボカロPと歌い手みたいなのが増えたので、僕はちょっと違う感じの曲を作ろうっていう気持ちではいましたね。みんなどうしても邦ロック感が出ちゃうじゃないですか? 邦ロック感が拭えないものが多いけど、僕はそういうのは出したくなくて。一番最近出した「だからラブ」に関しては、参加してもらった相沢ちゃんと映秀。くんは若い子が聴いてる人たちですけど、曲調はビートが少なくてヒップホップっぽい感じで、でも歌はキャッチーにしたり。考える時間があったので、いろいろ考えました。

―美的計画はもともと時代感を意識してスタートさせたものだったのでしょうか?

川谷:いや、そこを考えるのはこれからですね。最初はとりあえず、声が魅力的な人に歌ってもらおう、くらいでしかなかったです。サブスクでウケるような曲を作ろうと思えば作れる気がしますけど、狙いに行くのも面白くないというか。「夏夜のマジック」みたいな曲がサブスクでウケがいいのはわかるけど、ここではあんまりやりたくない。美的計画は挑戦の場でもあるので、どんな位置に持って行こうかいろいろ考えた一年でした。やっぱり、誰に歌ってもらうかが大事なので、歌い手とかも含めて、今まで聴いてこなかったような人たちの歌も聴いたし、Twitterで探したりもしたので結構時間は使いましたね。コロナ期間には、TikTokで「#春の歌うま」チャレンジっていうのをやって、そこから相沢ちゃんを見つけたりもして。今って一般人とプロの差がもうないんで。

―レベルの高さを感じた?

川谷:めちゃくちゃレベル高いですね。相沢ちゃんより上手い人って、探してもあんまりいないと思う。

―プロの中でも?

川谷:そうですね。難しいコーラスでもパッと録ってすぐ送ってくれるんで。それってプロじゃないですか? プロよりもプロっていうか、プロの人の方がもっと手こずると思うんです。今の子たちって、みんな甘えがないんですよ。顔の見えないところで、パソコンで録って送るのが普通だから。でもプロの人たちは、意外と「現場に行けば何とかなる」とか「教えてもらおう」とか、そういう甘えが少しはあると思うんですよね。ネット出身の若い子はそれがまったくない。そういう意味でも、もうプロとアマの差はないなって思いました。途中で言った職業作家とかもそうで、いい曲を作る人にプロもアマもないと思うし。

―いわゆるデジタルネイティブの人たちは、歌でも演奏でも作曲でもレベルが高くて、そういう人たちとコラボすることの面白さはありますよね。

川谷:日本はコラボ文化があんまり浸透してなくて、コライトは特にないじゃないですか? そういうこともいろいろやってみたいと思って。だから、さっき言ったようにichikaくんたちと一緒にやり始めたりもしてるんですよね。あと、僕は歌詞を他の人に書いてもらったことが一回もないので、歌詞を分業にしたらどうなるのかなって思ったり。楽曲提供のときは編曲を全部投げることもあるんで、そういうのももっとやってみたいし。

―その流れで言うと、加藤ミリヤさんのトリビュートアルバム『INSPIRE』で、瑛人とyamaによる「Love Forever」のプロデュースを担当していますね。

川谷:あれは結構よかったと思うんですけどね。瑛人くん的にも新しい感じだったと思うし。これはカバーですけど、プロデュースをするときも基本的に(自分で)曲まで作るし、美的計画も僕が作るわけだから、今後は自分で曲を作るシンガーソングライターのプロデュースとかもしてみたいです。すでに完成してる人に対して、何かを与えるみたいな方がホントは得意なはずなので。そういうのも興味がありますね。

「僕はサブスクに合ってると思う」

―自身の楽曲のサブスクでの聴かれ方に関しては、どんな印象を持っていますか?

川谷:インディゴがめちゃくちゃ伸びましたね。Spotifyのパーセンテージを見ても、去年から200%以上伸びてるんで、もうリスナー数でも再生数でもゲスを超してる。

―「夏夜のマジック」の効果ということですよね。

川谷:そうです。それ以前はゲスの方が多かったんですけど、たった一曲、しかも昔出した曲(2015年)でリスナー数がここまで伸びるっていう。そういう意味で、僕はサブスクに合ってると思うんですよ。曲数が多いからいろんな入口があるんですよね。だから、どれからどれに派生するかわからない。サブスクの関連アーティストっていろんな人が出てきますけど、僕の場合は僕の関連ばっかりなんですよ。それは他の人にはあんまりない強みだと思う。細美(武士)さんがELLEGARDENとthe HIATUS、MONOEYESをやってるとかはありますけど、僕の場合はインストもあるし、バンドじゃないのもあるし、いろんな入口があるから何が起こってもおかしくない。だから、やっぱりサブスク向きだと思うんですよね。まだフィジカルの方が強い時代だったら、「ファンのお金がもたない」とか「どれかに集中しないと」みたいな話になると思うけど、サブスクなら月980円で全部聴けるわけだから。「いっぱいやっててよかったな」と今になって思います。


Photo by Yuuki Oohashi

―海外ではどの活動が一番聴かれてるんですか?

川谷:絶対数が多い分、インディゴだと思います。ただ、そこに関してはちょっと歯がゆいというか。アニメの主題歌をやった人には絶対勝てないんですよね。

―「海外で最も再生された国内アーティスト」のランキングを見ると、ほとんどがアニメ関連の楽曲ですよね。

川谷:そこに関してはどうしても納得がいかなくて。国内での人気と海外での人気がまったく違っちゃってるのは、どうなんだろうなと思っちゃうんですよね。

―途中の話で言うと、やはりシティポップには可能性があるとして、昔の楽曲のリバイバルではなく、現役のアーティストがいかにそれを打ち出せるかはひとつのポイントかもしれないですね。

川谷:マシン・ガン・ケリーの話もありましたけど、ああいうロックとヒップホップみたいに、シティポップと何か、みたいな組み合わせが大事なのかもなって。シティポップだけだったら、昔のものには絶対勝てないと思うので、シティポップと何か……その何かはまだわからないですけど、そこを上手く融合できた人が、もしかしたらアニメ以外の文脈から「海外で最も再生された国内アーティスト」になれるのかもしれない。

―川谷さん自身もそれは目指すところ?

川谷:やりたいとは思うんですけど、あんまり遠くを見ないようにしてる感じでもあって。狙ってしまうと大体人は失敗するものだし、自分が好きなものを作って、それが評価されたらいいなっていうのが一番です。なので、まずはバンドで納得できるものを作ることかなって。ただ、何かしらのビジョンを持つことは必要なので、その意味でも、「真夜中のドア/STAY WITH ME」が流行ってるのはいいことだなって。「2曲目だ」って思ったんですよね。

―「Plastic Love」が偶然のヒットではなくて、ちゃんと流れとして続くものであることがわかったわけですもんね。

川谷:僕は前から「シティポップしかない」って口酸っぱく言ってきたんで、「この流れが続くんだ」って思えたのは、何となく嬉しかったです。

●【関連記事】川谷絵音が選ぶ、2020年の10曲


indigo la End
『夜行秘密』
2021年2月17日発売
予約URL:https://indigolaend.lnk.to/yakohimitsu

あわせて読みたい

「音楽業界」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    菅首相発言に漂う日本崩壊の気配

    メディアゴン

  2. 2

    渡邉美樹氏 外食産業は崩壊危機

    わたなべ美樹

  3. 3

    電車止めない政府 危機感の甘さ

    諌山裕

  4. 4

    印象論で政権批判 NEWS23に苦言

    和田政宗

  5. 5

    青学・原監督の改革を学連は黙殺

    文春オンライン

  6. 6

    母親が米議会乱入「地に堕ちた」

    Rolling Stone Japan

  7. 7

    なぜ日本経済は低成長に喘ぐのか

    澤上篤人

  8. 8

    大戸屋TOBは企業「乗っ取り」か

    大関暁夫

  9. 9

    尾身会長が求めるリーダーの姿勢

    BLOGOS しらべる部

  10. 10

    諸行無常なオタ活に感じる輝き

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。