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ときに家族が重荷になる社会はどこかおかしい -「賢人論。」129回(後編)宇野重規氏

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今年話題の新書『民主主義とは何か』の著者である宇野重規氏(政治学者・東京大学社会科学研究所教授)。同氏は日常的な教育・研究活動の合間に、政治哲学関連の多くの著書を刊行している“政治学の語り部”としても知られている。日本の少子超高齢化社会における国家が果たす役割は何か。国民が持つべき「当事者意識」と、ご自身の介護体験について併せて話を伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/荻山拓也

公助と共助から安心して自助ができるようになる

みんなの介護 日本が健全な民主主義を取り戻すために、国民はもっと声を上げるべきだと伺いました。国民が声を上げることで、日本の政治と民主主義は本当に変わるのでしょうか。

宇野 国民が政治に対してさまざまな要望を突きつけた場合、政治がそれにまったく応えようとしなければ、国民の側でさらなる政治不信を引き起こす恐れはあります。「自分たちが何を言っても政治が変わらない」と国民の多くが諦めてしまえば、民主主義の危機はさらに深まるでしょう。今の若者たちに「現状肯定派」が多いと言われるのも、実際のところは政治に対して諦観しているだけなのかもしれない。

しかし、政治を動かすためのやりようはあります。例えば社会起業家の駒崎弘樹さんのように、「病児保育」という新しい福祉サービスを自ら立ち上げ、それを政治に後追いさせればいい。国民がまず動くことで政治が動くこともあるのです。

みんなの介護 なるほど。「自助」の仕組みを考えるところから始めて、それを「共助」「公助」へと広げていけばいいのですね。

宇野 そういう言い方もできるかもしれませんね。ただし、本来のあるべき姿は、順序が逆でしょう。菅総理は所信表明演説で、自身の目指す社会像として「自助・共助・公助」を掲げました。しかし私は、社会的に弱い立場の人を基準に考えれば、まず最初に公助があるべきだと考えます。立場の弱い人が「まず自分でやってみろ」といわれても途方に暮れるだけ。そういう人は、公助や共助があってはじめて、安心して自助ができるようになるのです。

国民は政治の「お客さん」ではなく、「当事者」である

宇野 グローバル資本主義が台頭してきた頃、「これで国家の役割は終わった。あとは市場経済に舵取りを任せればいい」といった意見をよく耳にしました。しかし今となっては、その意見は明らかに誤りだとわかります。市場経済を人々が過信したからこそ、リーマン・ショックをはじめとする経済危機が発生しました。先進国で所得格差による国民の分断が起きたのです。つまり、すべてを市場原理に委ねるのではなく、修正が必要であれば国家が動くべき。特に今回、世界は新型コロナの脅威を経験して、国家の役割の大切さに改めて気づいたはずです。国民が政治に働きかけるという意味では、やはり国政選挙への投票行動が重要です。

みんなの介護 どの政党のどの議員に投票するかは、しばしば購買活動にたとえられますね。自分の好みの商品はどれなのか、と。

宇野 ショッピングの場合、欲しい商品がなければ、「何も買わない」という選択ができます。しかし選挙の場合、「買わない=投票に行かない」という選択はNG。自分が投票に行かなければ、政治がますます自分の望まない方向に行ってしまう可能性が高まります。商品を買うのは消費者の義務ではありませんが、投票を通じて「こういう未来にしたい」と意思を示すこと、意思を示すために労力を払うことは国民の義務だと思います。つまり、国民は政治の「お客さん」ではなく、政治の「当事者」。国民一人ひとりが自分事として政治に参加するシステムこそが民主主義なのです。

日本の人口が5,000万人にまで減少したとしても悲観する必要はない

みんなの介護 新型コロナウイルスの問題だけでなく、今後さらに加速すると思われる日本の少子超高齢化も喫緊の課題。私たちはどのように対処していけばいいとお考えですか。

宇野 福祉については専門外なので、一市民としての意見になりますが、私自身は日本の人口減少について、それほど悲観していません。

もちろん、わが国は財政面で厳しい状況を迎えるだろうし、多くの自治体が消滅したり、機能不全に陥ることも考えられます。医療や介護の現場が持ちこたえられるのかどうかも気になるところです。しかし、人口が減ること自体は、そんなに悪いことではないように思えます。

日本の総人口は、これから急速に減少していくでしょう。一部の推計では、「人口9,000万人を維持する」となっているようですが、それはおそらく難しいでしょう。2100年には5,000万人を切っているかもしれないし、明治10年頃の約3,600万人にまで減っているかもしれません。人口が減れば当然GDPも縮小し、もはや経済大国ではなくなっている可能性が高い。とはいえ、「人口が少ないこと=不幸なこと」ではない。1人あたりGDPをある程度のレベルで維持することはできますし、その時代に生きている日本人一人ひとりが納得のいく人生を歩んでいければ、それで良いのではないでしょうか。

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