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自民党:選挙公約分析 観光政策編

さる11月21日に、自民党より来るべき衆院選の選挙公約(案)が発表されました。勿論、いち選挙民としては全体を通読すべでしょうが、ひとまずブログ上でご紹介する分析としては私の専門の観光政策のみに焦点を当ててみたいと思います。(他の分野は各専門家の方にお任せします)

以下、2009年の衆院選、2010年参院選、そして来月予定されている2012年衆院選の各選挙公約における、観光政策部分の抜粋です。


【2009年衆院選】(総裁:麻生太郎)
2020年 訪日外国人2000万人達成・観光立国実現

【2010年参院選】(総裁:谷垣禎一)
観光立国の実現
ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化や入国審査の円滑化により「観光立国」を実現します。また、無電柱化の集中実施や景観に配慮したまちづくりなどによる魅力ある観光地の整備、休暇の取得・分散化、観光産業の育成により、観光を通じた地域活性化を進めます。旅館・ホテル等のNHK受信料の大口契約について検討を進めます。

【2012年衆院選】(総裁:安倍晋三)
観光産業の再建・強化
東日本大震災以後、風評被害や訪日外国人の激減等により大打撃を受けた被災地を中心とする日本全国の観光地やわが国の観光産業を再建・強化するために官民を挙げて国が主導的に全力で取り組みます。官民協働して国内旅行の気運醸成に取り組むとともに、ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化や査証(ビザ)発給手続きの円滑化・入国審査の迅速化、双方向の国際観光交流の促進、国際会議等の誘致・開催の推進により「観光立国」を実現します。また、休暇を取得しやすくするとともに、無電柱化の集中実施や景観に配慮したまちづくりなどによる魅力ある観光地の整備と観光産業の育成により、観光を通じた地域活性化を進めます。また、高速ツアーバスに係る事故の再発防止・利用者の信頼回復に努めます。旅館・ホテル等のNHK受信料の大口契約について検討を進めます。



自民党は、2003年の小泉政権時代に「観光立国推進基本法」という法律を定め、その後、積極的な観光推進政策を進めてきました。当時の計画では「2010年までに訪日外国人旅行者を1000万人」という数値目標を掲げ、選挙公約にも掲げていました。そして、自民党政権の崩壊となった2009年衆院選での公約では、小泉政権時代の観光立国計画をさらに発展させた形で、2020年までに2000万人という数値目標を掲げて選挙を戦いました。

その後、自民党は政権から転落するわけですが、それをキッカケとして少し観光政策に関連する公約のニュアンスが変わってきます。最も大きな変化が、2010年野党として始めて戦った参院選では、それまでの選挙戦で必ず挙げていた数値目標を外したこと。まぁ、これには政権政党でなくなったことと、それまで選挙で掲げてきた数値目標の達成率が非常に悪かったことがあると考えられます。(実は、小泉政権時代に掲げられてきた「2010年までに1000万人」という達成目標は、あまり芳しい途中経過が出ていませんでした)

そのように数値目標が外された一方で、充実してきたのが観光立国実現のための具体的政策。2009年の衆院選では政策の具体的な中身を指定しないままに達成目標となる数字を挙げていたのに対し、2010年の参院選マニフェストでは「無電柱化の集中実施」など、かなり具体的な施策に踏み込んでいます。

そして肝心の今年の衆院選のマニフェストですが、前回参院選と同様に数値目標は挙げられていません。一方で、政策の中身に関しては、2010年参院選の公約からほぼ全部を引き継ぎ、それに加えて新しく幾つかの項目が挙げられています。以下、「以前より引き継いだ政策」と「新しく加えられた政策」に分けてリスト化します。


【引き継いだもの】
・ ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化
・ 入国審査の円滑化
・ 無電柱化の集中実施
・ 景観に配慮したまちづくり
・ 休暇の取得・分散化、
・ 旅館・ホテル等のNHK受信料の大口契約について検討

【新しく加わったもの】
・ 査証(ビザ)発給手続きの円滑化
・ 双方向の国際観光交流の促進
・ 国際会議等の誘致・開催の推進
・ 高速ツアーバスに係る事故の再発防止・利用者の信頼回復



特に新しく加えられた項目が「安倍自民党」としてのカラーとなるのでしょうが、目新しいのが「双方向の国際観光交流の促進」という項目でしょうか。国際観光政策というと、どちらかと言うと海外から観光客を呼び寄せる「迎客」政策に焦点が集まるのですが、安倍自民党では「双方向」、すなわち海外旅行に日本人を送り出す「送客」にも焦点が当てられた政策となるようです。

また、もう一つ加えられた大きな項目が「国際会議等の誘致・開催の推進」。まぁ、これはどちらかと言うとここ3年間で行なわれた民主党下での政策を引き継ぐという意思表示とも言えますかね。民主党政権では、2010年を「MICE*元年」と定め、国際会議等の誘致・開催を推進してきました。また、私の専門的に言えばカジノ合法化とIR**の導入は、このMICE振興のレトリックの中で語られることが多いので、名言はなされていないものの、これが公約に加わったことで「半歩前進」といったところでしょうか。

ただ、惜しむらくはこれら観光政策が「経済成長戦略」の中ではなく「地域再生」の枠の中で扱われていること。アジア圏における観光産業の成長性は、どうしても人口の多い中国に依存しているところがありますから、外交的に対中強硬路線の安倍自民党にとっては、経済成長の原資とまでは挙げられないのでしょう。その点、非常に残念ではありますが、それが「安倍カラー」では有りますから致し方がない部分もあります。

*)MICE: Meeting(会合)、Incentive(報奨旅行)、Convention(国際会議)、Expo(展示会)の頭文字を組み合わせた造語。
**)IR: Integrated Resort(統合型リゾートの略)カジノを中心に各種観光商業施設を複合化させたリゾート施設

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