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菅野智之の巨人残留は「正しい決断」だったのか - 新田日明 (スポーツライター)

大方の予想とは違う結論になったようだ。巨人のエース・菅野智之投手が今季もチームに残留することになった。ポスティングシステムを申請し、メジャーリーグ移籍を視野に入れていたものの複数球団との交渉を重ねながら契約は不成立。獲得に名乗りを上げていた球団の提示内容と菅野側が望んでいた条件はどうやらかけ離れていた模様で結局、歩み寄りのないまま7日の交渉期限を迎えた。

(Tatomm/gettyimages)

元日に代理人のジョエル・ウルフ氏とミーティングを重ねるため、渡米したことで菅野にMLB移籍の意思がいよいよ固まったとみる向きは世の中でも明らかに多かった。米の主要メディアも当初はメジャーの複数球団が複数年で年俸10億円以上の提示額を用意し、菅野争奪戦がぼっ発するという大胆な予想を展開させていたが、いざふたを開けてみると思いのほか〝市場の反応〟は鈍かった。

米スポーツ専門局「ESPN」などの報道によれば、菅野側は2019年1月に菊池雄星投手がシアトル・マリナーズと結んだ4年総額5600万ドル(約58億2000万円)以上という希望条件を頑なに押し通していたという。これが正確な要求額かどうかは不透明とはいえ、菅野の代理人がメディアに明かした証言と照らし合わせてみても双方の思い描く契約条件が乖離していたことは間違いない。

水面下で交渉期限ぎりぎりまで粘っていたアナハイム・エンゼルスをはじめ、トロント・ブルージェイズ、サンディエゴ・パドレス、ボストン・レッドソックス、ニューヨーク・メッツ、テキサス・レンジャーズの6球団が菅野獲得に興味を示していたとみられている。しかし今オフ、MLBの各球団は新型コロナウイルスの感染拡大によって経営的に大打撃を受けていることもあって緊縮財政を強いられており、他の大物FA選手も大半は契約が未だ宙に浮いた状態。サイ・ヤング賞に昨季輝いたトレバー・バウアー投手(シンシナティ・レッズからFA)、そして7年間NYで先発ローテの柱となった田中将大投手(ニューヨーク・ヤンキースからFA)ですらも去就は今のところ未定だ。

確かに菅野は昨季開幕戦から13連勝の日本記録を作り、これまでも2度の沢村賞に輝いたことで「〝日本のサイ・ヤング賞〟に複数回輝いた侍ジャパンのエース格」と評されるなど海の向こうでもストーブリーグにおいて話題の投手となっていた。だがシビアな見方をすれば、メジャー経験はゼロの投手である。

さすがにこのコロナ禍のご時世において、比較的にまだ売り手市場だった2年前の平時に当時27歳の左腕・菊池がマリナーズと結んだ大型契約以上の好条件をスタンダードにしながら強気の交渉を繰り返し、好条件を引き出そうとした交渉戦術にはいくら代理人主導と言ってもやっぱりムリがあったような気がしてならない。ましてや、その菊池がマリナーズとの契約後に条件に見合うだけの活躍をここまで残せていないこともMLB各球団が日本人投手との超大型契約に慎重にならざるを得ない要因を招いている。

ちなみにその菊池に比べ、今オフの菅野はメジャー移籍が実現していれば4年遅れとなる31歳のチャレンジだった。コロナ禍で緊縮財政となっていることを差し引いても、MLB各球団はいくら日本を代表する輝かしい経歴を誇るとはいえ、31歳の右腕に対して〝若い左腕投手〟というメリットを持つ菊池と同等の価値を見出すのはなかなか難しい。MLBは日本が考えている以上に契約する選手の年齢に対しては神経を配り、経験値が伴っていなければ加齢についてマイナスポイントととらえる傾向がある。今の菅野にとっては年齢も少なからずネックとなっているようだ。

現時点で日米の報道は錯そうしているが、菅野と巨人との新たな契約内容は毎オフにオプトアウト権付きの4年総額4000万ドル(約41億6000万円)、あるいは単年で8億円以上などともささやかれている。ちなみに昨年の菅野の年俸はNPB球団所属の日本人最高年俸となる推定6億5000万円であることから、さらに大きく上積みされることになりそうだ。

菅野側にとっては天秤にかけてみて巨人側の契約内容のほうがMLB球団の提示内容よりも断然上でオイシイ額、好条件だったということなのだろうか。いずれにせよ、巨人側との再契約の条件が複数年であっても菅野が望めば毎オフ、オプトアウト権行使でメジャーに再挑戦することは可能だ。

来オフならば、今季中に取得する海外FA権を行使することができる。そうなるとポスティングシステムの場合は契約成立となったMLB球団が巨人側に支払わなければならなかった譲渡金そのものが不要になるため、余剰な費用が大幅に削減される。来オフにあらためて菅野の獲得へ再び乗り出すMLB球団がそれなりにあるとみる関係者も少なくない。

しかしながら、その見立ては必ずしも正しいと言い切れないところもあるようだ。

「菅野がどうしても欲しい球団ならば、コロナショックにさいなまれていようが、今オフの時点で補強資金をつぎ込んで全力で落着点を見出し、獲得へ心血を注いでいたはず。ところが結局、そのような球団は現れなかった。いくら来オフ、海外FA権行使でポスティングの譲渡金が不要な形になっても、それを菅野獲得資金の充当に回すような短絡的なマネをする球団は皆無だろう。つまり来オフも彼は条件面でせいぜい良くて今オフと同等の評価に終わるか、加齢によって逆に今オフよりも条件を下げられてしまう公算のほうが強い。獲得に名乗りを上げる球団も限定的になるだろう」(ア・リーグ球団スカウト)

菅野独特の個性

現時点で本当に菅野自身が是が非でもメジャーに行きたいのであれば、たとえ交渉相手の球団が提示した条件等に「100%満足できるような形」にならなかったとしても今オフ、ポスティングを成立させて移籍を実現させていたように思う。それが成し得なかった今、菅野には世間の多くから「とどのつまり、カネなのか」という厳しい目も向けられている。「メジャーに行く決意ができていなかったのならば、最初からポスティングなんてわざわざ申請する必要はなかったのではないか」と首をかしげる球界関係者も1人や2人ではない。

もし今オフ、移籍を決めていれば、ポスティング成立の譲渡金によって巨人側に多少の恩返しもできていたはず。しかし、それも〝反故〟とした上で来オフに今度はFA権行使によって球団にビタ一文も入らない状況となる中でも、再び夢を追う可能性があることを菅野本人は示唆している。こうした諸々の流れから「男を下げた」とバッシングも向けられているが、おそらく当人は柳に風であろう。

ポスティング申請しながらもMLBではなく巨人への残留をチョイスするあたりには世間の反応は一切気にせず、中途半端な気持ちで己の信念を曲げたくないという菅野独特の個性を感じ取ることもできる。100%満足できる形でなければ行かない――その姿勢は思い起こせば、2011年に日本ハムからのドラフト1位指名を拒否し、世間から批判されても1年流人してまで巨人入りを貫いた「自在不羈(じざいふき)」の生き方が垣間見える。 

いずれにせよ2021年、巨人のエース・菅野にはシーズン、そしてオフと厳しい戦いが予想される。どうやって乗り越えていくのか。自らが選択した道のりの行く末に注目が集まる。

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