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報じられない「火力発電頼み」の限界(2) - 夏目幸明(ジャーナリスト)

◆早期発見が最善策◆


 関西電力海南火力発電所でも、同様の事態が起きた。9月5日の14時ごろ、辻所長は異変に気付く。

 「各機がどれくらいの出力で運転しているかは、つねに計器に表示されています。そのなかでも、2号機の出力が急上昇、急下降を繰り返すようになったのです」

 中央制御室に駆けつけると、「火が出ている」という。辻所長はすぐに「運転継続不可能」と判断。消火の指示を出すとともに、ハンドオフの指示を出した。手動で発電を停止する、という意味だ。現場に行くと、ゴムが焼けるような異臭がし、端子箱の一部からスッと立ちのぼるようにひと筋の煙が出ていた。すぐに消火の指示を出し、火は消し止められた。

 トラブルの場合は、なにより発電所長の判断が最優先される。当日、もし関西電力管内で電力需要がギリギリであったら、関西圏は大停電に見舞われていたかもしれない。そして14時19分、運転停止。ハンドオフによりバルブがすべて遮断されると、一度にボイラー内の火が消えた。一瞬の静寂があったという。その後、機器類をいっせいに点検すると、原因は、電流検出器の不調とわかった。

 「端子が接続不良により加熱され、煙が出ていたのです」

 部品に替えがあったので、9月19日には復旧させることができた。そう、日本の電力会社は震災後もいまに至るまで大停電を起こすことなく電力を安定供給してきたが、その実態は“トラブルがない”ではなかった。トラブルが発生しても、その日はたまたま供給力に余裕があったから、大停電には至らなかっただけなのだ。

 ならば、トラブルがいっさい発生しないようにはできないのか。中部電力・渥美火力の安藤所長が話す。

 「人的エラーは、極力起きないようにしています。たとえば、制御盤のボタン一つでさえ、自分一人で押してはいけないことになっています。必ず、後ろに人がいる状態で指差し確認し、また作業内容を口頭で確認し合って、手順などに誤りがないか慎重に判断したうえで、操作を行なっています。しかし、発電所の機械や計器類は長く使っていると、どうしても消耗していきます」

 先の例のように、長期停止や事故につながる事態に陥る前に、トラブルを発見することが最善策なのだ。

 関西電力海南発電所の辻所長も同様のことを話し、話を継いだ。

 「火力発電所にも、自動車の車検と同じように定期点検があります。しかし現在は、特例でその定期点検すらせず、運転を継続している状態なのです」

 そして、彼は資料を取り出した。「海南発電所のトラブル件数内訳」というものだ。震災前の2010年はトラブルが7件。すべて復旧までに1日以上かかっている。2011年は12件。今年は9月末までに16件。件数は確実に増えている。

 「しかし、復旧までに1日以上かかるトラブルの件数は、3件と減っています。これは、トラブルが起きた場合、すぐ復旧できるよう24時間の復旧体制を構築、かつ、事前に替えの部品を用意しておくなどして、実現できているものなのです」

 なぜ、老朽火力を再稼働する必要があるのか、といった疑問もあるだろう。しかし一般的に、用地の取得なども加えると、発電所は計画から運転開始までに10年近くの年月を必要とする。そこで関西電力も中部電力も、電力危機がないかぎりは動かすことはないはずだった古い発電機を修理し、動かしているものもあるのだ。

◆いまこそ、発電への知識を◆


 しかし、こうした火力発電所の事情はほとんど報じられることがない。逆に共同通信は、9月1日に以下のような記事を掲載した。

 「関西電力管内でこの夏(7~8月)の最大電力需要となった8月3日は、大飯原発3、4号機が再稼働していなくても、他の電力会社から融通すれば十分に供給できたことが、共同通信の分析で31日、わかった」

 「関電によると、最大需要は8月3日の2,682万。この日の供給力は、大飯原発3、4号機の計237万を含む計2,991万だった。供給が需要を309万上回っていた」

 しかし、その「上回った」という電力供給の実態とは、定期点検もせず、かつ老朽化した発電所を修理して動かすなど、かき集めるようにして発電した結果によるものだった。

 ちなみに、電力はつねに10%程度の余裕がなければ、適正ではないといわれる。電力の供給が需要に対して101%程度になると周波数が乱れ始め、需要が供給を大幅に上回ると、広域的な停電に襲われる可能性もある。

 関西電力で最大需要であった8月3日の2,682万に10%の余裕をもたせると、適正な電力量は約2,950万となる。一方、この日の関西電力の供給力は2,991万。約40万の余裕しかなかった。そして9月5日に停止した海南発電所2号機の出力は45万である。しかしこの記事では、「中部電力以西の電力5社への取材で、この日の供給余力が計約670万あったことが判明。(大飯原発の)2基が稼働していなくても、供給力に問題ない状況だった」とし「大飯原発を止めて需給検証を」と締めくくっている。

 筆者は、新しい電源として再生可能エネルギーの利用を大いに進めるべきと考える。しかし、国や会社の「構造改革」には時間がかかるように、電力もまた同様だ。1年前まで原子力に依存していたものを、すぐに火力や再生可能エネルギーに置き換えるなど不可能だ。

 たとえていえば、電車をすべて廃止にし、バスや自転車に置き換えるとしたら、どれだけの時間がかかるだろう。

 経済的な視点も無視してよいものではない。原発を火力に置き換えることにより、多くの試算が「年に3兆円程度の国富が海外へ流出している」としている。消費税を1%上げると、国の税収は約2.5兆円増えるという。3兆円という金額の大きさがわかるというものだ。

 筆者は、再生可能エネルギーへの転換を進めるなら、大停電への不安や経済的な打撃に襲われないよう、長い歳月をかけて、計画的に行なうべきと考える。同時に、われわれ国民を無意味に煽る一方的な報道にも「NO」と言いたい。たとえば、ミュージシャンの坂本龍一氏は、大飯原発再稼働に反対したが、その一方で、今年、電気自動車のCMにも出演している。しかし、その電力は、一発電所だけで十数万台もの自動車を動かせるほどの石油を焚いて生まれているものだ。電気自動車=エコの図式は、原発ありきのものなのだ。

 筆者は坂本氏の音楽の才能を尊敬し、彼の良心を疑わない。しかし、発電システムへの理解は足りないと感じる。

 最後に、今回取材した火力発電所所長の言葉を紹介したい。まずは渥美の安藤氏だ。

「私は、一発電所の所長なので、トラブルが極力起きず、今後も電力を安定供給できるよう、万全の体制を敷いていくのみです」

 そして海南の辻氏がいう。

「たとえ24時間体制で働くことになっても、いまはわれわれが踏ん張るときですから」

 筆者は、これらの人物に「氏ね」「ペテン」といった言葉が投げかけられることも是としない。

■ 夏目幸明(なつめ・ゆきあき) ジャーナリスト
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に入社。その後、雑誌記者に。小学館『DIME』の「ヒット商品開発秘話 UN.DON.COM」や講談社『週刊現代』の「社長の風景」などを連載。 著書に『ニッポン「もの物語」』(講談社)などがある。

『Voice』2012年12月号 リンク先を見る

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