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グローバル時代の「カタカナ語」

『三四郎』の最後は、主人公が美禰子をモデルとした絵の前で「迷羊、迷羊」と口の中で繰り返すシーンで終わるのだが、この「迷羊」にはストレイ・シープという送り仮名が振られている。

夏目漱石の時代に制定された旧日本国憲法は、漢字とカタカナで書かれていたが、現在の日本国憲法は、漢字と平仮名だ。 カタカナの変わりに平仮名を用いたことは、民主主義の時代に変わったということの象徴に見える。

「和語や漢語」を「平仮名と漢字」で表し、カタカナは外国語や擬音語・擬態語などの一部の言葉にあてる、というルールは、戦後に固まってきたのだろう。

明治維新の前後、当時の先進国である西洋諸国から、医学や科学の知識とともに取り入れた用語には漢字で表される日本語が対応している。

大学の授業で「<細胞>も<小胞体>も<染色体>も<遺伝子>も、中国語として先にあったのではなく、日本人が訳語として漢字を利用して新しく創造したのです」と話すと、中国人留学生が「信じられない!」と不服そうな顔をするが、このことは案外、知られていないことかもしれない。

例えば顕微鏡観察により発見されたコルクの断面の小さな区画に、もともとは「独房、小部屋」を表す「cell」をいう語があてられ、当時の日本人はその意見をじっくり考えて「細かい」「ふくろ<胞>」という言葉を編み出した。

そうやって、逐一、新しい日本語を創っていく作業そのものが、日本における近代化、西洋化のプロセスだったのだ。思えば、日本は他国の文化・文明を、悪く言えば見境なく、よく言えば柔軟に受け入れる国民性があり、その参照先は、それぞれの時代に変わってきた。

明治時代頃までは、学者といわれる人たちが、ゆっくり訳語を考える時間があったのだが、今は、生命科学分野でも、ゲノム、エピジェネティクス、トランスポゾンなど、もう、訳語でなくて「そのままカタカナで行っちゃいましょう!」的な時代になってきた。

おそらく、もっと著しいのは情報科学分野ではないかと思う。コンピュータのマニュアルを読むとカタカナが氾濫していて、私には日本語として意味が理解できないことが多い(苦笑)。

何より、それは日本語として美しくない。

だが、もし、現代のように世界中で物事の変化が速いときに、新しい用語をいちいち日本語に訳している暇が無いのだとしたら、その表記の仕方について、もう少し配慮をすべきなのではないだろうか?

おそらく、英語(などの原語)とそのカタカナ語の間にスムーズな参照が為されることが重要であるのだが、現在の日本語のカタカナ表記は、この時代の変化に対応できていない。

一例を挙げよう。

「東北メディカル・メガバンク機構では、ゲノムメディカルリサーチコーディネータを募集します。」

これは、英語で書けばgenome medical research coordinatorsなのだが、普通の方々がこの長いカタカナ語を見て、どこで区切るのかがすぐわかるかどうか。

では、元々の単語の区切りに「・」を入れて「ゲノム・メディカル・リサーチ・コーディネータ」とすればよいかというと、これはこれで長くなりすぎる。

最近、自分で書く文章の中のカタカナ語は、なるべく「・」を入れるようにしているのだが、確かに目立ちすぎという感じが否めない。

また、普通の「・」の使い方は「and」に相当するような「並立」の意味があるので、単に単語を区切りたいという意図とは異なる印象を与える可能性もある。
もう一つの大事な問題は、日本語の音は必ずしも他の原語の音に対応していないので、それをどのように表記するのが適切か、ということだ。

メディカルの「ル」は「l(エル)」の発音で、「リサーチ」の「ル」は「r(アール)」の音である。

あるいは、カタカナの「シンクタンク」は日本語の発音どおりであれば「sink tank」であって沈んでしまう!!!

かろうじて、私の好きな「ヴーヴ・クリコ」などは「v」の発音がわかる表記の仕方があり、これを「ブーブ・クリコ」と書かれたら美味しくなさそうに思うが(笑)、世の中では必ずしも浸透してはいない。

地元のFMで「ほーぷほーみやぎ」というキャンペーンを聞くと、一瞬、元の意味「Hope for Miyagi」が出てこない。

グローバル化に対応するために小学校から英語を教える、そのことも大事だが、私は日本語以外の言葉をカタカナ表記する際に、例えば少なくとも以下のようなルールにすることを提案したい。

・原語の単語の区切りに相当する部分には「半角スペース」を入れる
・「l」の音に相当する場合は「ラ* リ* ル* レ* ロ*」と表記する
・「th」の音に相当する場合は「サ* シ* ス* セ* ソ*」と表記する
・「f」の音に相当する場合は「ファ フィ フ* フェ フォ」と表記する
・「v」の音に相当する場合は「ヴァ ヴィ ヴ ヴェ ヴォ」と表記するv

これでも足りないところは多々あり、「メール*」よりは「メィル*」の方がベターだろうし、「ウェブ」もアクセントの位置が「ブ」であってはならないのだけど、とにかく、カタカナ語の表記を変えるだけでも、日本人にとっての英語の垣根が少し低くなるのではないだろうか?

グローバル時代に求められるのは、こういう小さな変革の積み重ねだと思う。

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