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二度のゼロ金利解除と安倍総裁

NHKニュースによると「自民党の安倍総裁は、記者会見で、日銀による建設国債の引き受けなどを検討するとしたみずからの発言に、政府内から批判が相次いでいることについて、「『日銀が直接買い受ける』とは言っていない」と述べ、財政規律の観点からの懸念は当たらないという認識を示しました。」とある(NHKのサイトより)。

 NHKは安倍総裁の発言内容をそのまま記載したとみられるが、「買い受ける」という用語はこれまで聞いたことがない。「引き受ける」と言うつもりが、「買い取り」と言う言葉が交じり、「買い受ける」という新語が登場したものとみられる。

 「自民党の安倍総裁は、先週の講演で、政権に復帰した際に、公共事業の財源に充てるために発行される建設国債を、日銀に引き受けさせることを検討する考えを示しましたが」とNHKも示していたが、安倍総裁の先日の熊本市内で講演では、「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていく」と述べており、直接引受(直接買い受け?)との表現はないが、それを意味していたと見ておかしくはない。

 安倍総裁は昔から日銀に対しては批判的であったようで、2000年8月の日銀によるゼロ金利解除のときの官房長官は中川秀直氏であったが、副官房長官は安倍氏であった。当時の政府と日銀との間で激しいやり取りがあったであろうことは想像に難くない。

 さらに2006年7月にも日銀はゼロ金利政策を解除している。このときの官房長官が安倍氏であった。この際に下記のような記事があった。

 「ゼロ金利解除については、きょう、与謝野担当相が「7月にやっていただいても、8月にやっていただいても、日銀が独立性をもってやる判断だ。したがって、自らの責任と見識で判断すると信じている」と述べる一方で、安倍官房長官は、金融面から経済を十分支えてほしいとの観点で、当面ゼロ金利政策の継続が望ましいとの考えを示していた。(ロイター)」

 ご存じのように与謝野氏は日銀法改正に関わったぐらいであり、日銀の独立性を重視していた。それに対して安倍氏は今度は官房長官の立場で、ゼロ金利政策の解除を迎えたこととなるが、解除には反対の立場にあったようである(その前に2006年3月に日銀は量的緩和政策を解除しているが)。

 2006年3月の量的緩和政策の解除、さらに6月のゼロ金利政策の解除の際に政府は議決延期請求権は行使していない。当時の財務大臣は谷垣前自民党総裁であった。谷垣氏も日銀の独立性については配慮していたものとみられ、当時の小泉首相もこのあたりは認識していたとみられる。いわゆる上げ潮派も周りには多かったものの、小泉元首相は日銀に対してほとんど干渉していない(表面上は)。このあたり、何故だろうかと疑問を常々持っていたが、直感的にリフレ政策のリスクを嗅ぎ取っていたのではないかとの指摘もあった。

 そして、その小泉首相のあとを引き継いだのが、その安倍氏であった。安倍政権は2006年8月から2007年の8月までであったが、この間、日銀は2007年2月に政策金利を0.5%に引き上げているが、やはり政府からの直接的な干渉はなかった。この間は利上げができるだけの経済環境にあり、それほど金融政策には関心がなかったのかもしれない。

 しかし、安倍政権終了後に世界情勢が大きく変わった。2007年8月にパリバ・ショックが、2008年9月にはリーマン・ショックが起きている。そして、2009年9月に政権が民主党に移った。

 安倍総裁にとり、2回のゼロ金利解除を政府の要職として経験し、日銀はある意味、目の敵のような存在であったのかもしれない。しかし、自ら首相となったときには特に動かず、なぜか今回、再び自民党総裁に返り咲いてから、過去の記憶が舞い戻ったかのように日銀への干渉を強めようとしている。

 自民党の政権公約にもデフレ・円高からの脱却に向けて「欧米先進国並みの物価目標(2%)を政府・日銀のアコード(協定)で定める」方針などを明記している。そこには日銀法改正も視野に入れているようである(ただし、ここにきて日銀法改正についてもややトーンダウンしている模様)。

 過去の経緯を見ると、安倍総裁は日銀との関係について、政府の要職としていろいろ考慮すべき立場にいたと見られ、それなりの知識も得ていたはずである。しかし、最近の言動から見ると、日銀の独立性を軽んじるようなものや、財政法で禁じられている日銀の国債引受と取れるような発言をするなど、配慮が感じられない。これは自民党にとっても決してプラスではないと思われる。

 選挙までの期間もあり、もし政権を取り、再び首相に返り咲くことを意識しているのであれば、先々のリスクを感じさせるような言動は差し控えるべきではないかと思われる。そして、あらためて日銀の独立性についても一定の配慮を望みたいと思う。

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