新型コロナの再度の感染拡大を受けて、二度目の緊急事態宣言が、新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に基づいて一都三県を対象地域として発出されている。宣言の期間は2月7日までとされている。該当地域の方は不要不急の外出を控えるなど、早期に感染収束に向けた行動をとっていただきたい。
ところで、報道によれば、通常国会で特措法改正を目指すとのことである。ポイントとしては、(1)罰則規定の導入、(2)施設の使用制限等に伴う補償規定の導入の二点である。これらの点についてどのような方向性が考えられるかを検討してみたい。
検討の前に、現行の特措法の枠組みを改めて整理しておく。特措法は第一ステップとして、新型コロナを含む感染症が発生した場合に、内閣に政府対策本部を設置するものとしている(特措法第15条)。政府対策本部が設置された場合には、都道府県においても知事を本部長とする都道府県対策本部を立ち上げる(特措法第22条、第23条)。この段階において、知事(都道府県対策本部長)は感染対策のために、個人・法人に対して必要な協力を要請することができる(法第24条第9項)。
そして第二ステップとして、新型コロナの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす、またはそのおそれがある場合に、政府対策本部は緊急事態宣言を発出する。緊急事態宣言は期間・地域・概要を定めて発出される(特措法第32条)。
緊急事態宣言の対象となった地域の都道府県知事は、外出自粛、施設の使用制限や催事の停止を要請することができ(特措法第45条第1項、第2項)、施設管理者等が要請に従わない場合は、使用制限または停止を指示することができる(同条第3項)1。
さて、(1)罰則規定の導入についてである。
上述の通り、特措法の定めにより、緊急事態宣言が出なくとも、知事は感染拡大防止のための協力要請ができる一方で、緊急事態宣言が出されたとしても、強制力を伴う措置をとることができない。したがって、緊急事態宣言には実質的にはアナウンス効果しかなく、罰則を設けるべきとの主張がなされている。特に、すでに国内でも感染力が従来型より70%強い変異型が確認されているとのことで、ある程度強力な手段を用意しておくことには合理性があろう。罰則については、伝家の宝刀として、抜かれないのが最善ではあるが、コロナ慣れやコロナ疲れが懸念される現状においては、ある程度強い措置を導入しておくことも必要と考える。
仮に罰則として刑事罰を設ける2とすると、「刑事法規の明確性」ということが問題となる。人々の自由な活動や営業行為について、罰則をもって禁止するためには、何が違法になるのかが明確になっていなければならない。この観点からは、上記特措法第二ステップにおいて、施設の使用制限や催事の停止要請を出したのちに、従わない事業者にさらに指示を出し、その指示にすら違反する事業者に対して罰則を科すことが妥当と考えられる。事業者が自身が指示を受けていることを明確に認識できていることが、大前提となるべきであるためである。
なお、現行法令の立て付けとしては、学校、社会福祉施設、興行場の三つを特措法本体で例として挙げつつ、施行令が、多くの要請・指示の対象となる具体的な施設を定めている。しかし、刑事罰を科すというのであれば、特措法本体に、要請・指示対象となる施設(たとえば飲食店3)をなるべく具体的に書き込んでおくべきことが望ましい。また、対象施設を定める措置法第45条第2項や施行令第11条は大規模施設、特に1000m2超のものを想定している4が、これまでの経験からしてもクラスター発生は大規模施設に限定されるわけではなく、改正が必要であろう。
ちなみに外出自粛要請に反する行為に刑事罰を科すとするのは、「みだりに外出する」という要件が不明確であることや、現下の状況において外出という行為と、刑事罰という結果とが不均衡であることから、罪刑法定主義(デュープロセス)の観点から困難であろう5。
次に(2)施設の使用制限等に伴う補償規定の導入についてである。
まず、特措法の補償規定としては第62条と第63条がある。第62条は病院等の施設や土地、あるいは物資等を強制的に使用・収容した場合の損失の補償の規定であり、第63条は治療にあたった医師が感染した場合等における損害補償の規定である。
施設の使用制限要請に伴う補償規定は、これらとは異なる。第62条のように、対象事業者の財産を行政が強制的に使用・収容するわけではなく、また第63条のように行政からの要請に従った結果としての新型コロナ感染という損害があるわけではない。使用制限要請等において、行政は一般に適用されるルールを定めただけであり、個別具体的な民間事業者から行政が利益を得たり、損害を与えたりしたわけではない。
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- 2021年01月08日 15:20