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キンドルが売れるこれだけの理由

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Amazon.co.jp (2012-11-19)
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 AmazonのKindle Paperwhite、既に出荷がはじまっているご様子。ParsleyはCloud Playerを楽しみたいのでKindle Fire HD待ちだけど久しぶりにワクワクするガジェットになっている。ネットに上がっている評判はおおむね好評みたいだし。

 とはいえ、2010年に言われた「電子書籍元年」に期待よりも広がらずに、シャープのGALAPAGOSや楽天のkoboが残念なハード・サービスだったことも加えて、懐疑的な声も主に出版業界の中から聞こえてくる。
 その急先鋒が、東洋経済オンラインでの山田順氏の連載「紙メディア VS ネット 最終決戦」だろう。連載第一回目のタイトルが「キンドルが売れないこれだけの理由」。見事な逆張りですね。
 ここで山田氏は、以下のような理由を挙げて「日本は電子書籍専用端末の墓場」という説を唱えている。
   
     
  • 売れた端末がない
  •  
  • 品揃えが少ない
  •  
  • 価格が高い
  •  
  • コミックが弱い
  •  
 
 しかし、Amazonは2007年に登場以降5年間米国などで展開しているサービスと最新の端末を日本市場に投入してきた。Parsleyは山田氏の仮説は当たらないと考えているので、その理由をつらつらと記していきたい。

圧倒的に便利なkindleのサービス

 GALAPAGOSやkobo、それにソニーのReaderなどとkindleが違うのは、既にiOSとAndroid無料アプリが用意されており、スマートフォンやタブレットでも読むことが出来る点。しかもしおりやハイライト、ノートが同期されるので、端末を選ばない読書ができる。しかもkindleの場合は各端末一台ずつにメールアドレスが割り当てられていて、簡単にファイルを送ることが出来るのが自炊ユーザーにとってみれば嬉しいところ。
 また、サードパーティからさまざまなアプリが開発されているため、ネット上の文書を転送して保存し読むことなど、使い方は単なる「読書」に留まらない。ある程度リテラシーのあるユーザーなら、魅力に感じるスペックのあるモデルとサービスと言えるだろう。

「kindleでしか読めない」コンテンツが増える

 kindleが優れているもう一つの点として挙げられるのが、ダイレクト・パブリッシング。html、ePab、XMDFだけでなく、Wordのdoc形式にも対応しているので、難しいプログラミングの知識がなくても比較的簡単にkindleで出版・販売することが出来る。これは、コミケやコミティア・文学フリマなど同人誌即売会に出店しているサークルや個人にとっては有力な選択肢になるはずだ。
 そして、早くもロールモデルも誕生している。藤井太洋氏のSF小説『Gene Mapper』は、kindleストアで発売して以来ランキング上位の常連になっている。
 今後は、無料のフリーペーパーといったコンテンツも出せるだろうし、より安価な価格で勝負するダイレクト・パブリッシング本が増えていくのではないか。そうなると、「kindleでしか読めない」ものが増え、結果として端末やアプリの利用する人が多くなるだろう。特にコミックの無料本はまだ競争が起きていないブルー・オーシャンなので、急に注目される作者が現れる可能性が高い。無名の新人が話題をさらう日は近いかもしれない。

値段が高い本も案外売れる

 クリス・アンダーソンの『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』は 1714円という価格にも関わらず、ランキングでトップ10入りを果たしている(ちなみに通常版は1995円)。ほかにも、500円前後の書籍やコミックも著者やタイトルによっては、かなりの数が売れている。本好きなアーリーアダプターが多いことを差し引いても、ちょっと驚きの傾向だ。
 しかし、数百円とはいっても通常の書籍よりも安いことを考えば、より多く読むひと程、kindleなど電子書籍を選んで節約する選択をするのかもしれない。
 また、コミックや作者単位での「まとめ買い」といったパッケージでディスカウントをする販売なども考えられるし、書籍・雑誌の再販制度にとらわれない、弾力的な価格設定をしてくる可能性は充分にあるように思われる。そうなると、購買層の「おとな買い」が自然と増えるのではないだろうか。

コミック誌というパッケージをkindleが破壊するかも?

 出版社におけるコミック誌の売上げの比率が高いことはいうまでもないことだが、1990年代から比べて部数が大幅に減っていることも周知の通り。しかし、コミック本単体の冊数は増えており、雑誌ではなく単行本で読むニーズが増えていっている。
 日本においては、2006年頃から携帯での月額課金制コミック読み放題サービスが電子書籍市場を牽引してきた。特に伸びたのがBLやレディスコミックといった、一般書店ではレジに持っていくのに躊躇する作品だ。kindleがアダルト作品を扱うようになるのかは未知数ではあるが、もしそういったコンテンツも販売されるようになればかなり浸透するのではないだろうか。
 いずれにしても、若年層を中心にコミック誌ではなく作品単体で読むというスタイルに移行しつつあるのは間違いないところだろう。となると、出版社としても一話ずつをバラ売りした方が、コストパフォーマンス自体はコミック誌を上回る可能性がある。そうなると、パッケージとしての雑誌というプレゼンスは徐々に減じていくように思える。 

とはいっても、kindleは「紙」を殺さない

 村上福之氏によると、ご著書の『ソーシャルもうえねん』はリアル書店がAmazonの約7倍の売上げだったという(参照)。ということは、15%はAmazonで販売したということになり、ちょっと出版業界にいた身としては驚異的だなと思うのだけれど。未だに取次流通の全国展開が機能しているということは間違いないところだろう。
 また、山田氏も連載の二回目で「電子書籍はデジタル時代に登場した新しい表現形態で、これまでの紙の本とは別のモノ」と述べている(参照)。Parsleyも2011年に「電子書籍は紙の本に勝つ必要はない」と題したエントリーを記しているが、ネットや各種SNSと連携したソーシャルリーディングの可能性など、ただ「読む」だけに留まらない読書体験をディレクションされたコンテンツはまだ現れていない。
 藤井氏は、BLOGOSのインタビューで「執筆や編集という役割を1つ1つ違う人がやっていると、甘えが許されないところはあるのですが、やはり1人でやっているとそういう部分は甘えてしまう」と述べており、出版社・編集者がエージェント的な役割を果たすことを期待する発言をしている。
 そうなると、電子書籍の普及には、出版業界のシステムの変化やコンテンツのあり方など価値観の転回が不可欠だろう。また、電子書籍ならではの編集やディレクション、プロモーションといった専門家が必要とされるようになっていくのではないだろうか。

ここでkindle大好きな方にお知らせです。

 2012年11月23日に、『コミティア・文学フリマ後夜祭』と称して、kindleをはじめとする電子書籍とセルフパブリッシング、そして出版のあり方についてをテーマとしたトークを行います。
 出演者は、藤井氏のほか、作家の内藤みか女史、編集者の仲俣暁生氏、KAI-YOU代表の武田俊氏、TINAMI代表の篠田匡弘氏といった幅広い顔ぶれで、kindle上陸した後の「出版」や「同人」の境界があいまいになった中の「表現」についてお話をうかがいます。

 当日でも大丈夫ですので、ご興味のある方は是非お越し下さい。

リンク先を見るGene Mapper (ジーン・マッパー)
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リンク先を見るMAKERS―21世紀の産業革命が始まる
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リンク先を見る Kindle自費出版ガイド 米アマゾンの先例から学ぶ電子書籍の作り方
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