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伊藤真さんに聞いた(その2)憲法上問題だらけの「秘密保全法制」誰が何のために作ろうとしているのか?

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憲法上問題だらけの「秘密保全法制」
誰が何のために作ろうとしているのか?

先日、愛知県で、ある弁護士が国を相手取り、「秘密保全法」を巡る情報開示の徹底を求めて提訴したとのニュースが伝えられました。成立すれば、国民の知る権利や報道の自由が厳しく制限されるともいわれるこの秘密保全法、 いったいなぜ制定されようとしているのか? そして、その危険性とは? 伊藤先生に詳しく解説いただきました。

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いとう・まこと
伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。 『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)など著書多数。

あらゆる秘密、あらゆる行為、あらゆる人を対象とし、あらゆる人権侵害の恐れのある制度

編集部

 秘密保全法については、マガ9の連載コラムにおいて、「国家の情報を秘密にする【秘密保全法】」として、その危険性について述べられています。また伊藤塾ホームページにある、第203回の「塾長雑感」にも、メッセージを出されていますね。
 改めて、秘密保全法がどういう性質の法律で、何が目的なのか、そして国民の側からみた問題点について、お聞きしたいと思います。

伊藤

 秘密保全法制には大きな問題がいくつもありますから、私も東京弁護士会の憲法委員会や日本弁護士連合会の憲法問題対策センターにおいて、弁護士間で問題意識を共有できるようにレクチャーを行ってきました。

 まず、憲法上の大きな問題として挙げられるのは、国民の「知る権利」を大きく制約することです。2011年1月に学者による「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)が政府内に設置され、同年8月に報告書が公表されました。その中身を見ると、規制対象が、国の安全、防衛秘密に限らず、外交、公共の安全、秩序の維持に関する情報まで拡大しています。これは「あらゆる秘密」が対象になっているということです。
 また、規制される行為は情報の漏洩に限らず、探知・収集行為にまで及んでいるため、正当な取材・報道行為まで処罰の対象となる恐れがあります。つまり、「あらゆる情報にかかわる行為」が対象となっているのです。さらに規制対象は、単に公務員だけではなく、関連する大学や民間企業の従業員、職員の方々やインターネットなどで情報を収集しようとする一般市民も対象になりえますから、「あらゆる人が対象」となります。
 そして、秘密保全の手法として、単に違反した人に罰則を科すだけではなくて、適性評価制度というものを導入することになっています。適性評価制度とは、国家の秘密を取り扱う上で、国が不適切であると思う人をあらかじめ排除するものであり、その調査の過程でプライバシーを含めた「あらゆる人権が侵害」される恐れがあるのです。
 このように秘密保全法制とは、「あらゆる秘密を対象とし、あらゆる行為を対象とし、あらゆる人を対象とし、あらゆる人権侵害の恐れのある制度」であり、本当にとんでもない法律が今、作られようとしているのだなと強い危機感を持つと同時に、このことを広く市民の皆さんに知っていただきたいと思っています。

 特に、公共の安全、秩序維持というところまで網を広げてしまっていることから、私たち一般市民が自分の生活にとって必要と考える情報が、官僚によって規制対象である秘密として指定されてしまうと、それを探し求めたり、調査したりすること、すなわち自らの意思でそれを知ろうとする行為自体が処罰される恐れがあるので、主権者として自ら国家の情報を収集しようと考える市民の活動に大きな萎縮効果を与えてしまうことになります。

 例えば、皆さんの関心の高い原発問題で考えてみると、「福島第一原発はどうなっているんだろうか」とか、「建設を再開した大間原発の活断層はどういうことになっているんだろうか」など、本当の情報を入手したいと思ったところで、仮にそれが国民の不安をあおり、公共の安全・秩序の維持を乱すものとして、秘密にするべきだと政府が判断した場合には、一切その情報にタッチすることはできなくなります。具体的には、情報を入手しようとする行為そのものが処罰対象になりますし、共謀、教唆、煽動というような情報取得以前の行為も処罰対象になります。
 ですから、インターネットなどで「●●について教えてください」というふうに誰かにお願いをすることも処罰の対象になってしまうのです。国民自身が国家のやり方に疑問を持ち、自分の判断に必要な情報を入手しようとする行為自体を、大きく萎縮させてしまう結果、国民が主権者として行動し、判断するために必要な情報を得ることができなくなってしまうのです。

主権者である国民の主体性を奪う制度

編集部

 これだけネットが発達して情報をとりやすくなっている社会において、そんな規制がかけられるのか? という疑問も残りますが…。しかし厳重な罰則、例えば刑事罰がつくとなると、一般の市民はたしかに萎縮するでしょうね。

伊藤

 国家による情報統制が認められてしまうと、国民は主権者として主体的に行動するこの国の主人公ではなく、官僚や国家に支配・コントロールされる客体として位置づけられてしまうことになります。国が国民をいわば支配・コントロールの対象におとしめてしまう、それが一番の問題だと思います。例えば、環境問題や原発の問題、平和活動などさまざまな運動やオンブズマンとしての活動などをしたいと思っても、「その運動や活動が処罰の対象になってしまうのではないか」と、萎縮してしまう恐れがあるのです。
 もし今のままの内容で法制化されたら、国家の情報統制が一気に進み、市民はもの言わぬ従順な存在となり、この国は国民主権とは到底言えないような国家になってしまうでしょう。

編集部

 秘密保全法の制定については、アメリカからの圧力もあると聞きましたが。

伊藤

 もともとこの法案は、特に防衛秘密とのかかわりで日本の自衛隊と米軍の軍事一体化を進めていきたいというアメリカからの要請の下で議論がスタートしたものです。ですから、秘密保全法制によって、憲法前文と9条でうたっているこの国の平和主義がないがしろにされてしまうということも、主権者たる国民がもの言わぬ従順な国民になり下がってしまうことと同じくらい大きな問題だと思っています。

編集部

 具体的にはどういうことでしょうか?

伊藤

 この法案は尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の際に起こった海上保安庁のビデオ漏出問題、あれがきっかけで唐突に出てきた…そんなイメージを持たれている方が多いと思いますが、実は、自公政権の時代からずっと一貫して、アメリカの要請に基づいて検討されていたものなのです。逆に言えば、今後、民主党政権から別の政権にかわったとしても、引き続き秘密保全法制についての検討は進み、必ずや法案として出てくるに違いありません。

編集部

 そうなんですね。

アメリカからの軍事協力要請の一つとして検討がはじまった「秘密保全法」

伊藤

 これまでの経緯を書いた資料を見てもらうとよくわかると思いますが、85年に「スパイ防止法」というのが出てきます。これは市民運動によって廃案に追い込むことができました。その後、しばらく目立った動きはなかったのですが、97年の「新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)」あたりから、アメリカがかなり日本に対して日米軍事の一体化、共同作戦を要求してくるようになります。言葉を変えれば、冷戦後のアメリカの軍事戦略をどうするのか? アメリカとしては、本来は冷戦が終わったのですから軍縮の方向に行ってもよかったわけですが、それでは国内の軍需産業が納得しないということもあったのでしょう。軍隊を使う場を対ソ連以外のところに、新たに見つけ出す必要があったわけです。

 そこでアメリカの軍隊及び軍需産業を維持させるために、アラブや北朝鮮など新たな紛争地域に駆けつけていって、米軍が新たな役割を果たすように方向転換していきます。その中で、日本と共同の軍事作戦を進めていきたいとアメリカは考えていくわけです。
 そのようなアメリカの思惑があり、97年頃から国際的な安全保障環境というものを日米合同でつくり上げていこうと、新ガイドラインを発表します。ここで情報の保全責任が明記され、その後アーミテージの報告にあるように、機密情報保護立法化の要求が出てきます。
 そんな中で9・11同時多発テロが起こり、すぐさま自衛隊法が改正され、防衛秘密漏洩に対して民間人が初めて処罰の対象になりました。その後、2005年10月の「2+2」(日米安全保障協議委員会)による 「日米同盟:未来のための変革と再編」が発表されます。このことは、元外交官の孫崎享さんがずっと前から指摘されていますが、これによって日本の安保条約の性質は大きく変わってしまいました。

 それまでは、日米安保条約は独自法であり、「在日米軍はあくまで日本国と極東の安全を守るために駐留することが認められている」と安保条約には書いてありました。ところが、この「未来のための変革と再編」には「国際的な安全保障環境の改善のために緊密に協力する」と書かれています。しかしこの国際的な安全保障環境というのは、孫崎さんが解明されているとおり、結局は、アメリカの軍隊及び軍需産業にとって有益になるような環境のことであり、アメリカの国益・方針に反するものは、いわゆるならず者国家と名指しされてしまった国のみならず、すべてこの国際的な安全保障環境にとっては脅威なわけです。その安全保障環境の改善に日本が緊密に協力すると約束してしまったわけです。

編集部

 アメリカの国益を守るための「日米同盟の深化」なわけですよね。

伊藤

 結局は、「アメリカの国益を実現するための戦争に日本は協力します」と合意したに等しいわけです。決して日本の国土を守ったり、日本国民を守ったりするためではありません。自分たちを守るために自衛権は必要で、そのためには自衛隊も必要だとしましょう。それについては、百歩譲ったとします。しかし、アメリカの国益を守るために地球の裏側で行われているアメリカの戦争に日本の自衛隊が協力すると約束することは、憲法上許されないことです。しかしながら、日本政府は合意をしてしまいました。さらに「共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置」を採ることにも合意してしまったのです。
 この「追加的措置」とは一体何だろう? ということですが、その時点では外部に発表されていませんでした。しかし、2007年5月の「2+2」において、その追加的措置とは実はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)のことである、と明記されたのです。

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