記事

健全な⺠主主義を取り戻すために、国民はもっと声を上げるべき - 「賢人論。」129回(中編)宇野重規氏

1/2

東西冷戦の終結を機に、日本の政治は大きな変化を強いられたと語る宇野重規氏(政治学者・東京大学社会科学研究所教授)。そもそも、私たち日本人はどのように民主主義を獲得し、どのように発展させてきたのか。日本の戦後民主主義にスポットを当て、過去の政治改革と、今後の私たちに求められる「意思ある行動」について伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/荻山拓也

第二次大戦の敗戦で「国家」という重しがはずれ、明るく輝かしい民主主義が到来

みんなの介護 わが国が本当の意味での民主主義を獲得したのは、第二次世界大戦後のことだと思います。日本の戦後民主主義はどのように生まれたのでしょうか。

宇野 第二次大戦が敗戦という形で終わって、わが国の戦後民主主義はスタートしました。戦争に敗れた日本の国土は荒廃し、人々の生活は困窮を極めましたが、それでもある種の喜びがあったのは事実ではないでしょうか。頭上の空がぱっと明るく開けたような解放感。、それまで重くのしかかっていた国家という重しが取り除かれた。

その結果、貧困と欠乏という状況下であっても、「自分たちはこれから自由に生きていいんだ」という精神が人々の中に生まれました。その精神こそが、戦後民主主義の大きな原動力になったことは間違いありません。

みんなの介護 宇野さんは本の中で、民主主義を成立させるためには、国家と社会の力関係のバランスが重要だと書かれていますね。

宇野 いま最も注目を集めている経済学者ダロン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンは、「中央集権化する国家に対し、社会の側に国家の要求に対抗する勢力が組織されない限り、自由な政治制度の発展はない」と主張しています。

簡潔にいえば、国家と社会の力関係が「国家>社会」であれば、国家は自分たちのいいように制度をつくり、しかも社会に何も説明しない。逆に「国家<社会」の関係になれば、国家は力を失い、国は分裂する。国家と社会がバランスの取れた状態になってはじめて、社会は国家に対して説明を求め、国家は社会に対して意を尽くして説明責任を果たす。そうやって互いに切磋琢磨しながら国を発展させていくのが、民主主義のあるべき形でしょう。

戦前の日本は明らかに「国家>社会」でした。急激に軍国化していく国家に対し、社会は何も言えなかった。それが戦後になってようやく国家と社会のバランスの取れた関係を獲得できたわけです。社会の側から見れば、民主主義を喜んで受け入れるのも当然でしょう。

戦前の軍国主義から民主主義へと転換して、政治家のタイプも変わりました。多くの戦前政治家が公職追放になったことで、戦後派へと世代交代が進んだ。例えば官僚出身の池田勇人や佐藤栄作など、戦前であれば公務員として一生を終えたような人たちが政治家になり、やがて総理大臣にまで上りつめることになります。

東西冷戦の終結とともに岐路に立たされた日本の外交

みんなの介護 政治家の性質まで変えた戦後民主主義に大きなエネルギーを感じます。

宇野 日本の戦後民主主義は、ある特定の条件で花開きました。というのも、アメリカという強力なパートナーとともにずっと歩んできたからです。いえ、パートナーというより、軍事的にも政治体制的にも、日本はずっとアメリカに支えられてきました。捉え方はさまざまですが、わが国は安全保障や外交の面でアメリカに多くを依存してきました。外交について自分たちでは考える必要はほとんどない分、ひたすら経済活動に注力できたわけです。

言い換えれば、わが国の戦後民主主義は、高度経済成長で手に入れた果実を国内にどう再分配するか。それのみを考えていればよかった。お金さえ国内に潤沢に分配できていれば、それで民主主義は滞りなく回っていっていたのです。

みんなの介護 それがあるときから、うまくいかなくなったんですね。

宇野 そのとおりです。1989年の「ベルリンの壁崩壊」は、間違いなく日本の民主主義にも影響を及ぼしました。端的にいえば、東西冷戦が終結したため、アメリカには日本を守る大義がなくなってしまったのです。今日アメリカは、在日米軍の駐留経費をもっと負担するよう日本に要求していますが、それもある意味では当然ですね。ソ連(現・ロシア)などの社会主義国が自由主義世界の脅威でなくなった以上、アメリカは自腹を切って日本を守る理由などありませんから。

日本の民主主義は、東西冷戦の終焉とともに、安全保障や外交の問題を自分の頭で考えざるを得なくなりました。その一方で、市場経済を導入した中国は年々大国化してきていて、韓国、北朝鮮、ロシアと日本の関係も決して良好とは言えません。さらに戦後ずっと好調だった日本経済も、1990年代以降は失速してしまいます。利益を国内で再配分しようにも、その原資がない。

こうして日本は1990年代初頭、戦後民主主義を支えていた二つの要素「アメリカの後ろ盾」と「経済成長」を失い、わが国の政治はかつてない重荷を背負うことになります。

あわせて読みたい

「民主主義」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    給付金2回目求める声殺到に衝撃

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    トヨタ Apple車参入で下請けに?

    大関暁夫

  3. 3

    テレ東が報ステ視聴者奪う可能性

    NEWSポストセブン

  4. 4

    陽性率が低下 宣言2週間で効果か

    中村ゆきつぐ

  5. 5

    マスク拒否の男 逮捕時は大暴れ

    文春オンライン

  6. 6

    秋葉原メイドカフェはバブル状態

    文春オンライン

  7. 7

    鈴木拓300万円使うもYouTube挫折

    SmartFLASH

  8. 8

    慰安婦判決 文政権はなぜ弱腰に

    文春オンライン

  9. 9

    米国に課された多様性との融合

    松田公太

  10. 10

    雇用保険を否定? 厚労省の暴言

    田中龍作

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。