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MEDIA MAKERS-社会が動く「影響力」の正体

フェア・ディスクロージャーの精神から最初に断っておくと田端信太郎さんはMarket Hackという投資関連のブログメディアの発案者であり、僕の立場はその実現にあたって白羽の矢が立てられた、言わばHired gunです。「雇われた殺し屋」だからして対価を貰っている上、依頼主の悪口は言えません。そこのところを差し引いて、このエントリーを読んでいただければと思います。

最初、彼から「ブログメディアやりませんか」と打診を受けた時は、まあ余り乗り気ではありませんでした。自由気ままに書いているブログに、いろいろな制約が生じては興ざめするかな? という漠然とした気持ちを抱いたからです。それで彼からのメールは、放置プレイに処することにした……。

そしたらまたしばらくして、彼からメールが来た。

(るせー奴だな)

それで返事を出したら、膝を詰めてきっちり打ち合わせしたいと言う……

「じゃあ、来れば? サンフランシスコまで」

そう返事を打ったら、本当にサンフランシスコまで来た(笑)。

で、ホテル・ニッコーのレストランでブレックファスト・ミーティングをしたわけです。

(チャラい奴だったら、「やっぱり止めるわ」と言って直ぐ帰ろうかな……)

まだそんな事を考えながらミーティングに臨んだわけです。で、話をしてみると結構、面白い……。

その時、僕が考えたことは(北へ行くか、それとも南に行くか……)ということです。北はナパ・バレーで、南は太平洋を望むハイウェー・ワンです。つまりブレックファストだけでは、到底話が終わりそうも無かったので、場所を変えて話をする際、どこへ行こうかと思案したわけです。

「チミの趣味は、何?」

そう訊いたら、田端さんが「サーフィンです」と言った。

それなら話は簡単だ。マヴェリックへ、連れてゆこう。

マヴェリックというのは北カリフォルニア屈指のサーフ・スポットであります。

それでクルマの中で彼の話を聞きながら、パシフィカからハーフムーン・ベイを経て、マヴェリックを案内しようと思ったけど、ちょうどその時、ホリエモンが検挙された後、ライブドアがアッツ島玉砕みたいな悲惨な状況になったとき、いろいろな広告主から「もうお前の会社とは付き合わない」と言われ、絶体絶命の危機をグーグルのアドセンスを利用したマネタイゼーション戦略でなんとかしのいだというエキサイティングな話になった……その話術に完璧に釣り込まれて、不覚にもマヴェリックを通り越してしまった(笑)。

「シリコンバレーのアッシー君」と言われた私です。接待にゼッタイの自信を持つ自分としては、ありえない不覚。それでサンタクルーズのボードウォークで沖にぷかぷか浮いているサーファー見ながら二人でシーフード喰って、すごすご帰ってきた。

その時に彼から聞いた話の、少なからぬ部分が、『MEDIA MAKERS-社会が動く「影響力」の正体』にも収録されているわけです。その意味において、本書を読むということは、僕がMarket Hackの編集長として期待されている責務の、再確認の行為に他ならないし、改めて彼の凄さを感じます。

それに加えて、自分には正直辛い部分も、ある。それはどうしてかといえば、Hired gunとしてのミッションを全うし切れていない事のreminderだからです。

それについては最後にもう一度触れることにして、とりあえず自分が本書を読んで最も刺さった部分を引用します。

総務省がメディア上を行き交う情報流通量の時系列での推移について調べた情報流通量インデックス調査(平成21年)によると、インターネット上を流れる情報流通量は、平成13年から平成21年までの8年間で、なんと71倍に激増しました。しかし、実際にユーザーに受け入れられ、受容され消費される情報量は、同じ8年間において、たったの2.5倍前後にしか拡大していません。それだけ多くの情報が、ただ「発信したつもり」でブラックホールに吸い込まれるように、データセンターのハードディスクの肥やしとなって消えていっているわけなのです。

つまり、今や情報を発信することそれ自体には、全く価値がありません。読み手に届くメディアを作り、運営を継続できるかどうかこそが生命線です。



ハードディスクの肥やしって……(笑)

またメディアである以上、広告主(それがアドセンスであろうと)のイメージを常に意識する必要があります。それに関連する箇所として……

ここで、私が指摘したいのは、広告主となる業者、取材対象となりコンテンツを供給する専門家の集合体としての「業界」の有無です。ゴルフやサーフィン、スケボー、盆栽、茶道にあって、缶けりにないものとは「業界」なのです。あるジャンルが「業界」として成立するかどうか?とそこに専門誌が存在するかどうか? は同じコインの裏表の問題と私は思っています。

ブログメディアの売上高を伸ばすには、KPIと呼ばれるビルディング・ブロックのひとつひとつに気を配りながら、コンテンツの最適化を図る必要があります。それに関する説明は……

リンク先を見る

図の中にある箱ひとつひとつがいわゆるKPI(Key Performance Indicator)と言われるものになり、多くのウェブメディア企業では日々の定例ミーティングなど
でチェックされている項目になっているはずです。

さて、ここで大事なことはKPIの数値を見るだけでなく、その意味について、考え、具体的な状況に基づいてその増減理由を納得し、改善のために具体的な行動に移していくことです。上記の数値、一つひとつは、人間ドックの診断結果のようなものです。数値を見るだけ、知っておくだけ、では全く意味がないのです。

あるメディアの売上が前年比で50%伸びたとしましょう。その原因が、たとえばツイッターやフェイスブックでのフォロワーやファンが激増し、投稿の頻度も増やしたことで、上記の図でいう「ソーシャル流入」が増え、その結果としてUUが増え、売上拡大が上手くいったケース(しかし、それ以外の上記のKPI数値は全く変わらず向上していないケース。)と、同じ売上50%増でも、スゴ腕の広告代理店出身の営業部長が入社し、リッチ広告の販売が拡大したことで「PVあたり売上」の水準が2倍に上昇し、PVは実は25%減少しているのだけど、結果的に売上は50%の拡大となったケースでは対処すべき課題が全く違ってきます。

少なくとも編集責任者・事業責任者クラスにおいては、上記のようなロジックツリー構造に基づいて、メディア全体の売上やPVの増減要因について、コンサル用語でいうMECE(Mutually Exclusive and Collectively:つまりモレなく、ダブリもなく)に「因数分解」した構造が、頭の中に持っておくことが重要です。

さらに実務的には、それぞれのKPI間でのトレードオフの関係を把握しておくことが重要です。例えば、最近、様々なサイトでよくある状況なのですが、ツイッターやフェイスブックなどからの「ソーシャル流入」が大きく増えると、その代わりに「UUあたりPV」が減少する傾向が存在します。
ソーシャルメディアで口コミ喚起力が強い記事を掲載し、RTやシェアをユーザーに促すことで、爆発的にサイト流入を増やそうということ自体は悪い戦略ではありません。しかし、ソーシャルでバズが爆発する記事というのは、見出しや写真・動画などのインパクトが非常に強く、その吸引力に「釣られて」やってきたユーザーを大量にサイトにもたらすのですが、その記事のみを読んで、さっさとユーザーは帰ってしまう(アクセス解析的にいうと、当該記事の直帰率が80%以上と非常に高い)状況になりがちです。
飲食店に例えると、TVで紹介されて一見のお客さんがドカンと増えたが、単品メニューばかりを注文されてしまい、客単価が下がってしまった・・・そんな状況でしょうかね。
こういう場合では、新規客の流入増加は、すでに十分なわけですからその副作用を軽減させる打ち手を取るべき状況です。よくある手段としては、記事下に類似の関連記事のリンク紹介などを埋め、その「記事のみ」が見られている(=「UUあたりPVが1」に近い)だけの状況から抜け出ることを狙います。

また、KPI間のトレードオフ関係だけでなく、長期的にしか改善できない項目と、短期的にも改善可能な項目の区分も、特に事業責任者にとっては重要な観点です。上記のKPIで、短期的(1カ月~3カ月以内くらい)に向上させることが期待可能な項目は、筆者の考えでは以下の3つになります。
「PVあたり売上」は、いわゆる広告セールス陣の「営業努力」や「広告商品の改善(=リッチ化やターゲティング化)」によって、「UUあたり売上」はサイトのUIの改善(ベタな打ち手はページ分割や写真スライドショウの導入・強化)によって、「ソーシャル流入」はフェイスブックやツイッター運用において、投稿頻度を増やしたり、見出しを工夫したりするなどの担当スタッフの努力によって、改善を期待できます。
その逆に、長期的(半年以上のスパン)でしか、大きな改善が期待できないものの代表が(オーガニックなSEO観点からの)「検索流入」です。検索エンジンからの流入拡大に向けた打ち手は、常にジワジワとしか効果を発揮しないのですが、その代わりに、いったん増えた検索流入は、すぐに減少するということも考えにくい、言わば「座布団」のように、常にサイトのアクセスを下支えしてくれる存在になりますから、やはり大変に重要な項目です。
(やや、余談ですが、筆者は、アクセスが増えたり減ったりして、色々と思い悩むときには、グーグルアナリティクスなどで、検索流入のグラフを見て、「安心」し、「よし。オレ達のやってきたことは間違っていないのだ」という「自信」を取り戻すことが、しばしばありました。検索流入のグラフが長期的に一貫して、右肩上がりのトレンドを描いているのならば、そのサイトのページビューのグラフはジグザグしながらも、徐々に下値を切り上げ、上昇を続ける株価のようなチャートを描いていくことが多いです。逆に、検索流入が長期的に一貫して下降トレンドに入っているならば、これは大変に不健全な事態です。)

言い換えるならば、検索エンジンからの流入アクセス数というのは、ウェブサイトにとっては非常に「資産性」が高く、長期的な岩盤となるようなアクセスなのです。これはウェブメディアを運営するネットベンチャーへの企業投資やM&Aなどの観点からも、デューデリジェンスなどで気にされるべき項目でしょう。(検索アクセスの流入比率が高いサイトというのは、例えば、ちょっと嫌な言い方ですが、サイト買収後に、運営方針をめぐって対立が発生し、編集スタッフが全部辞めてしまうというようなケースを想定しても、アクセスが急激に落ち込むリスクが少ない性質を持ったサイトなわけです。)



ページ・ビュー(PV)の追求が、なぜ重要か? という点に関しては……

編集オペレーションの実際では、直接に「PV」を意識することはできません。PVは常に事後的に生み出されるものなので、記事を公開する前には、取得不可能な数値だからです。そこで、日常的なオペレーションでは、記事の「本数」が生産性を把握する基本の単位になります。
そして、記事の一本一本にかかった費用と、記事の一本一本が生み出したPVを、自分達の担当するサイトを構成するカテゴリ要素(ニュースサイトならば、「政治・経済」や「芸能」「スポーツ」)ごとに把握したり、情報の仕入先である外部ライターや、社外の情報提供元(通信社などニュースベンダー)の発注単位ごとに把握していきます。
紙メディアの編集業界では、文字量ごとに、なんとなく原稿料の相場がありました。しかしネットメディアになり、「PV」が通貨のような価値を持ってしまう現状では、下記のような状況が起こりえてしまうのです。

1記事5万円だけど、内容が凄く刺激的でいつも、ソーシャル中心にバズが巻き起こるので1本平均で50万PVも獲得できるライターのAさん
⇒PV獲得コスト=0.1円(5万円÷50万PV)

1記事3000円だけど、独自性の少ないネタを、リリース起こしで書くので1本平均1万PVしか読まれないライターのBさん
⇒PV獲得コスト=0.3円(3000円÷1万PV)

ウェブメディアにおいては、上記の比較では、1本あたりのギャラでBさんの20倍近くを取る、ライターAさんのほうが「安い」のです。ウェブメディアの編集者ならば、AさんとBさんのどちらを重用すべきか、といえば明らかにライターAさんでしょう。こういう背景に基づいて、フリーライターさんにも「格差社会」がやって来つつあるのかもしれません。(なお、この費用には、当然のことながら、PVの増減に関係なく発生してくる、サーバー費用や社員編集者の人件費などの固定費用を含めるべきではありません。シンプルにこういた編集費用の効果測定を実行するためには、直接に紐付いた発注金額(=キャッシュアウト額)だけで十分です。本稿は管理会計の話題は対象スコープではないので、これ以上は踏み込みませんが、メディア事業向けの管理会計というのは、もっと研究されてよいテーマだと思います。たとえばサーバー費用を固定費と見るべきかどうかは、このクラウド時代に大いに議論のある論点だと思います。)

また、トラフィック分析においても、いわゆる「20対80の法則」が当てはまるケースが非常に多いです。往々にして、上位10〜20%の記事が、大多数(=80%)のアクセスを生み出しているわけです。こういう場合、ウェブメディアの編集責任者は、自分のサイトの中でどの部分が、スイートスポットの上位20%にあたるのか、ぜひ把握せねばなりませんし、日頃の改善努力も、まずはそこに注ぎ込むべきでしょう。



また、単にPV乞食なだけではいけない理由として……

そして、ブランドがブランド足り得るためには、消費者が、作り手に対して、底の見えない深い井戸を覗きこんだように、得体のしれない尊敬や信頼を感じさせることが理想的です。メディア業の提供物は、手にとって触れたり、匂い嗅いだり、できないわけなので、読者から見た「メディアの品質」とはつまりは「その作り手を信頼できるかどうか。リスペクトできるかどうか?」問題とイコールになります。

そして、この文脈で言えば、日本のウェブメディアが、「クリックいくら? インプレッションいくら?」の焼畑ビジネスになってしまっていて、ブランド化できていない原因は、根本的には、メディアの作り手である、編集者やライターが、読者や広告主から獲得している畏怖の念にも似たリスペクトの量が足らないことが根本の原因ではないのだろうか、と私は思っています。

ネット上では、新聞や雑誌といった旧マスメディアに関わる大手企業の社員を指して「上から目線」の「勘違いマスゴミ」などと揶揄し、罵倒するムードがあります。私も、その気持ち自体はよく分かりますが、プロとしてメディアの世界で、満足に報酬を得ようとするならば、お客さんから「舐められてしまえば、商売あがったり」であり、一定の「上から目線」は、ある意味では、当然の前提なのです。

かつて雑誌の古き良き時代に一時代を作った良い雑誌は、私が思うに、その中に100ページ分の記事があるとすれば、本当に面白く読めるのは20〜30ページ、そして時間があれば読むというくらいの記事が40〜50ページで、最後まで「何が面白いのか良く分からない記事」というのが 20から30ページくらい含まれているものでした。
そして、今にして思えば、不思議なことですらあるのですが、その最後の難しくて、何だか良く分からないような記事ですら、「きっとこの雑誌に載っているからには、自分にとって価値のあることが書かれているに違いない。」「そういう記事を作り上げられる編集者は、自分の理解の範疇を超えた存在であって、凄い人達なのだ。」という感情が湧いたものでした。

現在の一般的なウェブサイトのコンテンツ編成は、全ての記事やカテゴリ、サイトコーナーで、同じように読者のウケを狙い、PVを取りに行くような記事ばかりになってしまっている例が多いのです。たとえ、メディア全体の「ステイタス」をあげるための格調高い(捨て)記事を作ったところで、リニア構造の雑誌と違って、ノンリニア構造のウェブ上では、読者には、記事の存在すら認識されずに、読まれる可能性がほとんどないのですから、良いも悪いもない現実とも言えます。
結果的に、読者のウケを狙ったような記事ばかりが、メリハリもなく金太郎飴のように、サイト内を埋め尽くし、読者は「あぁ、このサイトの編集者やライターは、PV乞食みたいに、PV欲しさで頭が一杯なんだな~。」「ネタとして考えていることも、だいたい自分の理解の範疇に収まるような、退屈な連中だな。」と思われてしまうでしょう。要するに「ナメられている」わけです。



まあ、引用しはじめれば、本当に重要な箇所ばかりなので、きりがない。

で、最後に田端さんの本の中で言及されていない事で、僕が重要だと感じている点をひとつだけ補足します。それはコミットメントということです。『MEDIA MAKERS-社会が動く「影響力」の正体』は一般のサラリーマンなども対象として書かれているので、ビジネスとしてのメディア論に限定した話ではありません。しかしビジネスとしてウェブメディアをやるのなら、コミットすることは、大切です。

なぜサーフィンの話を冒頭にしたか? と言えば、(オレはこのビジネス・ベンチャーに、コミットするべきか、しないべきか?)という、僕が感じた心の揺れを、読者の皆さんに伝えたかったからです。

メディアのレピュテーションというものは、一日にして確立するものではありません。ずっと継続して、毎日、ひとつひとつの記事をUPする毎に、「昨日より今日の方が、ほんの少し良い書き手、ないしはメディアになろう」という心掛けがなければ、前に進むことはできないのです。

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