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敏腕マーケターが伝授、リモート時代に「最高の壁打ち相手」を見つける方法

リモートワークが定着し、仕事について気軽に相談できる機会が減ったと感じている人は多いようです。企業のマーケティング活動に精通している桶谷功さんは、「煮詰まったときほど、同僚の“無責任発言”が効く」と言います。忌憚ない意見をくれる最高の壁打ち相手を見つけるには――。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paulynn

「壁打ち」をやらない日本企業

こんにちは、桶谷功です。

突然ですが、「壁打ち」という言葉をご存じでしょうか。もともとはテニスの球を壁に向かって打つ練習のことですが、最近は「自分の考えを試しに人に話して、その反応をみる」という意味でもよく使われるようになりました。

この「壁打ち」は外資系企業ではよく行われているのですが、なぜか日本の企業ではあまり行われていないようです。

例えば同じ飲料メーカーであっても、「お茶」と「水」と「ジュース」では、それぞれブランドごとにマーケティングの担当者が別にいる。それぞれみんな黙々と仕事をしていて、途中経過がシェアされません。もちろん最終的なプランの実行段階では統合されますが、日常的に気楽に壁打ちをしている感じはあまりない。これは非常にもったいないことだと思います。

1ブランドを複数人で担当する大改革

少し前のニュースですが、元キリンビバレッジ社長の佐藤章さんが湖池屋に社長として招かれました。そこで佐藤さんはある改革をした。それまで湖池屋では一人の社員が一つのブランドだけを担当していたのですが、一人が同時に複数のブランドを担当するようにしたのです。つまり一つのブランドにつき担当者を複数置くようにした。

そうなると、担当者は必ず誰かと話をすることになります。自然と壁打ちが生じるように組織の体制を工夫したわけですね。これはとてもよいやり方だと思います。

理想的な壁打ち相手とは

もちろん私自身、企画を立てるにあたり、「壁打ち」を非常に大事にしています。会社員時代は必ず壁打ちの相手を確保していましたし、会社をやめてフリーになってからも、一緒に仕事をしているプランナーやリサーチャーなどに壁打ち相手を務めてもらっています。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

会社員であれば、壁打ちの相手は自分の隣に座っている同僚がいいでしょう。その人が自分と違う分野を担当していればなお理想的です。その人はこちらの仕事の内容をほとんど知らないから先入観を持っていない。でもマーケティングの知識もあるし、社内事情にも通じているから、共通言語で話ができるというわけです。

そこで、「いま、こんなこと考えてるんだけどね……」と構想中の企画を説明したり、プレゼンの予行練習を見てもらったりする。

無責任な発言が超重要

白紙の状態の人が説明を聞くと、「なんでそうなるわけ?」と自然に疑問がわく。それをぜんぶ口に出してもらうのです。

「ターゲットが30代の女性なんだよ」とこちらが言えば、

「なんで女性なの?」というように。

「それは、これこれこういう狙いがあって、女性に絞ったんだよ」

「そうなんだ。でもそれだったら男性は?」

と言われると、「本当に男性はこの商品を使わないんだろうか?」という考えがチラッと浮かぶ。これこそ壁打ちの狙いです。

このように思いがけないフィードバックを得ることで、自分のプランの弱点がわかりますし、「それ、やりたいのはわかるけど、話が飛んでない?」というように、論理の弱さを指摘してもらえることもある。

一人で立てた企画には客観的な視点が欠けることは多いし、思い込みや思考の癖なども出てしまうものです。そこを、「全然納得できないんだけど」とか、「最初から女性って決めてるけど、何か偏ってない? 俺だったら男性をターゲットにするね」というようにいい意味で無責任に発言してもらうことで、自分の考え方の癖や偏りを指摘してもらえる。これは非常にありがたいことです。

正直に言ってもらう代わりに、こちらも正直に言う

このとき大事なのは、「遠慮なく、本音を言ってもらう」ことです。

日本企業で壁打ちがあまり行われないのは、「相手が一生懸命考えたプランにケチをつけたら悪い」とか、「相手の仕事に口を出すのはよくない」という遠慮が強いからでしょう。でも私からすれば、みんな「領海侵犯」をしてはいけないと思いすぎている。外資系企業でお互いに意見交換する文化があるのは、相手の率直な意見がどれほど役に立つかが経験的にわかっているからでしょう。

だから壁打ちの相手には「思ったことをなんでも正直に言って。こっちも正直に言うから」と言っておくことです。もちろんそう言ったからには、たとえ何を言われてもムッとしないこと。

そしてもう一つ大事なことは、こちらも相手の壁打ちに快くつきあうことです。

壁打ちを必要とするのは、「ここで最終チェックをしないと間に合わない」とか「アイデアが完全に行き詰まった」というような苦しいときが多い。だから相手に頼まれたらどんなに忙しくても自分も時間をとってつきあう。そういうギブアンドテイクの約束ができていると、非常に仕事がやりやすくなります。

今はリモートワークでみんなバラバラに仕事をしているかもしれませんが、それならzoomなどウェブ会議システムを使って同じことをすればいい。むしろ社内でダラダラやるより、能率がいいかもしれません。

壁打ちによくあるトラブルを防ぐには

壁打ちに慣れてくると、「俺だったらこうするな」というように、相手がいいアイデアを出してくれることがあります。おそらく自分の担当ではないので無責任でいられるぶん、自由に発想できるからでしょう。

何かアイデアを出してもらうと、「却下したら悪いかな」と思ってしまうかもしれませんが、必ずしも採用しなくてもいいし、相手の了承を得たうえで採用してもかまいません。しかし採用した結果、失敗しても成功しても、責任は自分にあります。このことは最初にはっきりさせておくほうがいいでしょう。そこを曖昧にしておくと、相手が「アイデアを盗まれた」と思うかもしれないし、自分も「あの人のアイデアを採用したら失敗した。あの人のせいだ」と思うかもしれない。こういうことにならないように、最初に話し合いをちゃんとしておくべきです。

私や私の壁打ち相手はよく、「いい案出しちゃったな。もしこれ採用した場合は、焼肉な!」などと言いますが、こんなふうに、おごったりおごられたりするのが一番いいかもしれません。

まずは自分から手の内を見せて、意見や感想を求めてみる。そして何か言ってもらえたら、「わあ、すごい助かった」とか、「おかげで大事なことに気が付いた」とお礼を言えば、相手も「いいことをしたな」と思って次からも協力してくれるでしょう。さらに「もし何かあったら、いつでも言ってね。私も壁打ち相手になるから」と言ってギブアンドテイクの関係になること。そうやって壁打ちの習慣をつくっていけるといいですね。

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桶谷 功(おけたに・いさお)
株式会社インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っている。
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(株式会社インサイト 代表取締役 桶谷 功)

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