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1998年の日銀法改正の意味

 中央銀行が政府からの独立性を得たのは、イングランド銀行にしろ、FRBにしろそれほど昔ではない。FRBではルービン元財務長官の働きが大きかったといわれる。ECBはドイツ連銀の流れを汲んでいるとともに、複数国を跨いでの中銀という特殊性からも独立性は当初から必要なものであった。そして、イングランド銀行の政府からの独立についてはブラウン氏が立役者となった(ただし黒幕もいた)。

 1997年5月にブレア政権が誕生し、ブラウン財務相は就任わずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、「独立性」を高めるという大胆な改革に踏み切った。

 この改革とは、イングランド銀行総裁、副総裁、理事、外部らの委員で構成される金融政策委員会へ政策運営権限を委譲すること、外国為替市場介入権限を部分的にイングランド銀行へ委譲すること、準備預金制度の法制化、銀行監督権限をイングランド銀行から分離し新設された金融監督庁へ移管すること、そして国債管理業務の財務省への移管などである。

 この世紀の大改革のシナリオはすでに5年前に書かれていたそうで、その著者は当時25歳の若さでブラウン氏から顧問に起用された「フィナンシャル・タイムズ」の記者、エド・ボールズであった。

 「万年野党に甘んじていた労働党が政権党として信頼を得るには、経済界、特に金融市場の信用が不可欠だとボールズ氏は考えていた・・・金融政策を政治から切り離し、イングランド銀行に任せることで、労働党は独自の経済政策に専念できると訴えていた。訴えは、そのままブラウン氏の政策方針となった。」(2005年5/3・10週刊エコノミスト「ロンドンで見たイングランド銀行 華麗なる改革史」より)

 1998年4月1日に日本銀行法の全文改正を内容とする、日本銀行法が施行されたが、これには上記のイングランド銀行の独立性を高める動きなどが影響したようである。また、これには国内要因も影響していた。

 1957年から1960年にかけて、金融制度調査会が中央銀行制度に関する広範な議論を行い「日本銀行制度に関する答申」をとりまとめたが、一部両論併記の答申ということで改正にはいたらず。その後、1965年頃にも法改正の動きがあったが、やはり実現しなかった。これは政府と日銀との関係をどのようにするのか、特に日銀の独立性を認めるべきかどうかといったことが争点になっていたのである。

 ところが、しばらく時が過ぎて、1996年あたりから再び日銀法を改正すべきだとの声が強まってきた。これは欧州の動きとともにバブルの終焉と、その後の金融界の構造変化も要因とみられた。バブル崩壊後の金融システム不安の原因は、金融システム自体に問題があったのではないかとの認識が広まり、その旧システムを支えていたのが大蔵省であり、旧日銀法に縛られていた日銀であった。

 1996年2月に、大蔵省(当時)改革プロジェクトチームが組織された。当時、一連の接待汚職などによる大蔵省不祥事に端を発して、金融改革に対する機運が盛り上がった。与党のプロジェクトチームが発足し、金融改革の大きな柱として上がったのが日銀法改正であった。大蔵省の影響化にあった日本銀行を、より独立色の高いものにしようとする試みである。それまで日銀法改正の試みは何度か行われても実現には至らなかったが、思わぬかたちで改正の機運が高まった。

 日銀法改正の行方は、金融制度改革問題に取り組む与党プロジェクトチームにかかっていたとされる。1996年4月にプロジェクトチームが日銀に乗り込み、改革の火蓋は切られたが、この日銀法改正についてはかなり難航したようである。そもそも本来議員立法にて行うべきものと見られたが、結局、大蔵省が事務局となっている金融制度調査会が中心となって進められた。

 このあたり、当事者の方に是非、話を聞いてみたいようにと思われる。何故、日銀に独立性が必要であったのかを、この日銀法改正のことを参考に訴えていただきたいと思う。世界の歴史の流れは中央銀行にはしっかりとした独立性が必要であることを認識させてきた。それにもかかわらず、ここにきて日銀の独立性を歪めるような日銀法改正の動きが出てきている。このような歴史の流れに逆行するような動きには断固反対である。

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